大阪城南側の戦場で戦うのは、木田軍最強の精鋭である。
赤い真田の部隊は三百人の重装歩兵だ。
機動陸鎧と当世具足の中間の性能と大きさの鎧で、攻撃力と防御力のバランスがいい。
そして、黒い当世具足は七百人、尾張と藤堂の部隊だ。見た目は戦国時代の甲冑で、機動性、攻撃性を重視してあり、防御力はその分落ちる。
黒い当世具足隊と、赤い重装歩兵隊が、パッと引き新政府軍十番隊との距離を取った。
すでに、新政府軍十一番隊の兵士は、千人以上倒れたまま立ち上がれなかった。それを補充するように、城から千人の援軍の姿が近づくのが見える。
「どうした? なにがあった?」
状況がわからない新政府軍の兵士達が慌てている。
引いた、木田軍は左右に分かれ一本道を作ると、膝をつき頭を下げた。
その中央に一つの人影が歩いている。
荒野の具合を確かめるように一歩ずつ確かな足取りで近づく。
「何者だーー!!」
援軍で駆けつけた部隊の隊長が叫んだ。
「俺かー! 俺は、お尋ね者のアンナメーダーマンという者だ。だが木田家では、正義のヒーローと言われている」
落着いた口調で言った。
「アンナメーダーマン……アンナメーダーマン」
新政府軍の兵士がザワザワする。
アンナメーダーマンは足を止めること無く進み。
木田軍の中央を通り過ぎた。
たった一人で、臆すること無く敵軍に近づく。
「全軍整列しろ!!」
援軍の隊長が声を上げた。
その言葉を聞くと、呆然としている兵士達が我に返り、倒れている兵士を後ろに運び、グチャグチャに乱れていた隊列を組み直した。だが援軍の兵士以外は、満身創痍で立っているのもつらそうだった。
すでにアンナメーダーマンは、木田軍と新政府軍の中間まで進んでいる。
「き、貴様は、正気なのか?」
ずいぶん減ってはいるが、援軍を加えると三千弱はいる。
そこに、武装もせずジャージ姿で、近づいてくるのだ。
驚くのも無理は無い。
「そろそろ、いいぜ!」
敵軍の部隊長の質問に、俺は正気だと答えるようにいった。
そして、あおるように手招きをする。
「ふっ、ふざけるなーーー!!」
ツバを大量に飛ばして、部隊長が叫んだ。
「来ねーなら、こっちから行くぞーー!!」
アンナメーダーマンは叫ぶと、走り出した。
「ころせーーー!!!!!」
「おおおおおおおおーーーーーー!!!!」
三千人が雄叫びを上げると走り出した。
新政府軍十一番隊全員の目が血走って真っ赤になっている。
痛みのためかフラフラしていた兵士まで、元気いっぱいになっている。
整列していた兵士達が、一本の槍のようになりアンナメーダーマンにむかった。
ドン、ドン
後ろにいる兵士達には何が起きているのか解らなかった。
ドッ、ドッ、ドッ
音の間隔が狭くなる。
ドドドドドドドドーーー!!
とうとう滝のような音になった。
そして、最後尾の兵士達にも何が起きているのかわかった。
「ひ、人が降っている」
大量の兵士が宙に放り上げられ、落ちているのだ。
最後尾の兵士が言い終わった時には、その降ってくる兵士に押しつぶされた。
「な、なんなんだ!? お前はーーー!! お前はなんなんだーーー!!!」
部隊長が震える唇で言った。
アンナメーダーマンは、部隊長の顔にキスが出来るほどに近づき言った。
「アイ、アム、アン、アメーバーマン」
アンナメーダーマンはそれをネイティブな言葉で言った。
「……アンナメーダーマン」
隊長にはそう聞こえたようだ。
アンナメーダーマンは、隊長には何もせず通りすぎた。
だが、隊長はガックリ、ヒザを折るとふたたび立ち上がれなかった。
アンナメーダーマンの後ろには、三千の兵の横たわる姿があった。
数分はかかっていたはずだが、見ている者には数秒に感じられた事だろう。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
「あれだーー、あれがアンナメーダーマンの力だーーー!! あれがアンナメーダーマンの強さだーーー!!!!!」
「あ、あれこそが我らの大殿だーーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
アンナメーダーマンの後方の木田軍から歓声が上がった。
「きゃああーーーー!!! かっこいいーーー!!!」
通天閣の中でも黄色い歓声が上がっていた。
アンナメーダーマンは、何事もなかった様に歩き出すと、一度だけ大阪城を仰ぎ見た。
大阪城天守閣に向うアンナメーダーマンの姿を見ると、城を護るはずの守備隊の兵士達は震え上がり何も出来なかった。
それどころか、逃げ出す者まで出る始末だ。
アンナメーダーマンはそれを狙っていたのかもしれない。
パーーン
銃声がした。
「やれやれだぜ。まだ銃を持っている奴がいるのか。ジャージに穴があいちまったなあ」
撃った兵士の横へ一瞬で移動すると、穴の上をはたきながら言った。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃーーーー」
腰が抜けたようになり、尻餅をついたまま逃げ出した。
ヘルメットのため、アンナメーダーマンの表情がわからない。
まわりにいる兵士達は、それが気持ち悪かった。
「銃も効かねえのか、まったく本物のバケもんだなあ」
一人の男が近づいてくる。
よく日に焼けた黒い肌の、神経質そうな男だった。
だが、眼光だけはやけにするどい男だった。
「辻隊長だ!!」「隊長だーー!!」
まわりの兵士から歓声が上がった。
「全ぐーーん!! てったーい!! おい撤退だ逃げて行け!」
隊長は、横で呆然としている。部下の足を蹴った。
「いい判断だ。隊長あんたは逃げねえのか?」
「ふふふ、せっかく会えたんだ。少し遊んでくれねえか」
やっべーー。なんだこいつ、ちょーこえー。
外の兵士は、上に持ち上げたら、たまたま、あんなことになったが、そもそも俺は人を殴れねえんだよ。
「俺は先を急いでいる。邪魔をしねーでくれ」
「なあ、あんた、部下は全員殺してしまったのか?」
「さあな、殺そうとは思っていねえ」
なんだこいつ、ぶっ飛んでいると思ったが、部下の心配をしてヤーがる。良い奴なのか。
「そうか。なあ、あんた。どこへ行く気なんだ」
俺は、応える代わりに大阪城天守閣の最上階を指さした。