上の階は無人だった。
「おいおい、映画とか漫画を読んだことが無いのかよう。普通は各階に配置しておくもんだろうがよー。ここいらで外人の強いのが出てくるもんだろー」
独り言を言いながら昇った。
だってよー。薄暗くて気持ちわりいんだもんよー。
そして、何やら不気味な気配がする。
これがハルラの気配なのだろうか。
全身の毛穴が閉まって、豚なのに鳥肌になった。
「はーーっ、はーーっ」
くそう、まるで心霊系ウーチューバーだ。
呼吸音が大きく、長くなる。廃墟探索かよ!
やっと、上の階に着いた。
嫌な気配がどんどん大きくなる。
いくつかの部屋を過ぎたが、全て無人でその分余計に不安と、嫌な気配が強くなる。
最上階は次の階のようだ。
階段を一段上るのにも時間がかかる。
足が鉛のように重いとはこういうときに使うのだろうか。
最後の一段を昇り終ると、部屋の中を見渡した。
その瞬間、目の前が真っ白になった。
大阪城がオレンジ色に輝きました。
「きゃああああああーーーーーー!!!!」
通天閣の中に悲鳴が響きます。
アンナメーダーマンのことを心配していた者達の心からの叫びでした。
大阪城は白煙に丸く包まれると、その姿が水中のように揺らぎました。
と、同時に荒野に透明の線が出来て、こちらに向って走って来ます。
「きゃああああーーーーー!!!!」
もう一度悲鳴が上がりました。
爆風が、ガラスを全部吹飛ばし、建物をガタガタ揺らします。
まるで、大きな地震の様です。
爆風が、部屋の中に吹き荒れ、建物の揺れと風でまともに立っていられません。
ドオオオオオーーーーーーンンン!!!!!
音が遅れてやって来ました。
爆風が音速を超えていたようです。
大阪城はそのほとんどが吹飛び、上空にキノコ雲が上がっています。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
崩れた大阪城を見つめ、古賀忍軍の中から泣き声が聞こえます。
私の太ももに、猫耳メイドの幼女が捕まって震えています。
ストッキングが幼女の握った手の中に引っ張り混まれて、大きな穴が空きました。
幼女は無意識にその穴に指を突っ込み、私の太ももの地肌をクリクリしています。ですが、幼女の目は燃える大阪城に釘付けになっています。
「核兵器かしら?」
私は割れた窓から、次々吹き込む風にスカートを巻き上げられながら、知らず知らず言っていました。
「ミサさん。それは無いと思います。日本には核兵器はありません。ですがあの爆発は、関西の爆発物を可能な限り全部集めてあったと思います」
古賀さんが答えてくれました。
「あの人は、こうなる事を想定していたのでしょうか?」
「おそらくは……。そうでなければあれほど、同行をきつく断らないはずです」
「犠牲は、自分だけで良い……」
「……」
「あの人が考えそうなことです」
「うっ」
古賀さんまで泣き出してしまいました。
「うわああああーーーん」「うわーーん」
古賀忍軍の子達が大声で泣き出しました。
「そ、そんな……」
上杉ちゃんがひざから崩れ落ち、肩をふるわせます。
「大殿ーー、大殿ーー」
伝令の為詰めていた、各部隊の連絡係の方達も大粒の涙を落とし泣いています。
私は、心の中であの人に呼びかけます。
……
でも、返事がありません。
あれだけの爆発です。
無事でいられるとは思えません。
「皆さん、あれは何なんですか? ハアハア」
凄い勢いで、五人が割れた窓から飛び込んできました。
スケさんとカクさん、響子さんとカノンさん、そしてノブ君です。
響子さんが息を切らして質問してきます。
「お、恐らく。アンナメーダーマンをおとしいれる為の新政府軍ハルラの策略かと」
古賀さんが答えました。
「じゃあ、ハルラは?」
「恐らく、いなかったのではないでしょうか」
「では、シュウ様を殺すためだけに、大阪城を爆破したのですか?」
「そうですね。それだけハルラは、アンナメーダーマンを恐れていたのでしょう。あれだけの大爆発を起こさないと殺せないと考えたのでしょうね」
「あ、あの、シュウ様は無事なのでしょうか」
「……」
私も、古賀さんも首を振りました。
「嘘だーーー!!!!」
ノブ君が絶叫しました。
「うっ、うっ、うっ。俺は疫病神なのか! 俺の大切な人は、みんな次々死んでしまう。俺はシュウさんと出会わない方がよかったんだーー!! うわあああああーーーーーー!!!!」
ノブ君の悲痛な叫び声が響きます。
全員の顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっています。
ドーーーーン!!!!
「!?」
空から何かが落ちてきて、天井を突き破り、床もぶち抜いて下に落ちました。
なにか、肌色の固まりでした。
床に空いた穴をのぞき込むと地面に何かが転がっています。
「豚の死骸でしょうか?」
カノンさんが言いました。
もし、豚の死骸ならあの人しかいません。
しかも、あの爆発で粉々に吹飛ばず豚の形のままです。
私達は、すぐに豚の死骸のまわりに集りました。
珍しく目を回しているみたいです。
服は吹飛び、全裸でうつ伏せになって倒れています。
間違いありません、肌色の豚です。
「ねえちょっと!!」
私は肌色の豚の背中をゆすってみました。
「あ、あずさ。お花畑がきれいだなー……んっ。んっ。な、なんだここは」
「ぎゃあーはっはっはっはっはっは」
まわりに集った人達が爆笑しています。
……って、あずさちゃん生きていますからね。
お花畑にいたらおかしいでしょう。
「うわああ、なっ、なっ、なんで裸なんだ。これではお婿さんにいけないーー!! くそーー、お婿さんのもらい手がいなくなってしまうーー」
「それなら、大丈夫です。私がもらいます」
うわっ! つい、言ってしまった。
ちょっと待って、ここにいる女性が全員同じ事を言いやがりました。
スケさんとカクさんまで言っています。
「えーーそうなのかー。よっこらせと」
あの人が、立ち上がりました。
馬鹿なのでしょうか。
全裸という事を忘れています。
「ちっさ!!」
全員が声をだしました。
「見るなーー」
そういうと激豚パンツをはきました。
「ところで、だれが婿にもらってくれるって?」
「……」
誰もそれには答えませんでした。
可哀想すぎです。
わ、私は、小さくても、もらってもいいのですが、言えませんでした。