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0177 食糧探索

「俺の名はシバイだ。文字では柴井とかく」


シバイか、頭が良さそうな名前だ。

手帳に書いて見せてくれた。


「俺の名前は、トダシュウです」


十田十と書いてある、足軽証明書を見せた。


「こっちだ、今日は南部のショッピングセンターを探索する。他の隊員はすでに探索をしている」


「はい」


「まずは、これを見せておく、短刀と拳銃だ。拳銃には弾が一発入っている。無駄に撃つなよ。今は弾が貴重だ! 見ろこの短刀を! 信じられないかもしれないが異世界の短刀らしい。給料は一ヶ月銀貨三枚だ。十日で一枚ずつ渡す。これも異世界の硬貨と言うことらしい。現地では三人一組で行動してもらう、合流したら渡すからな」


班長は、拳銃を見せてくれた。

テレビで見た事がある警察官が持っている様な拳銃だ。短刀は西洋風の短刀だ。

そして、銀貨も見せてくれた。これも、西洋風の硬貨だ。

大阪新政府では、この硬貨を流通させているようだ。


班長は「信じられないかもしれないが……」と、言っていたが俺はすぐに信じられる。どれだけ異世界の物資に助けられているか。

短刀も硬貨も異世界で量産されている物だろう。あずさなら持っている可能性が高い。ハルラとあずさの故郷の異世界は同じだからな。


「はんちょーー!!」


ショッピングセンターの前に四人の男が座っている。


「おい、お前ら何サボっているんだ」


「サボっていませんよー。休憩です」


「まあ、いい。皆に紹介しておく。今日から働く、トンダブウさんだ」


「トンダブウです。って何でだよ。トダシュウです」


「くっ、くっ、くっ……」


どうやら受けたようだ。


「面白いおっさんだろ、ブル、チン面倒を見てやってくれ」


「はい!!」


「シュウさん、これを渡しておく、拳銃と短刀だ。おっと、銀貨は十日後にな」


班長は、拳銃と短刀を渡してくれた。次に、銀貨を渡そうとした。

ボケのつもりなのか、銀貨を渡そうとして、あわててポケットに戻した。

ブルとチンと呼ばれた男は、二人とも若かった。

二人とも目が離れていて、体ががっしりした方がブル、線の細い小男がチンと呼ばれていた。

隊長は、他の二人を連れて、ショッピングセンターの中に消えていった。


「ブルさん、チンさん、よろしくお願いします」


「ああ」


あー、この二人も駄目っぽい。

班長がいなくなったら、あからさまに態度が悪い。


やれやれだぜ!


「おい、おっさん!! ついてきな!」


「は、はい」


俺は、おどおどして見せた。

なんだか、こういうのは得意だ!

自慢してみて情けなくなった。


「すげーー!!」


俺は感動していた。

ここは、大和の南部の街だ。

ショッピングセンターが、そのまま残っている。

今日は定休日です。という、たたずまいだ。

ハワイの街は、破壊の限りが尽くされていたが、ここは綺麗なままだ。

むだな破壊は、されていない。


「おい、おっさん! 何、泣いているんだ」


「君達は、これを見て感動しないのか」


「はあーっ、おかしなおっさんだなー」


「見て見ろよ、ガラスまでそのままじゃないか。これが、日本人の素晴らしさだ」


「バカか、何を言っているんだ」


ブルは手に持っている鉄の棒で、ガラスを叩き割った。


「ひゃぁーはっはっはーー」


チンまでやり出した。

だめだーーこいつらー。

駄目な日本人の方だ。

くそーーっ。拳銃で撃ち殺してやろうか。


――あーーっ


そう言うことか。

拳銃を気前よく渡してくれると思ったら、弾が一発だ。

一人を殺しても、もう一人に殺される。

よく考えられているよ。


どうせ、こいつらに「やめろーー!」なんて言っても、余計にやるだけだろうな。


「そんなことをしている時間があるのですか。食糧を探さないと怒られますよ」


「けっ、もう探し終わっている。よけーなことを言うんじゃねえ!! ころすぞ!!!」


ブルが顔を近づけ凄んできた。

でもなーー。俺はお前らより、本物を見てるんだよなー。

チャンチャラおかしいんだけど、


「ひえええ、すんません、すんません」


と言ってやった。

どうだ、ワイルドじゃねえだろー。

言っていて情けなくなった。


「けっ、なさけねえ、おっさんだぜ」


「ひゃあ、ははははーー」


チンが、頭悪そうに笑った。


「たぶん、俺なら探せますよ。ガラスを割っている時間なんかありませんよ」


「なにーーっ!」


「ついて来てください」


ブルとチンは大人しくついて来る。

俺はショッピングセンターに入った。

班長達は、食料品売り場にいるようだ。気配がする。

恐らく、ブルもチンも探したのはそのあたりだろう。

さすがにそんなところは、大勢の人が探している。

残っているとは思えない。


ショッピングセンターの中は、昼でも懐中電灯無しでは歩けないほど内部は暗い。

目を慣らしながら奥に入っていく。本当は裏からの方が早いがこいつらに説明するのが面倒臭い。

そして、まずは警備員室だ。

ここは、あまり荒らされていない。

案の定、懐中電灯が、ロッカーに残っていた。


「うん、つくぞ。このライトは生きている」


これだけでも、ずいぶん歩きやすくなる。

そして、事務机の引き出しを開けライトで照らす。


「ほら、あった」


俺はブルの手にあめ玉の袋を渡した。


「おおお、すげーー」


隅々まで探したら、缶コーヒーも見つける事ができた。


この世界では、今は貴重品だ。

米や魚は、手に入るかもしれないが、甘い物は手に入らないはずだ。

そして、構内図を確認する。

最初に食糧を大量ゲットした方が、ブル達を黙らせることが出来ると考えて、事務所は後回しにする。


こういう場所にはAEDが置いてある。

その場所が警備員室に書いてある。

バックヤードに置いてある場所がわかれば、そこに非常食を置く場合が多くなっている。


一番近くにあたりをつけて移動する。

ブルやチンはあまり我慢強くないだろうから、早めに成果を出さないといけない。


「よし、ビンゴだろう」


そこには、少し大きめの何の変哲も無いロッカーがある。

開けると、非常食が出て来た。

こんな時の為に用意する企業が増えている。

ありがたいことだ。


「おおおおーーー! すげーー! すげーー! おっさんすげーなーー!!」


今度は事務所の個人の引き出しや、ロッカーをくまなく調べる。

カップ麺やあめ玉など貴重品が出て来た。

すべてを運び出すと、外に班長達が待っていた。

食料品売り場だけなら、それほど時間がかからなかったのだろう。


「シュウさん、あんたすごいなーー」


班長達は喜んでいるが、俺はショッピングセンター内で気になる事に気が付いていた。

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