目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0226 ハルラの策略

上の階は無人だった。


「おいおい、映画とか漫画を読んだことが無いのかよう。普通は各階に配置しておくもんだろうがよー。ここいらで外人の強いのが出てくるもんだろー」


独り言を言いながら昇った。

だってよー。薄暗くて気持ちわりいんだもんよー。

そして、何やら不気味な気配がする。

これがハルラの気配なのだろうか。

全身の毛穴が閉まって、豚なのに鳥肌になった。


「はーーっ、はーーっ」


くそう、まるで心霊系ウーチューバーだ。

呼吸音が大きく、長くなる。廃墟探索かよ!

やっと、上の階に着いた。

嫌な気配がどんどん大きくなる。


いくつかの部屋を過ぎたが、全て無人でその分余計に不安と、嫌な気配が強くなる。

最上階は次の階のようだ。

階段を一段上るのにも時間がかかる。

足が鉛のように重いとはこういうときに使うのだろうか。


最後の一段を昇り終ると、部屋の中を見渡した。

その瞬間、目の前が真っ白になった。






大阪城がオレンジ色に輝きました。


「きゃああああああーーーーーー!!!!」


通天閣の中に悲鳴が響きます。

アンナメーダーマンのことを心配していた者達の心からの叫びでした。


大阪城は白煙に丸く包まれると、その姿が水中のように揺らぎました。

と、同時に荒野に透明の線が出来て、こちらに向って走って来ます。


「きゃああああーーーーー!!!!」


もう一度悲鳴が上がりました。

爆風が、ガラスを全部吹飛ばし、建物をガタガタ揺らします。

まるで、大きな地震の様です。

爆風が、部屋の中に吹き荒れ、建物の揺れと風でまともに立っていられません。


ドオオオオオーーーーーーンンン!!!!!


音が遅れてやって来ました。

爆風が音速を超えていたようです。


大阪城はそのほとんどが吹飛び、上空にキノコ雲が上がっています。


「うっ、うっ、うっ、うっ」


崩れた大阪城を見つめ、古賀忍軍の中から泣き声が聞こえます。

私の太ももに、猫耳メイドの幼女が捕まって震えています。

ストッキングが幼女の握った手の中に引っ張り混まれて、大きな穴が空きました。

幼女は無意識にその穴に指を突っ込み、私の太ももの地肌をクリクリしています。ですが、幼女の目は燃える大阪城に釘付けになっています。


「核兵器かしら?」


私は割れた窓から、次々吹き込む風にスカートを巻き上げられながら、知らず知らず言っていました。


「ミサさん。それは無いと思います。日本には核兵器はありません。ですがあの爆発は、関西の爆発物を可能な限り全部集めてあったと思います」


古賀さんが答えてくれました。


「あの人は、こうなる事を想定していたのでしょうか?」


「おそらくは……。そうでなければあれほど、同行をきつく断らないはずです」


「犠牲は、自分だけで良い……」


「……」


「あの人が考えそうなことです」


「うっ」


古賀さんまで泣き出してしまいました。


「うわああああーーーん」「うわーーん」


古賀忍軍の子達が大声で泣き出しました。


「そ、そんな……」


上杉ちゃんがひざから崩れ落ち、肩をふるわせます。


「大殿ーー、大殿ーー」


伝令の為詰めていた、各部隊の連絡係の方達も大粒の涙を落とし泣いています。

私は、心の中であの人に呼びかけます。


……


でも、返事がありません。

あれだけの爆発です。

無事でいられるとは思えません。


「皆さん、あれは何なんですか? ハアハア」


凄い勢いで、五人が割れた窓から飛び込んできました。

スケさんとカクさん、響子さんとカノンさん、そしてノブ君です。

響子さんが息を切らして質問してきます。


「お、恐らく。アンナメーダーマンをおとしいれる為の新政府軍ハルラの策略かと」


古賀さんが答えました。


「じゃあ、ハルラは?」


「恐らく、いなかったのではないでしょうか」


「では、シュウ様を殺すためだけに、大阪城を爆破したのですか?」


「そうですね。それだけハルラは、アンナメーダーマンを恐れていたのでしょう。あれだけの大爆発を起こさないと殺せないと考えたのでしょうね」


「あ、あの、シュウ様は無事なのでしょうか」


「……」


私も、古賀さんも首を振りました。


「嘘だーーー!!!!」


ノブ君が絶叫しました。


「うっ、うっ、うっ。俺は疫病神なのか! 俺の大切な人は、みんな次々死んでしまう。俺はシュウさんと出会わない方がよかったんだーー!! うわあああああーーーーーー!!!!」


ノブ君の悲痛な叫び声が響きます。

全員の顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっています。


ドーーーーン!!!!


「!?」


空から何かが落ちてきて、天井を突き破り、床もぶち抜いて下に落ちました。

なにか、肌色の固まりでした。

床に空いた穴をのぞき込むと地面に何かが転がっています。


「豚の死骸でしょうか?」


カノンさんが言いました。

もし、豚の死骸ならあの人しかいません。

しかも、あの爆発で粉々に吹飛ばず豚の形のままです。

私達は、すぐに豚の死骸のまわりに集りました。

珍しく目を回しているみたいです。


服は吹飛び、全裸でうつ伏せになって倒れています。

間違いありません、肌色の豚です。


「ねえちょっと!!」


私は肌色の豚の背中をゆすってみました。


「あ、あずさ。お花畑がきれいだなー……んっ。んっ。な、なんだここは」


「ぎゃあーはっはっはっはっはっは」


まわりに集った人達が爆笑しています。

……って、あずさちゃん生きていますからね。

お花畑にいたらおかしいでしょう。


「うわああ、なっ、なっ、なんで裸なんだ。これではお婿さんにいけないーー!! くそーー、お婿さんのもらい手がいなくなってしまうーー」


「それなら、大丈夫です。私がもらいます」


うわっ! つい、言ってしまった。

ちょっと待って、ここにいる女性が全員同じ事を言いやがりました。

スケさんとカクさんまで言っています。


「えーーそうなのかー。よっこらせと」


あの人が、立ち上がりました。

馬鹿なのでしょうか。

全裸という事を忘れています。


「ちっさ!!」


全員が声をだしました。


「見るなーー」


そういうと激豚パンツをはきました。


「ところで、だれが婿にもらってくれるって?」


「……」


誰もそれには答えませんでした。

可哀想すぎです。

わ、私は、小さくても、もらってもいいのですが、言えませんでした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?