冴子に気をつけながら移動し、高い建物を探した。
「きゃははは……」
冴子の狂気を帯びた笑い声がだんだん小さくなる。
おしいなー、あいつ、かわいいのになー。まあ、うちの超美人と比べると可哀想だが、普通にかわいい顔をしている。
冴子から離れるように走りながら、良さそうなビルを見つけ登ってみる事にした。
「おおおーーっ!!」
すごい光景が広がっている。
漫画ならドーーンと大きな描き文字が入り、見開きになっているだろう。
ポツンと大阪城と北側の高層ビル群が残されているだけで、後は三キロメートル四方ぐらいが荒野になっている。
だが、ハルラは冴子を使ってまだまだ建物の破壊を続けている。
どれだけ広げるつもりだよ。
大阪城の北側の高層ビル群が不夜城、遊郭ということか。
「巨大すぎるだろう。いったい何人の女性が遊女になっているんだよ」
大阪冬の陣、恐らくハルラは意識しているだろう。
敵を、大阪城に引きつけ殲滅する気だ。間違いない!
堀が完成すれば、まさに難攻不落だ。
徳川家康でさえ落とせなかった、冬の大阪城だ。
大阪城が不気味に笑ったように見えた。
大坂冬の陣の頃は、大砲も弓も武器も鎧も騎馬もあった。そして、両軍合せて三十万の武士がいた。
今は、そのほとんどが無い。
特に兵士の数が圧倒的に少ない。
「ふふふ、木田の兵力じゃあ包囲することも出来やしない。堀の完成前に攻め込まないと付け入る隙は無いな」
幸いなことに、堀の工事はあまり進んでいない。
溝を掘り、水を入れる前に石垣かそれともコンクリートか、整備が必要だ。
そもそも材料はあるのか。
あの規模の堀なら、年単位でかかりそうだ。
まあ、今の状態でも、籠城されれば勝てる気はしない。
「はー、見に来ておいてよかった。これだけでもハルラの考えが良くわかった。しかも、あいつ、かなり大阪城を研究している。それとも部下の軍師の提案か? どちらにしてもやっかいだ」
あの城のまわりを、十二の部隊と桜木の親衛隊が守る姿が目に浮かんだ。
総兵力は六万以上か。
対する木田の総兵力は、かき集めて三万五千位だろうか。
準備を済ませて守りを固めた敵に、兵士数が少なくて勝てる見込みなどない。
――結局はそうなるのか。
俺は、大きなため息が出た。
「いつまで、見ていてもしょうが無い、行くとするか」
俺は全速力で、大和のショッピングセンターに向った。
直線で四十キロほど、俺なら三十分はかからないだろう。
道中、新政府軍の動向を見たが大和へは兵を入れていないようだ。
まあ、そんな余裕もないのだろう。
「おーーい」
ショッピングセンターで大声を出した。
当然、出しても問題ないと判断したからだ。
「とーさーん!!」
嬉しそうに子供達が走って来た。
子供達は無邪気でいいな。
この瞬間だけは、嫌な事を全部忘れられる。
俺は、子供達にお菓子を配った。
大昔の米兵の様に。
きっと、あの米兵達もこんな気持ちだったのだろう。
まあ、聞いたことがあるだけの話しで、見た事はないのだけれどもね。
「何しに来たの?」
エマとライが、近寄ってきて上目づかいで聞いて来た。
「ここに連れてきたい子供がいるのさ。柴井班長はいるか?」
「兄ちゃんは平城宮跡」
お姉さんのエマが教えてくれた。
「平城宮跡?」
「そうだよ。解放軍の本部」
今度は、ライが教えてくれた。
どうやら、大和解放軍は平城宮跡に本部を置いたようだ。
子供達は、桜井のショッピングセンターに残し、万が一の時には名張に逃がすつもりなのだろう。
「案内は出来るか?」
「うん!!」
二人が同時に返事をした。
「じゃあ、変身だ」
「オイサスト! シュヴァイン!」
二人が、かわいいアンナメーダーマンになった。
ジェニファーとライファだ。
「全速力で頼む」
「えっ!?」
「大丈夫だ。ちゃんとついて行ける」
二人はかわいい。
俺がついて行けないと思ったらしい。
「じゃあ、行きます!!」
言うと間髪を入れず走り出した。
って、おい!
不意打ちは卑怯だ。
少しだけ引き離されたが、すぐに追いついてやった。
「とうさんは、すごいです。全速力なのに全然引き離せません」
おいおい、引き離すつもりなのかよー。
それじゃあ、道案内にならないだろうがー。俺以外ならついて行けないぞ。
ジェニファーとライファは速い、チーターより速い、いやカウンタックよりも速いはずだ。
平城宮跡へは、十分とかからずに着いた。
平城宮跡の本部につくと二人は変身を解除し、両腕につかまった。
俺はまた、両腕にエマとライをぶら下げて歩くはめになった。
「兄ちゃーん!!」
「!? ここには子供は来るなと……」
「やあ、柴井班長。怒らないでやってくれ、俺が道案内を頼んだんだ」
「おおっ、シュウさん! で、ご用件はなんですか?」
「子供達を保護して欲しい。ただ、大和じゃなくて大阪の子供なんだ」
「ははは、子供でも大人でも歓迎ですよ。まあ、間者はお断りですけどね」
「じゃあ、お願いします」
「わかりました。ふふふ、しかし、あのふくれっ面のエマとライがこんなに笑顔になるとは」
「えっ、何かあったんですか」
「この二人、結婚したい人が同じで、どちらがその人のお嫁さんになるのかで大げんかをしましてね」
「しーーっ!!」
エマとライが、人差し指を口に当てて真っ赤になっている。
「あーははは。そんなことかー。今は法律がない、何人とでも結婚が出来るぞ。そんなになりたいなら、二人ともその人のお嫁さんになればいいじゃないか。俺からそうするように言ってやる。二人は大きくなったら超美人さんになる。断られはしないだろうさ。これで、仲直り出来るよな! 二人が喧嘩をしていると悲しい。俺を悲しませないでくれ」
「はーーい!!」
二人が上機嫌になった。
捕まる手が少し強くなったように感じる。
柴井班長の顔から少し血の気がひいて、青い顔になった。
なんだかよくわからんが、二人が仲直りしたのなら良いじゃないか。
「じゃあ、UFOを借ります。誰か同行してくれる……」
「はーい、私が行きまーす!」
エマとライの声が完璧に同調した。
もはや一人で言ったようにしか聞こえなかった。
どうやら、二人は仲直り出来た様だ。よかった。よかった。
「うむ、よし、二人に任せた。では、私はまだ仕事がありますので失礼します」
なんだか柴井班長が、そそくさと急用を思い出したようで行ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
「はーーい!」
んっ、なんだかこういう返事を聞くと嫌な予感しかしない。
気のせいだろうか?