「御豚さん、パカパカーー」
おーい、無理に御豚さんにしなくても、御馬さんでいいんじゃないかなー。
どうしても、御豚さんと言いたいなら、御豚さんブヒブヒぐらいにしてくれよなー。
俺は今、食事の終った小さい子を背に乗せてお馬さんごっこだ。
ようやくおむつが取れたくらいの子から、小学校高学年までくらいの子供がいる。
背中に乗るのがどうしてそんなに面白いのか、順番待ちの行列が出来た。
子供達の前を、一周交替で乗せている。
「お馬さん……」
おっ、この子はお馬さんと言ってくれた。
「……ぶた、ぶたー」
おーい、お馬さんぶたぶたーってなんだよー。
いい加減豚から離れてくれよなーー。
「動くな!!」
なっ! しまった。
背後の暗がりから、男の声がした。
どうやら拳銃を構えているようだ。
子供達と遊ぶのが楽しくて警戒を忘れていた。
俺は、子供と遊ぶのはそんなに好きじゃなかったはずだよな。
なのに、警戒を忘れるほど遊んでしまうとは、
この子達は、可哀想なんだ、親が居なくて食べる物も、頼る者さえ何も無くて頑張って生きてきたんだ。
今ぐらい少し楽しんだっていいじゃねえか。なんで邪魔するかなー。
とは言え何とかしないと、ひとまず時間稼ぎだ。子供だけは助けなくちゃあいけねえ。
「まっ、待ってくれ。俺はどうなってもいい。百回いや、二百回殺されてもいい。子供だけは助けてくれないだろうか」
俺は、恥も外聞も無く男に尻を向けたまま、土下座して床に頭を擦りつけた。
「兄ちゃん、この豚、悪い豚じゃないよ」
なに! 口の悪いガキの兄ちゃんかよ。
「シュ、シュウさんじゃねえか」
「なにーっ! シュウさんなんて奴までいるのか」
「何を言っているんだ。シュウさん! 俺だ、俺だよ!」
少し窓際に寄って、姿を見せてくれた。
その男は。柴井班長だった。
「あっ!!」
思わず声が出た。
そうだ、シュウさんは俺だった。
「兄ちゃん、殺さないであげてーー」
子供達が、俺のまわりに集ってかばってくれた。
口の悪い、くそがきは先頭になって、銃口の前に立ってくれた。
ボロボロの黒っぽい服を着て、髪はボサボサ顔も垢で真っ黒だ。
おかげで、暗いショッピングセンターでは、見つかりにくいだろう。
「あーはっはっはっ! すげー人気だなー。こいつらは、人一倍警戒心が強いのに、こんなになつかれるとは」
「兄ちゃん! 駄目だから!!」
「エマ、わかっているよ。シュウさんを殺したりしないさ」
「なにーー、エマだって! 女の子なのかよ。口が悪すぎだろう」
「はーあっはっはっはっ。この子は目の前で親が惨殺された。そのショックでしばらく前まで、口がきけなかったんだ。やっとしゃべられるようになったばかりなんだ。許してやってくれ」
「そ、そうなのか」
俺をかばう為、両手を広げて立っている少女のわきの下に手を入れて、抱き上げ、ギュッと抱きしめた。
「やめろーー、この、くそぶたーー」
ふふふ、柴井班長の言葉を聞いた後だと、この口の悪さも心地いい。
「なあ、班長あんたは、この子の兄さんなのか」
「ふふ、違う。違う。おじさん、おじさん、うるせーから、兄ちゃんと呼べって言ってやったんだ。ほら皆、飯だ」
班長は、袋を子供達に差し出した。
袋には、かじった握り飯など、残飯が入っていた。
こ、こんなもんを食っていたのか。
いや、食えるだけでもましか。
俺が、エマを降ろすと、他の子供達が抱っこをせがんできた。
二人ずつ交代で抱っこしてやった。
スキンシップに飢えているのだろうか。
皆嬉しそうだ。
「なあ、班長、一人で面倒を見ていたのか」
「ああ、誰かに話すと、どこから隊にバレるか、わからないからな。バレたら、この子達はどうなることになるか」
俺と班長が座り込むと、俺達のヒザの上に子供達が乗ってきた。
驚いた事に、俺のヒザにエマが乗っている。
体に触れると「触るな豚」と、言われそうなので触れないように気を使った。
「大変だったでしょう」
「いや、大変なのはこの子達のほうさ」
「そうですね」
「シュウさん、大和は、大和の人達は今苦しんでいる。新政府を名乗る賊が襲いかかり、女は全部大阪に連れて行かれた。男は戦場だ。京都の最前線では大和の人間が戦わされている……。そして、子供達は見捨てられた……」
「班長は、大和の人間なんですか?」
「ふふふ、爺さん、ひい爺さんそれ以前からの、大和っ子だ。だからか、人一倍思い入れがある」
「でしょうね。俺もこの子達が好きになってしまった。何とかしてやりたい」
「シュウさん、ありがとう。その言葉だけでも嬉しい」
班長は涙ぐんでいる。
俺は、本当に何とかしてやりたくなった。
でも、ただ助けるだけでは、いけない気がする。
「班長、新政府軍と戦う気持ちはあるかい。そして、大和の為に戦う大和人を集められるかい」
「ほ、蜂起しろというのかい? シュウさんあんたはいったい……」
「ふふふ、どうですか。戦う気はありますか?」
「……」
班長は、返事が出来ないでいた。
それはそうだ、蜂起するのはいいがすぐに殺されたら、この子達はどうするんだ。
色々考える事があるのだろう。
「俺は、一人助っ人のあてがあります。力強い助っ人です」
「!?」
「名前はアンナメーダーマンシールド」
俺は、そう言うとアダマンタイト製の黒いゴーレムをフードコートの中央に出した。左手に巨大なミスリルの盾を装備している。
暗い為にそのシルエットしか見えない。
シルエットは、手配書に似た感じにした。
ミスリルの盾はゴーレムで、収納と風魔法を付与した。
「アンナメーダーマンシールド?」
「そうです。こっちへ来いアンナメーダーマンシールド」
俺がそう言うと、黒い影が近づいてきた。
「すげーー、ロボだーー」
子供達が大喜びだ。
「これは、いったい……」
「ふふふ、手配書のアンナメーダーマンですよ。大和の守護神になります。班長の命令通りに動くロボットと考えて下さい。ただし普通のロボと違って、ちゃんと自分で考えて行動も出来ます。話す事は出来ませんが普通の人間ぐらいの知能があります」
「明日、十一番隊の宿営地を襲わせましょう。食糧や物資を子供達の為に根こそぎ奪いましょう。その成果をみて、決断して下さい」
柴井班長は、アンナメーダーマンシールドを見つめ、動かなかった。
俺はアンナメーダーマンと言う疑いを、このゴーレムを使って晴らすことも考えていた。