両手にエマとライをぶら下げて、班長に近づき話しかけた。
「柴井班長、相談なんですが」
「はい」
「実は四月から、名古屋で学校を始める。小学生から高校生まで、大和の子供達も全員面倒を見させて欲しい。もちろんエマもライも」
「えーーっ」
二人から不平の声が上がった。
「なんだ、二人とも学校は嫌か」
「だってー、勉強嫌い……」
「その代わり、美味しいご飯を用意するぞ」
「ほ、ほんとーー」
「なるほど、そのための、このUFOですか。わかりました。四月から子供達は全員、シュウさんに預けます」
俺はその後、少しだけ子供達と遊んで、首を長くして待っている、爺さんのところに急いだ。
「よう、爺さん。待たせた。だいぶ時間をロスした。急がないとな」
「なんじゃ、もう行って帰って来たのか」
爺さんは、まだかかると思っていたらしい。
爺さんと合流してリヤカーに爺さんを積んで出発した。
人気の無い山道は、速度を上げて移動した。
国道には所々、関所があったが隊の許可証で何事もなく通過できた。
日本の道は整備されすぎていて、街の生活道路を使えば関所破りなどはたやすいように思える。
橋や山道などできっちり不審者を捕まえないと、町中で発見する事は無理だろう。
名古屋や、東京などで、潜まれたら間者を捕まえる事は無理だ。
恐らく大勢潜り込まれていると思って間違いない。
「もう、ここで荷物を預かることが出来る。どうする」
大阪城からは、まだずいぶん離れているが関所の兵士が聞いて来た。
「いや、わしらは大阪へ行きたい」
爺さんは、大阪行きをばらしてしまった。
「なにっ!?」
やはり何かに感づかれたのか、兵士が驚き、爺さんの顔に自分の顔を近づけた。
「……」
俺達の間に緊張が走る。
爺さんめ、大阪へ行きたいなんて、余計な事を言わなければ良いのにと思っていた。
「ひひひ」
兵士と爺さんが、何やら意味深な笑い声を出した。
「このエロ爺、行って良いぞ!!」
なにやら、爺さんのおかげで無事関所を抜けることが出来た。
この後も似たような問答を二カ所の関所でやりとりし、大きな公園にある関所についた。
「あんちゃん、ここが最後の関所じゃ。後は、大阪城まではもう関所はない」
「おおっ」
俺は、声が出てしまった。
やっと、やっと、目的の大阪城を見ることが出来る。
関所の兵士に、許可証と荷物を見せた。
「で、すぐに帰るのか」
「いや、いや、まさか。ここまで来て帰る訳はないじゃろう。大阪城へ行く。リヤカーを預かってくれ」
「ひひひ、このエロ爺め。わかった。楽しんできな」
手続きのため事務処理をしていると。
「おーーい! 金爺じゃねえか」
「んん、おお山城か」
「金爺、まだくたばってなかったのかよー」
「な、何をいう。見て見ろこれを」
「おお、出世したのか。俺と同じになっているじゃねえか」
爺さんが、鼻の穴をピクピクさせながら階級章を見せている。
「爺さん、この方は……」
「おお、すまん、すまん。こいつは同郷の山城じゃ」
「九番隊の山城軍曹だ」
「私は、金城さんの部下のシュウと申します」
「おお、そうか。金爺! ここに来たと言う事は、あんたもこれから行くんだろ?」
「当たり前じゃ!!」
「ならば、店まで一緒に行こう。おい! お前達も行くぞ! ぐずぐずするな!」
「はっ」
山城班長の部下が四人ニヤニヤしながら走ってきた。
どいつもこいつも、一癖有りそうな男達だった。
「金爺、気をつけろよ、最近じゃあ安い店は病気がはやっているらしい」
「なっ、何じゃと。だが、わしは、ここのところ金を使っておらん、ふところは暖かい」
しばらく歩くと、目の前が急に開けた。
「な、なんですか、これは?」
俺と、カクさんが同時に声を出した。
響子さんとカノンちゃんは声を出しそうになり、それを飲み込んだ。
「あんたは、大阪は初めてか?」
「は、はい」
「これは、大阪城の堀を作るための前工事だ」
ビルや、家、建物が破壊され、荒れ地が広がっている。
SNSで見た、関東大震災の後の様な感じになっている。
建物が瓦礫と化した大阪の街は、見晴らしが良く海からの風が強かった。
「ぎゃははははは……」
急に女性の笑い声が聞こえた。
顔はかわいいのだが、目の下のくまがすごい。
宙に浮いているため、短いスカートからいけない白い物が丸見えになっている。
「うわっ!? な、なんですかあれは?」
「兄ちゃん、あんたらは何にも知らないのだなー。あれは大阪名物エスパー冴子だ」
「エスパー、サイコ?」
「違う違う、さえこだ。大阪の街をぶっ壊している。サイコパスヤローだ」
その時、ビルが一つ轟音と共に崩れ落ちた。
「す、すごい」
「何を言っているんだ。あんなのはたいしたことは無い。サイコ伊藤とか、エスパー江藤はあいつの、五倍はすごかった」
「その二人はどうしたのですか」
俺は知っているのだが、大阪でどう伝わっているのか知りたくて聞いてみた。
「ハルラ様の命令で、アンナメーダーマンとか言う奴を東京へ殺しに行ったんだが、それっきり帰ってこねえ。噂じゃあ、アンナメーダーマンに殺されたと言われている。これも噂だが、アンナメーダーマンってーのは、あの桜木さんよりも強ーという噂だ」
「あの、桜木さんとは?」
「あんたら、本当に何にも知らねーんだな」
「最近、十一番隊に入ったばかりなもんですから」
「そうか、大和の人か。ならしょうがねえ。大阪でハルラ様の次にすげーお方よ。新政府じゃあ鈴木首相が一番偉い事になっているが、大阪は実質この二人の物になっているのさ」
「なんだい、爺とむさいおっさんばかりか! うわあ!!!! 一人は豚のバケもんかい。ああー!! 超美形が三人もいるじゃないか!」
くそお、俺の顔を見た時に冴子の奴、バランスを崩して地面に落ちそうになりゃあがった。
冴子は、俺達の存在に気付き関心を持って近づいて来たようだ。
三十手前くらいの女だが、痩せ型で少し暗い雰囲気だが顔は、やはり、かわいいぞ。まあ、頭が少しぶっ飛んでいそうだが。
「何か、御用ですか?」
山城軍曹が聞いた。
「ふん、用なんてないさ。お前達は、揃いも揃って、色町へ行くのかい。男って奴はどいつもこいつも糞だね」
そう言うとツバを吐き、さっき壊したビルの所へ飛んで行った。
どうやら、関心を無くしたようだ。
「爺さん、色町って」
「ひゃあーはっはっは! あんたら本当に何にも知らないんだな」
山城軍曹が、大笑いをしている。
「大阪城には、新政府軍が捕まえた女達が、全員運ばれてくる。いいか、全員だ。そして最初にハルラ様が選別する。気に入った女と、そうじゃない女だ。そうじゃない女は悲惨だ。昼は大阪城の堀の土木工事、夜は男の相手だ。少ない食事で一日中働きっぱなしだ」
「あんたらは、そんな可哀想な女性を金で買うのか。心が痛まねえのか」
「あんたはすげーな。言っておくが、新政府には大阪城にしか女はいない。男は大阪城に来なければ、女と話す機会もないのさ。それに俺達が買えば、その後はゆっくり眠ることが出来る。飯だって豪華な物が食えるんだ。俺達は、女達の為に金を払いに行くのさ」
俺は、ハルラのいる大阪城の空が急に暗くなり、それより濃い暗いもやが立ち上るように見えた。
俺の後ろから震える手が伸びて来て、服をギュッと固くつかみ、三方向に引っ張った。