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0234 丹波篠山の誓い

「あー、スケさん、カクさん、ちょっと違いますよ」


俺は、やりきって満足げな二人に言った。


「えっ!?」


「これじゃあ、せっかく隠していた正体が、バレてしまいました」


「隠していたのですか?」


「そうですね。今更ですが隠していました。隠しきれると思っていました」


「そんなことより、いつ織田を裏切ればいいんだ」


左馬之助が、恐ろしい事を言って割り込んできた。


「う、裏切る必要はありません」


「えっ、兄者は裏切りの天才だ。なにしろ本能寺であの信長を殺したのだからな」


「馬鹿もん、左馬之助! それは俺じゃねえと言っているだろうが!」


「ひひっ」


左馬之助がいたずら小僧のような表情で笑う。

左馬之助の奴、信長を殺したって言いてーだけじゃねーか。


「俺は、裏切りはきれーだ。忠義を尽くすことこそ、日本人の美徳だと思っている。明智家はこのまま織田家に忠義を尽くしてくれ。そして、木田家との橋渡しを頼みたい」


「ふふふ」


左馬之助が意味深な笑いをした。

こいつ、まさか俺を試したのか。

見た目と違って、頭が切れる奴なのか?


「だから俺は、お前達と義兄弟のちぎりを結びたい」


「な、なんと!?」


明智が驚いた。

どうやら、意表を突く事に成功したようだ。


「桃園の誓いにならい、丹波篠山の誓いだ」


「ふーーむ」


明智と左馬之助がうなっている。

俺が言いたいことが伝わらないようだ。

もう少しわかりやすく言わねえといけねえか。


「俺達が本当に忠義を尽くす先は日の丸だ。日本を一日でも早くあの頃の日本にしたいと思っている。日本人の為になるように、明智は織田家で、俺は木田家で頑張るのさ」


「それは、すなわち織田家が、日本人に害を及ぼすようなら打ち倒せと言う事になりますが」


「ふふふ、その時こそ、明智光秀が本能寺で信長を討ったように、織田家を打ち倒す時ではありませんか。その行為は裏切りではありません。日本国への忠義に他なりません」


「ふむ」


「もし、よろしければですが、日本国に忠義を尽くす者同士として義兄弟のちぎりを結びたいと思うのです」


俺は律儀者の明智が乗りやすい条件を出して見た。

案外、光秀が信長を討った原因も、こんな所じゃ無いのだろうか。


「左馬之助!!」


「はっ!!」


「酒宴の用意をせよ!! もみじ肉を忘れるな!!」


「おう!!」


「あー、これもお使い下さい。そして家臣の方の分もご用意しました」


俺は、カバンから出すふりをして、マグロと醤油を出した。

百キロ位のマグロを十本程出して渡した。

原産地ハワイの立派な奴だ。




「長兄、頼む」


左馬之助が俺に言った。

酒宴の準備が終わり、俺に一言、言えというのだろう。

俺はこういうのが一番苦手なんだがなあ。


「今日これより、我ら八人は日本人の為、日の丸に命をかけて忠義をつくす兄弟となる。住まう場所は違えども心は一つだー」


「おおおーーー、俺の目標が決まったー! 長兄ありがとう!」


左馬之助が泣いている。

どうやら、左馬之助は、生きる目標を失っていたようだ。

俺が、盃に口を付けると、全員が盃を空にした。

木田とう、上杉、スケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃん、明智、左馬之助の八人による。義兄弟のちぎりが終った。


律儀者の明智はきっと、日本人の事を一番に考えて行動してくれるはずだ。

だが、それは、俺が日本人に害を及ぼすと判断されたら、明智から命を狙われるということになる。信長のようにはならないように気をつけないと……。


「長兄、教えて欲しい。始めにわが明智家は何をすればいい」


「まずは、打倒新政府です。私利私欲に心を奪われた政治家の国です。国民の事は何も考えていません。日本国民の為、新政府軍は倒さねばなりません」


「うむ、なるほど」


「同じぐらい倒さないといけないのが柴田です。あいつは日本人を憎み、越中の兵士だけじゃ無く住民まで皆殺しにしました。許してはおけません」


「ふ、ふむ」


「柴田は、俺が倒します。明智家は今まで通り新政府と戦って下さい」


「わかりました。ふふふ、一日も早く、日の本を長兄のもとにお渡しできるよう頑張りましょう」


「はっ!?」


まてまて、なんで俺に渡すんだ。

それじゃあまるで、俺が日本を手に入れようと野望を持っているみたいじゃねえか。


「いただきまーす!! うわあーおいしい!!」


まてまて、話が終ったと思ってか、響子さんとカノンちゃんが料理を食べ始めた。

おーーい。まだ話は終ってねえ。

はやく、否定しないと。


「ち、違うぞ、明智」


「長兄!! このマグロ、めちゃくちゃうめーー!!」


「だろう、それはハワイで取ってきたマグロなんだ」


じゃねえ、否定させろよ!!


「ち、ち……」がうよ


「八兵衛さん、野菜がとても美味しい」


俺が違うと言おうとしているのに、響子さんが話しかけてきた。

響子さんが丹波産の野菜を食べて喜んでいる。


「よ、良かったですねー」


「あーーっ、私、未成年でしたー」


「はーーっ、なんだってー、カノンちゃん未成年なのかよ」


くそう、美人の歳はわからねえ。

響子さんはアラフォーのはずだが二十代後半にしか見えねえ。

逆にカノンちゃんも二十代半ばにしか見えねえ。

二人並ぶとまるで姉妹だ。

一体何歳なんだよ。


「十七歳なのよねーー、大丈夫かしら」


ぐはっ、け、結婚出来る歳だけどー。


「ははははっ! この世界にはすでに法律はありません。明智家では十六歳から飲酒は合法です」


「ほっ、よかった」


「ぐわあーー、はっはっはっ! 長兄にはやく日の本をまかせたいぜーー!!」


「はあーーーっ、ちょっとまてーー、左馬之助」


こ、こいつ、何を言い出すんだ。

酔っ払っているのか?


「おおおおおおおーーーーーー!!!!」


全員が歓声を上げた。

明智の家臣達からも大声が聞こえる。

はーーっ、やれやれだぜ。

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