目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
0184 大阪へ

「よーーい! アンちゃーん!」


爺さんが、ご機嫌で走ってくる。

嫌な予感しかしない。


「爺さん、何喜んでいるんだ?」


「ふふふ、仕事を取って来てやったぞ」


せっかく戦局がこうちゃくしていて、やる気の無い俺達は、見張りの仕事が割り当てられて楽をしている。

別に仕事なんか他にいらない。余計なお世話だ。


「どんな?」


関心はなかったが一応聞いて見た。


「ふふふ、なーに、簡単な仕事じゃ。大阪へ納品の仕事じゃ」


「な、何だって!?」


俺は、つい喜んでしまった。

やっと目的が果たせる。

何しろ、大阪の様子を見るためにここに来ているのだからな。


「はっはっはっ、やはりアンちゃんもわかるか。前線にいたら、いつ敵の攻撃で死ぬかわからん。納品で前線を離れれば死なずに済む。それだけ長生きが出来るというもんだ」


爺さん、あんた、どんだけ長生きがしたいんだよ。

まあ、おかげで怪しまれず、大阪へ行けそうだ。


何と言っても、犬飼隊長はするどい。

こちらから大阪へ行きたいなどと言ったら、変な疑いをかけられるに決まっている。

それが、向こうからやって来たのだ。

ラッキーと言わねばならない。

爺さんにしてはファインプレーだ。


「いつ、行くのですか?」


「ふふふ、今からじゃよ」


爺さんは、前線から離れられるのが嬉しいらしく、笑いが止まらないようだ。


「おおっ!!」


俺は、拳を固めて声を出した。


「あんちゃん、行くぞ!」


「ははーーっ!」


なんだか調子が出て来た。


「運ぶのは、これじゃ」


リヤカーに箱詰めされた銃などの武器が入っている。

どうやら鹵獲品の納品のようだ。


「こ、これを」


少しもったいない気がした。

俺の考えがわかったのか爺さんが言った。


「ふふふ、大丈夫じゃ。弾がない。本当はゴミなのじゃが、武器は納品すれば査定が上がるらしい。隊長もあれで出世がしたいらしいのじゃ」


「なるほど」


「じゃあ、いこうかいのう」


「ま、待って下さい」


カクさんが走ってきた。


「うちの副隊長が、これもと言っています」


リヤカーに、十二番隊と書いた箱が置かれた。


「わかった。これだけでよいのじゃな?」


「はい。ところで二人で行かれるのですか?」


「そうじゃ。こんな物を運ぶくらいわけはないじゃろう」


「そうですね。では、お気をつけて」


なにか、引っかかったので、後ろを見たら十二番隊の副隊長が爆笑している。


「何をしている。あんちゃん! 行くぞ!」


爺さんは、速く前線を離脱したいばかりで急かしてきた。

なにやら、嫌な予感がするが出発することにした。

リヤカーは意外と重く、普通の人が長時間運ぶなら結構きついはずだ。


そうか! 十二番隊の副隊長が笑っていたのは、こう言うことだったのか。

「あんな重い物を二人で運ばされている」とでも思っていたのだろう。

俺は普通ではない、この位一人でも楽々運べる重さなのだ。残念!




「はあ、はあ」


爺さんがバテてきた。

京滋バイパスは、山の中を切り開いた道で、車ならともかく普通に歩くだけでも、まあまあしんどい。年寄りならなおさらだ。

リヤカーは、ほぼ俺一人で運んでいるのだが、疲れが出ているようだ。


俺は大阪へ行けるのが嬉しくて、しかも丁度良い山道はハイキング気分だ。少し自分のペースで歩きすぎていたのだろう。

今後はペースを考えてあげないといけないのだろう。

いっそ、リヤカーに乗せてしまうか。

そんなことを考えていると、いよいよ、爺さんがやばそうだ。


「爺さん、ここいらで、休憩するか?」


休憩を提案してみた。


「そ、そうじゃな。それがいい」


リヤカーに積まれた、荷物の中に食糧がある。

それを出して準備を始めた。

火を付け、あたりに良い匂いが立ちこめる。

魚と、クズ野菜と米を炊いた、雑炊を作っている。

この世界では、充分贅沢な代物だ。


「おいっ!!」


山を男達が下りて来た。

汚れたボロボロの服に、ボサボサの髪、顔は垢まみれだ。

もう、普通に山賊だ。しかも、時代劇でしか見た事の無いような山賊だ。

人数も多い、十五人は、いるだろう。


「で、でたーー。ひっひぃぃぃ」


爺さんは腰が抜けたようで、路面に尻を擦りつけながら、後ずさりする。


「すげー、かしら、武器ですぜ」


「なにーーっ」


山賊達は、リヤカーの武器をあさりだした。


「シュウ様ーー!!」


後ろから、綺麗な女性の声がする。


「響子さん、なぜ、ここに?」


「うふふ、うちの副隊長が行ってやれと送り出してくれました」


響子さんとカノンちゃんとカクさんが来てくれたようだ。


「副隊長が言うには『あの山には山賊がいる。あいつら二人で行くつもりらしいが命知らずなのか』と言って、爆笑していました」


そ、それで、爆笑していたのかよーー。

人が悪いぜ。


「うふふ『まあ、見捨てることもできんだろう。行ってやれ』と言われてやってきました。シュウ様がいれば必要無いと思いましたが、せっかくですので、ご一緒したいと思い、まかりこしました。余計なお世話でしたか?」


響子さんが嬉しそうな顔を、俺の顔に近づけて言った。

……かっ、顔が近い。


「いいえ、とても心強いです」


「まあ」


響子さんが頬を赤らめた。

な、なんだーこの人、すげーかわいいんだけど。

もう少し、いやもっともっと、ブスなら告白してしまうところだぜ。


「おい、てめえら、楽しそうじゃねえか」


「うふふ、私は今とても気分がいいのですよ。今なら見逃して差し上げますよ」


「はーっ! 何だこいつ!! 頭が馬鹿なのか」


「ぎゃははははは」


山賊達は馬鹿笑いをしている。

だが、その目はギラギラ光り、吊り上がっていた。


「スケさん!!」


「あーっ俺、カクさんです」


し、しまったー。

そうだスケさんは、橋の警備の班長をやっていて、ここには来ていないんだー。


「カ、カクさん! 少しこらしめてやりなさい!」


俺は素知らぬ顔で言い直した。

でも、響子さんとカノンちゃんは大うけだ。

体がブルブル震えている。

そんなに笑わなくてもいいでしょうに。


「はっ!!」


カクさんは真面目な顔で答えると山賊の方に数歩近づいた。

さすがはカクさんだ、俺の間違いを笑わない、真面目なうえに超美形だ。

と、思ったら、少し肩が震えている。

笑うのを超我慢しているだけのようだ。


「ふざけるなー!! お前達、こいつら全員ぶちころせーー!!!」


山賊達が、襲いかかって来た。


「カノン! 私達も行きますよ!」


「はい!」


三対十五の戦いが始まった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?