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0235 お家に帰ろ

「グアアアアアーーーーー、ゴオオーーーー」「スー、スーー」


左馬之助も響子さんも、他の義弟達も気持ちよさそうに眠っている。

この部屋の両サイドのふすまも開放されて明智家の重臣が、これまた気持ちよさそうに眠っている。

この世界では、今は酒も超貴重品だ。酒1リットルは、金1キロに相当するだろう。


それを惜しげも無く振る舞ってくれた。

重臣の寝顔もなんだか嬉しそうだ。

明智家は一致団結して、日本人の為に行動してくれそうだ。


俺はそっと庭に出た。

そして、見晴らしの良さそうなビルを捜した。




「ふふふ、来て良かった」


ビルからの篠山の夜の景色は美しかった。

篠山城のまわりに城下町が広がり、そのまわりを田園が包みさらに山々がそれを包んでいる。

町には、光がいくつか見える。


「大勢、人が住んでいそうですね」


「桃井さんですか」


「し、失礼しました」


桃井さんが、姿を現してくれた。


「アドもいるニャ」


「あなた達は眠らないのですか?」


「私は、任務中はこれで眠らないようにしています」


桃井さんが出したのは回復剤だ。

栄養飲料に俺が魔力を込めたもので、状態異常も回復する。

眠気は、状態異常と判定されるのか、回復剤を飲めば眠気知らずだ。

ヒロポンのように中毒性もないようだ。

ちなみにヒロポンとは、疲労がポンと無くなることからついた麻薬の名前だ。覚醒剤のことだ。


「アドは、ご主人様と同じで眠りは必要ないニャ。ゴミ処理をすればお腹も空かないニャ」


な、なんだって、俺と同じじゃねえか。

まさか、蜂蜜さんがあの時、分裂してアドを助けてくれたのか。

じゃあ、もしかしてゲンも……。

だから、二人とも金髪になったのか。


「それでも、眠れるでしょう。ふふふ、古賀忍軍もアドも働き者ですね」


「大殿は、なんだか上機嫌ですね」


「そう見えますか」


「あの、なぜ、明智様に織田家の情報をお聞きにならないのですか?」


「ふふふ、それは、守秘義務という奴ですよ。いいえ、明智なら何でも教えてくれそうですが、俺が聞きたくない。織田家の情報は俺が乗り込んで調べますよ」


「えーーっ!! またですか!」


えーーっ!

桃井さんが、疲れた表情になった。

俺って、古賀忍軍にどう思われているのだろうか。

まあ、良くは思われていなさそうだ。


「いつ行くニャ? いまからか?」


アドの目がキラキラ輝く。

アドは越前へ行きたいようだ。


「あはは、まずは京都へ行きます。冴子さんが心配だ。でも今からではありません。明日、大阪に帰りのんびりお風呂に入ってその後です」


上杉もスケさん達も生身の人間だ。

休養は必要だ。休みも無く働かせるようなことは出来ない。


「冴子さんを捜すのですか。それなら京都ではなく、行き先は安土ですね。羽柴軍の本陣は安土城跡にあります」


「安土城跡……かつて日本一の城があった場所ですか」


ここからは、見えるわけは無いのだが、安土城の方を見た。


「お、恐れながら。安土城は、ここからなら、ほぼ東になります」


俺がなんで安土城の方を見ているのがわかったの?

北を向いて、目を細めた俺に桃井さんが教えてくれた。

あー、目を細めたからかー。


「コホンッ」


俺は咳払いをして、ビルの屋上を東に移動して目を細めた。


「ぷっ、か、かわいいですね」


「かわいいニャ」


ちっ、この二人には俺はどう写っているんだ。

二人でコソコソ言いながら笑っている。

俺はしばらく見えない安土城を見ながら、これまでの事を思い出していた。

桃井さんもアドも何も言わずに、ずっと黙って後ろに立っている。


姿を消している時もこうして、俺を見守ってくれているのか。

たいへんだなあ。感謝しかない。


――って、俺のプライベートは?


いままで、変なことしていないよなあ。

……あー、変なことしかしてねーや。まあいいか。




「それでは、お世話になりました」


上杉が明智に頭を深々と下げた。

明智家総出で見送りに出てくれている。


「じゃあなあ長兄、新政府軍の事は任せてくれ」


「無理して怪我しねーようにな」


俺は、こっそり明智と左馬之助に強化の魔法を、ほんの少しだけかけておいた。

別名去勢と呼ばれている魔法だ。

少しだけだから、女で失敗しない程度になっているはずだ。


藤田班長のいる関所を抜けると、俺達は全速で大阪城を目指した。




「お帰りーー!!」


大阪城へは午前中に着いた。

あずさの出迎えで真っ黒な魔王城、大阪城本丸御殿へ入った。


「ただいま、あずさ。上杉、スケさんカクさん、響子さんカノンちゃん、明日の夕方までゆっくりしてくれ。本丸御殿を自分の家と思ってくつろいでくれ」


俺の両手をつかんで離さないあずさとヒマリを見て、五人は少し席を外してくれた。

尻のあたりがモゾモゾするのは、アドが姿を消したまましがみついているためか。

お前は昨日も一緒だったじゃねえか。まったく。


「お帰りなさい」


手を引っ張られて連れて行かれた先は小さな部屋だ。

ここは、木田産業の社長室のようになっている。

応接セットと社長の机がある。

全て、真っ黒の金属製というのが違うが、ちゃんと再現されている。

当たり前だ、俺がそうしたのだから。

あずさは、城の中をくまなく見て回ったのだろう、探し当てたようだ。


そこで、古賀さんとミサが待っていてくれた。


「ただいま」


俺は凄く贅沢なのじゃないか。

響子さんとカノンちゃんみたいな美女と別れて、また美女に笑顔で迎えられているのだから。


俺は三人掛けのソファーに座った。

両隣はこれまた贅沢に、絶世の美少女二人だ。

だが、なんだか俺はこの状況になれてしまった。

懐かしい木田産業の社長室は、とても落ち着く。

この部屋に入ってから、あずさがずっと俺の顔を穴があくほど見つめている。


そして、恥ずかしそうにもぞもぞ俺のヒザの上に乗ってきた。

俺にもたれかかり体を預けると、はらりと一粒涙を流した。


「ねえ、とうさん。ゲームしにお家に帰ろっ」


そうだ、あずさにとっては、ここは家じゃ無い。


「いいとも、ヒマリと三人で行くか」


俺達は、木田産業の旧社屋、社長室に移った。

旧社屋には人が一人もいなかった。

ゲン一家は仙台にいるので、留守番がここにはいないようだ。

まるで廃墟だが、掃除だけはしてくれているようで中は綺麗だ。

社長室の扉を開けると、あのガイコツのようなあずさの姿が一瞬見えた。


「やっぱり、ここだなあ」


あずさが真面目な顔をして大きくうなずいた。

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