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0172 最悪

「清水」


楓音の顔を優しく見つめていたシュウ様は、視線を清水様に移しました。


「はっ」


「あんたは俺なんかより、はるかにカリスマ性があるのかもしれねえな」


清水様は流浪の旅をするうちに、賊を吸収しながら人数を増やし、松阪まで落としてしまいました。

もし、シュウ様がいなければ津もどうなっていたかわかりません。

シュウ様はその事を言っているのだと思います。


「は、はあ」


清水様は、言っている意味がわからないためか中途半端な返事をしました。

ですが、褒められたことは分かるので、少し照れています。


「尾鷲、熊野、新宮と進路を取り、行く先々の賊を吸収しながら、治安を回復して和歌山を目指してくれ。途中でハルラ軍に遭遇したならば、ちゅうちょせず撤退してくれ」


「はっ」


「うむ、頼んだぞ。さて、藤堂」


「はっ」


「あんたは、伊勢、志摩を守り、東海道、伊勢本街道の治安の維持を頼む。亀山、名張で、砦を築いてハルラ軍に備えてくれ」


「はっ」


「清水と藤堂にそれぞれ、尾張勢と同じ具足を五百ずつ渡すので使ってくれ。足りない物資も、尾張に頼んでもらえば用意してくれるだろう」


「はっ」


「ところで藤堂、伊勢神宮だが」


「はい」


「式年遷宮を絶やしてはいけない。技術者を探しておいてくれ」


シュウ様はすごいです。

大勢の人が、今日を生きるのが精一杯なのに、式年遷宮の事まで考えているなんて。

式年遷宮とは、二十年に一度新宮にお移りいただく行事です。

これは神殿を作る為の技術などを失わないようにする為、千年以上繰り返されている行事です。


「何と、大殿はその様な事まで、考えておられたのですか」


「まあな、日本の大切な技術だからな」


「分かりました。技術者を探し、絶やさぬように手配します」


「んじゃあ、スケさん、カクさん、響子さん。お伊勢参りへ行きましょうか」


「あ、あの、私は?」


楓音が悲しそうな表情で、シュウ様に問いかけます。

ここまで来て仲間はずれは可哀想です。


「はははは、カノンちゃんは折角自由になったんだ親元に帰りなさい。藤堂家に護衛は頼んであげるからね」


「えっ!?」


「んっ!?」


「あ、あの、私の母は、シュウ様の隣にいます」


「なーーっ…… てーことは、ここが親元になるのか」


どうやら、シュウ様は私と楓音の関係を忘れてしまっているようです。


「……」


私達四人は無言で、あきれたという表情でシュウ様を見つめます。


「じゃ、じゃあ、響子さんとカノンちゃんは家に……」


どうやら、ついでに私まで帰らせる気です。


「帰りませんよ!! 絶対に!! 一緒に行きます!!」


私と楓音は、声がそろいました。


「やれやれだぜ!」


どうやらシュウ様は、厄介払いが出来ると思ったのでは無いでしょうか。

そうはいきません。

このチャンスを逃してなるものですか。

まあ、シュウ様はこの顔ですから、好きになる人などいないと思いますから、焦る必要も無いのでしょうが、どこにライバルがいるかもしれません。

ここで、距離を縮めておいた方がいいと思います。


うふふ、どこまでもお供しますよ。命のある限り。




俺達は、お伊勢参りに向った。

五人で行こうと思ったが、藤堂と清水が同行すると聞かないので、大名行列のように大所帯でお参りした。

まあ、天照大御神様も久しぶりの賑やかな参拝者に機嫌が良くなってくれたのではないだろうか。

御利益があると良いのだが。


藤堂と清水と別れ、男女五人だけで伊勢本街道を進む。

道は国道なので、しっかり舗装されている。

車の心配が無いので道路の中央を歩く。

山の中の道は快適だった。


「みんな、聞いてくれ」


「はい!!!!」


「この先、どんな危険があるか分からない。全員に強化魔法をかけさせてもらいたいと思うのだけど、どうかな」


俺の言葉に、四人はヒソヒソ相談を始めた。


「あの、その魔法をかけると、去勢されるのですよね」


「実際にする訳ではないけど近いと思う。異性に何の感情もわかなくなるのかな」


「私達は、すでにそれぞれ心にお慕いするお方が出来ました」


「な、なんだって。それは、よかった。恋愛は、生きる気力がわく。まあ逆に、失恋すると死にたくなるけどな。諸刃の剣だ」


「はい、ですから、異性になにも感じ無くなるのは困ります」


「そうか、そうだな。じゃあ、別の手を考えよう。しかし、良かった。皆に好きな人が出来たのか。きっといい男なんだろうなー。ちょっとやけるぜ」


「……」


四人がじっと俺を見つめている。

きっと、俺がどんな手を考えるのか、興味があるのだろう。


「よし、ちょっと休憩しよう」


「はい」


道路の歩道の段差に腰掛けた。

俺は、四人にヒーローコスチュームを出す事にした。

オリハルコンが品切れなので、ミスリル製の青いコスチュームだ。


「見てくれ」


「な、何ですかこれは」


「ふふふ、名付けてアンナメーダーマン、アクアだ」


「すごい」

「すげー」


四体のコスチュームを作った。

基本デザインは、クザンのアンナメーダーマンと同じだが。

背びれやうろこの模様などをつけて、魚人のようにした。

特に水が得意という訳ではないが、全体が青いのでこのデザインだ。


「まずは、これがアクアタイだ」


一つ目は、少し銅が背にコーティングされた個体だ。

鯛をイメージした。


「えっ!?」


ふふふ、驚いている。


「二つ目が、アクアサバ」


これには、銀色のステンレスを前面にコーティングした。

鯖をイメージしている。


「そして、三つ目がアクアトラだ」


黒と黄色の縞を入れた。黒はアダマンタイト、黄色は魔力の色だ。

虎をイメージした。


「そして最後が、アクアマリンだ」


全体が青で、おうとつだけでデザインしている。

海その物をイメージした。


「好きな物を、選んでくれ」


「では、私はこれにします。アクアレッド」


響子さんがタイを選んだ。

レッドじゃなくてタイなのだけど、まあいいか。


「私は、これアクアシルバー」


カノンちゃんがサバを選んだ。

シルバーじゃなくてサバなのだけど、まあいいか。


「では、俺はこれです。アクアタイガー」


スケさんはトラを選んだ。

タイガーじゃなくてトラだよ、ま、まあいいよ。

だが、最後だけは、アクアマリンだ。きっとそうだ。


「では、私はアクアブルーです」


えーーーっ、まあいいけどね。


「すべて、かっこいいのに、ネーミングセンスは最悪ですね」


四人がヒソヒソ言っている。

悪かったなー、最悪でーー!!


ガッカリだぜ!!

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