目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
0180 全軍突撃

翌朝、日の出と共に騒ぎが起った。

やると決めたら、朝食すら食べさせる気は無い。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!! なんだ、なんだこいつは」


「ア、 アンナメーダーマンだーー。ぐわあああーー」


「増援を呼べーー!! 手配書のアンナメーダーマンだーー!!」


騒ぎの声が俺の所まで聞こえてきた。


「おい、新人! 犬飼隊長がお呼びだ」


隊長のところから、隊員が派遣されてきた。


「ふふふ、シュウさん、お呼び出しだ」


「班長! では、行ってきます」


「俺も同行しよう」


柴井班長と、俺は隊長の所へ急いだ。




「うわぁぁぁぁーーー!!!」


騒ぎの声はずっと続いている。

だが隊長の宿舎では、騒ぎの声は山の下よりずっと小さい。


「お呼びですか?」


「うむ」


「柴井班長も一緒なのか? 別に新人、一人で良かったのだがな」


「どうしたのですか」


「いや、何でも無い。ふふふ……。もう下がっていいぞ。いやまて、外で待機しろ」


「はっ」


俺達が隊長の宿舎を出ると、隊長は叫んだ。


「撤退だーー!! 桜木さんがかなわない奴に、立ち向かってもしょうがない。陣を捨て撤退するぞーー」


「班長、撤退だそうです」


「うむ、アンナメーダーマンと言うのは、幹部の間では恐れられているみたいだなー」


「その様ですね」


「しかし、犬飼隊長はシュウさんをアンナメーダーマンと疑っていたようだ。なかなか用心深い、優秀な人だったようだな」


「そうですね。今後も気をつけます」


「ふふふ、でもこれで、シュウさんの考え通り、疑いは晴れるでしょう。では、シュウさん、お別れです」


「はい」


「隊長! どうした柴井班長」


「俺は、部下のところへ向います。新人を頼みます」


「そうか。わかった。気をつけてな」


班長は、走って行った。


「よし、俺達は、撤退するぞ」


装備を整え終った隊長が俺に言った。


「はっ」


犬飼隊長の行動は速かった。

声の無い方へ向い、全力で走った。


「伝令、全軍に伝えろ! 足軽小屋へ撤退せよと」


「はっ!」


俺は、隊長の取り巻きにまじって足軽小屋を目指した。

俺達が走っていると、後ろに次々隊員達が合流してきた。




「報告しろ、状況は」


「はっ」


「現在、六割ぐらいの者が戻っています」


足軽小屋に着くと隊長は、部隊の損害を確認し始めた。

だがそこに、柴井班長の姿は無かった。

どうやら、決断をしたようだ。


「あ、ブルさん、チンさん」


「おお、新人」


「班長達は?」


「様子を見に行くと言って他の隊員達と出て行った」


そうか、この二人は大和人と違うようだ。

班長の信頼はそれほど厚くなかったのだろう。


「無事でしょうか?」


「わからねえ、ありゃあ、駄目だ。バケもんだった。真っ黒で一度に数十人吹き飛ばしていた」


「見たのですか」


「ああ、逃げる時一瞬だけ見えた。ありゃあ駄目だ」


「なにーー、て、敵はアンナメーダーマンただ一人だと。それでこの短時間にそれだけの、被害を出したのか……」


隊長の大声が聞こえてきた。

行方不明者、数十人、けが人は百人を超えているらしい。

二時間ほどしたら、十二番隊も撤退してきた。

十二番隊の宿営地もアンナメーダーマンに襲われたようだ。

どうやら、柴井班長の判断のようだ。


「シュウ様!!」


「スケさん、ここでシュウ様はまずいです」


スケさんとカクさん、響子さん、カノンちゃんと再開が出来た。

全員元気そうだ。

と、いう事はアドもどこかにいるのだろう。

全く気配がしない。たいしたもんだ。


「申し訳ありません」


「いいえ。シュウさんで、いいですよ」


「はい」


響子さんもカノンちゃんも話したそうだが、女性だとバレるといけないので、話すのをあきらめているようだ。

でも、目が、目が。

何かを訴えている。なんだか、静かだけれどもうるさい。


昼を過ぎると動きがあった。


「我々十一番隊は、京都に移動し九番隊と合流し防衛戦に参加する」


「……」


十一番隊は、静かになった。


「十二番隊は、京都、大阪への街道の防衛だ」


どうやら新政府軍は、アンナメーダーマンとの戦闘をあきらめ、京都に兵力を集中するようだ。

新政府軍にとってのアンナメーダーマンはそれほどの脅威なのか。

もう少し油断して欲しいのだが、そうは甘くないようだ。


再会は束の間の喜びだった。

ここでまた、四人とお別れとなった。


京都に向う十一番隊は、国道二十四号線を北上した。

しばらく十二番隊と行動を共にしたが、木津川で十二番隊は大和に蓋をするため、ここに布陣する様だ。


十一番隊は宇治に入ると、隊員が補充され、国道一号線京滋バイパスを通り、羽柴軍の後方の攪乱お呼び、補給線の分断を命令された。

守りが手薄なことを期待したい。

ここで宿泊の準備をしていると。


「よーーーい!! あんちゃーーん!!」


「おおおーー、爺さん」


爺さんが、俺を見つけて元気そうに声をかけてきた。

足軽小屋で面倒を見てくれた優しい爺さんだ。

どうやら、補充要員の中にいたようだ。


「大変な事になったなー」


「そうですね」


「アンちゃんは、どうしてそんなに余裕なんだ。見て見ろよ! これを」


爺さんは、両手を前に出してきた。

その両手は、ブルブル震えていた。


「そ、それは、アル中のアルコール切れでは?」


「ぎゃーーははは、ちげーねえ」


なんだか、つぼだったようで笑ってくれた。

だが、目は悲しげで、決して心から笑っていないのがわかる。

大体、酒は今や高級品で、飲むことはそうそう出来ない。

重度のアルコール中毒者でも、完治してしまうはずだ。


翌朝、隊の編成が終ると行軍が始まった。

俺と爺さんは同じ班になった。

班長は、昇進したばかりのチンだった。


「止まれーー」


行軍はしばしば止められて、斥候を出し、敵に見つからないように注意しながらすすめられた。

昼に長めの休憩がはいった。

説明は、敵の間者がどこにいるのかわからない為か、されなかったが恐らく夜襲をかけるつもりなのだろう。


星明かりの中、全員が整列させられた。


「夜明けの光が出たと同時に、総攻撃をかける」


犬飼隊長の声も心なしかうわずっている。

そして、武器が渡された。

鉄の棒だ。っておい、RPGの初期装備並だなー。

そう言えば、俺は拳銃と短刀を持ったままだ。


「爺さん、これをやる」


俺は誰にも聞こえないように、爺さんの耳の中にささやいた。


「!?」


爺さんは、驚いてどんぐり眼を見開いた。

白目が、明るく光った。


「い、いいのか」


俺は、小さくうなずいた。

全体に武器が行き渡ると、物音一つしなくなった。

誰もいないのではないかと思えるほどの静寂だ。

きっと、このまま時間が止まればいいと、多くの人が思っているだろう。


あたりはまだ暗かったが、空に橙色が見えた時とうとう声が響いた。


「全軍突撃ーーーー!!!!!!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?