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0223 いざ大阪城

入って来たのは上杉と古賀忍軍の一人だ。

見ると上杉の顔色が悪い。

目から光が消え、顔から表情が消えている。

あまりにも整った顔だからか、あずさの昔の顔を思い出す。


「何があったのですか?」


俺が聞くと、上杉の唇が震えだした。


「申し訳ありません」


通天閣の床にヒザをつくと額まで床につけた。古賀さんの配下の忍者まで同じようにしている。

まずいなあ。

配下がこれほど怯えるとは。俺は相当暴君の様に思われているのだろうか。

これでは、まるで本能寺前の織田信長じゃないか!


「待って下さい。顔を上げて下さい。俺は上杉に、そこまでしてもらうほどの人間じゃありません」


「いいえ! いいえ! 大殿ほどのお方を私は知りません」


「えっ!?」


「大殿よりいただいた、あの機動陸鎧。その強さに感服いたしました。それだけではありません。今回の作戦も見事と言うほかありませんでした。明智を予想したような我軍の配置。逃げる女性にはパンツまで用意しておられました。まるで未来を見てきたようでございます」


女性のパンツは趣味のために、たまたま持っていただけだ。


「ぷっ」


ミサが噴き出した。

あいつ、俺の心を読んでいるな。


「それなら明智軍との戦い、問題があったようには思えませんが、何があったのでしょうか?」


「はっ、日本人の命を二千人以上奪ってしまいました。も、申し訳ありません」


なるほど、そういうことか。

俺が、不殺と言いすぎているためにこの有様か。

上杉の目から光を奪い、表情まで奪ってしまったのか。

何をやっているんだ。


さて、どうするかな。

すでに上杉は、自分で反省している。

そんな人間に「何をしているのかー」と言うのは簡単だ。

でも、その必要はない。反省している人間には優しくしないとな。

とはいえ、何も無しでは、上杉の心が晴れないだろう。

むずかしいなあ


上杉は、俺の事を勝手に過剰評価している。

それを何とかして、そのうえで適度な罰を与える……。そうだ名案が浮かんだ。


「上杉。お前は、この戦いが終ったら。俺のもとで、しばらく生活しろ! そして俺の身の回りの世話をするんだ」


「えっ!? しょ、しょれは。同棲しろということですか?」


「んっ? 同棲ではないな。同性だからな。男どうし腹を割って、生活するんだ。お前は俺を勘違いしている。共に生活すれば俺の事を良く理解出来るだろう。それを今回の罰とする。嫌か? だが罰だからな嫌々の方がいい」


「い、嫌ではありません。むしろごほ……ゴホンゴホン」


まあ、この生活で、俺がどうしようも無い、オタクの底辺おじさんだと解るだろう。

過剰なまでの畏怖を拭い去ることが出来るはずだ。

拭い去りすぎるかもしれないなー。


なんだか、上杉の顔に血が巡り、赤くなっているように見える。

紫色だった唇も、赤く美しくなった。

適度な罰を与えられて心が軽くなったのだろう。


「上杉、次からは殺し過ぎないようにな」


「はっ、ははぁー!!」


「あのー、二人きりで生活するのですか」


置き去りにされた忍者が聞いて来た。

その質問を聞くと、ミサと古賀さんが、忍者の顔をものすごい形相で見つめた。


「ふむ、そのつもりだが何か」


「何かではございません。それならば、その場所にいた私も同罪です。同じ罰をお与えください」


「えっ!? だがあなたは、女性ですからねー。一緒に生活と言う訳には行かないでしょう」


「そ、それならば、その子は古賀忍軍の一人、私も同罪です。私と一緒ならばどうでしょうか」


古賀さんまで罰を要求してきた。


「では、私も同罪です。私にも罰をお与えください」


ミサまで言ってきた。

ミサはどこら辺が同罪なのか興味がわいた。

何を言うのか聞いて見たい。


「ミサは全く関係なさそうですが、どこがどう同罪なのですか」


「……!?」


どうやら、考えていなかったようだ。

言葉に詰まっている。


「そうだ!!」


どうやら考えついたようです。

心は読めませんが、丸わかりです。

俺の考えを読んだのか、ミサの顔がみるみる赤くなった。


「上杉さんは私の信者です。信者の罪は教祖の罪です」


そうきたかー。

なるほどー。うまい。座布団一枚。


「あのー、古賀さんもミサもいつも一緒じゃ無いですか。罰にはならないと思いますが」


「と、とにかく、上杉様と二人は駄目です」


古賀さんが言うと、ミサと忍者が高速でうなずいている。

どうやら、上杉と二人になるのが嫌なだけのようだ。


「ふむ、上杉は確かに美形です。ですが、さすがに男に手を出したりはしませんがねえ。それに、そろそろ大阪城に行く時間が来ました。戻ってこられたらの話しですから、安心して下さい」


「……」


あー、いけない。

全員の表情が暗く沈んでしまった。

でも、こればっかりはしょうが無い。

最初から決めていたことだ。


「オイサスト! シュヴァイン!」


俺は久々に言った。

そして、モゾモゾと黒いジャージを着て、頭に黒いヘルメットをかぶった。


「行ってきます」


わざと明るい笑顔で言った。


「行ってらっしゃい」


全員が笑顔になった。

明るい良い笑顔だ。


――ありがとう


俺は皆の笑顔に心からの御礼を口に出さずに言った。


俺は通天閣を後にして、大阪城を目指した。

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