目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
0181 集団の中へ

隊長の号令がかかると、全軍が国道を走り出した。

だが、これは奇襲である。

全員、無言で出来るだけ、足音を立てないように気をつける。


俺達のいる国道は、両側が山で、先がカーブしている為、足軽には状況が全くわからない。

前の人について行くのみだ。


「ひい、ひい、年寄りには無理じゃ!!」


爺さんは、集団から後れていく。

班長のチンまで、俺達を見捨てて集団の中に消えた。

俺は、爺さんを見捨てられないので付き合うことにした。

俺達の後ろには、腕を組んで仁王立ちの犬飼隊長を残すのみとなった。


「やれやれ、弱い動物が何故群れるのか、わからない奴らがいるとはなー。また、てめーか新人!」


犬飼隊長がいつの間にか横に来て、俺と爺さんの真ん中に顔を差し込み、話しかけてきた。


「は、はあ、すみません」


「いいか、群れから離れた牛や豚、小魚は、最初に命を狙われる。少しでも生き残りたけりゃあ、集団の中にいることだ。まあ、命がいらねえなら別だがな」


さすが隊長だ。いいことをいう。

って、おいっ!! そこは豚じゃねえだろう。馬でいいじゃねえか。


「ひっ、ひいい……」


隊長の言葉を聞くと、爺さんの足が速くなった。

ただ、速く走れと言うより、このほうがよほど効く。

この隊長は、ただ者ではない気がした。


「ふふっ、やりゃあ、出来るじゃねえか」


そう言い残すと、隊長は俺達を追い越していった。

それだけではない、集団を全部追い越し、カーブを曲がると姿が消えた。

その速さは常人の身体能力じゃなかった。

恐らくハルラの強化魔法を受けた、強化人間だろう。


そして、その隊長の先を行く者の姿も確認出来る。

副長の二人だろうか。

敵の見張りを、次々倒している。


爺さんは現金なもので、命が危ないとわかると集団の真ん中まであっという間に追いついた。

俺達の後ろの奴らの方が、もう走れなさそうに感じる。


「おお、チン班長だ!」


会話まで出来る始末だ。

爺さんよりチン班長の方が、息が上がって死にそうになっている。

離れた目が、いつもより余計に離れているように見える。


この頃になると、集団は二つに別れ、俺達のいる遅い集団と精鋭の速い集団になった。


ガガガガガ


大きな音がした。

カーブを回ると、その正体がわかった。

国道にかかる跨道橋の上の重機関銃が火を噴いたのだ。

だが、重機関銃は、羽柴軍に放たれている。

すでに、犬飼隊長が制圧したようだ。


道は跨道橋を過ぎると、大きく曲がりその先にトンネルがある。

トンネルの前に柵があり、その上の木がかりとられ、大きな羽の字が書かれた旗が立っている。

トンネルの上に敵の本陣があるようだ。

敵の守備が整う前に、隊長と先陣部隊は柵を乗り越え山を登っている。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


トンネルの上から喚声があがった。

羽柴軍と新政府軍十一番隊の戦いが始まったようだ。

俺達がトンネルの前の柵にたどり着き、それを乗り越えていると異変が起った。


「かかれーーーー!!!! 一人も生きて返すなーー!!」


羽柴軍の別働隊が、俺達の後ろを襲って来たのだ。

すでに柵の内側にいる俺達は、少し有利だった。

敵も足軽隊のため、たいした武器を持たず柵をのぼろうとする。

俺達の武器は鉄の棒だ。

柵をのぼる敵を、突っつけばいいのだ。


「ぎゃー、いてーー、うぎゃーー」


棒で突かれた者は、道路に落ちて悲鳴を上げている。


「や、やめろーー!!」


爺さんの声がする。

なんと、爺さんが柵の向こう側で、敵兵四人ともみ合っている。

なんで、そうなるかなーー。

集団からはみ出るなと言われたばかりだろうに。


見捨てることも出来ないので、爺さんの元に急ぐ。


パン!!


乾いた音がした。


「ごぶっ」


爺さんを囲む男の一人が、口から大量の血を吐き倒れた。

倒れた男の胸から糸を引いて血が流れ落ちる。

爺さんの震える手には俺が渡した拳銃が握られていた。


「ひっ、ひいいいいい」


爺さんを囲んでいた三人の男が四つん這いで逃げて行く。


「おい、爺さん大丈夫か。拳銃をかすんだ」


「……」


爺さんは、返事も出来ずに首を振った。

拳銃を渡す気は無いようだ。


「爺さん、その銃は弾が一発しか入っていない」


爺さんの耳元に小声でささやいた。

その言葉を聞くと、ハッとした顔をして銃を手放した。


「爺さん、その男、階級章がついている。もぎ取っておくといい。手柄になるかもしれない」


「おっ、おおっ」


爺さんは肩で息をしながら、返事をした。

俺はその間、弾の入っていない銃を、こっちに来ようとする男達にむけ牽制をしている。


「爺さん取れたら柵の中に入るんだ」


「う、うむ」


爺さんが柵をのぼるその間も、銃で牽制し爺さんを守った。


「爺さん、俺がのぼる隙はなさそうだ。後でまた会おう」


俺は、銃を敵の中に投げると山に向って走った。


「こ、このヤロー、弾が入っていねーじゃねーか。追えーー!! 追えーー!!」


俺を追って、大勢が追いかけてきた。

おいおい、多過ぎじゃねえかー。

俺を追いかけて来る人数が多いおかげで、柵をのぼる人数が減った。

しばらく、山を走っていると、山頂から歓声が上がった。


「わあーーーー!!!」


同時に追いかけてくる者の数が減っていく。

どうやら、犬飼隊長がやってくれた様だ。

ゆっくり戻ると。

山頂に「新」と書いた旗が上がっている。


「爺さん、無事だったか」


柵に戻ると爺さんの姿があった。


「アンちゃんこそ……」


爺さんは涙ぐんでいる。


「集れーー!!」


山頂から集合の声がした。

俺も爺さんも、山頂の本陣を目指した。

山から見ると、国道を羽柴軍の兵が撤退していく姿が見えた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?