「藤堂一虎、心服致しました。ただいま目の前で見た強さもさることながら、これまでの木田家からいただいた過分なまでの手厚い援助。これよりは木田家の配下の末席に加えていただきたく。お願い申し上げます」
「うーーん、配下にならなくてもいいのだけどなー。どうせ、民主主義にするつもりだから、知事は投票で決めるようになるからなー。今のうちから市民から尊敬される政治をして欲しいね」
「ええっ!!」
まわりから驚きのどよめきが起きました。
「では、お、大殿は、首相に立候補するつもりなのですか?」
「いや、それはしない。俺が立候補したら、皆が票を入れそうだ。絶対君主制とかわらない。それじゃあ駄目だ。ちゃんとしないとな」
「大殿は、ここまでしておきながら、見返りは何も求めないのですか」
「俺は、産廃業者として余生を過ごせればいいよ。底辺からこの国を見ていきたいからね」
「藤堂一虎、感服致しました」
「ええっ、感服するところかなあ? まあいいや」
シュウ様は視線を、黒い固まりに移しました。
「俺の首をはねてくれ、その代わりここにいる者は、木田家の配下にしてやってくれないだろうか」
「……」
シュウ様は、暖かい視線で黒い固まりを見ました。
黒い固まりの言葉が、シュウ様の琴線に触れたようです。
「あんたは気が付いていないようだが、俺は清水一郎だ」
「ぎゃあああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然、娘の楓音が大声を出しました。
カノン砲です。耳がじんじんします。
そして、震えながらシュウ様にしがみつき、背中に隠れました。
「だ、だ、旦那様」
そうです、この清水一郎こそ、行方不明になった楓音の夫なのです。
清水連合のトップだった男なのです。
かわいそうに、政略結婚で嫁に行かされた相手です。
「すでにアンナメーダーマンとは三度戦い三度負けた。もうこれ以上反抗する気はねえ。スッパリ殺してくれ」
「なるほどな、あんたなりのけじめか……」
シュウ様は目を閉じて考え込んでいるようです。
「よし、死んでくれ!!」
えっ!?
シュウ様はそう言うと、清水の頭の天辺に手を当てました。
「ぐあああああああああああーーーーーーーーーー!!!!…………」
清水は、悲鳴を上げました。
そして、倒れ込み静かになりました。
「ふふふっ、はあーはっはっはっ!!」
シュウ様が笑っています。
人を殺して笑うような人ではないはずですが。
「ぐおおおおおおーーーーーー!!!!」
あっ、清水が起き上がりました。
やはりシュウ様は殺さなかったようです。
――えええええええーーーーっ
驚きました。
清水の体を覆っていた長い黒い毛が、バサバサ剥がれ落ちます。
「よかったぜ。あんた、パンツをはいていたんだなー」
全裸では無かったようです。
長い毛に隠れていましたが、パンツだけは、はいていたようです。
長い毛が落ちると、普通の毛深い筋肉隆々の、やや影のあるイケおやじが出て来ました。
少しかっこいいかも。
でも、楓音は恐いだけのようです。
震えが止まっていません。
「ふふ、安心してください。はいています」
くだらないです。
清水がパンツを両手で指さしています。
馬鹿じゃないでしょうか。
「どうだ一度死んで、生まれ変わった気分は?」
「なぜだか、本当に生まれ変わったような清々しい気分です」
「カノンちゃん、もう震えなくていいよ。清水には、俺が身体能力強化の魔法をかけた。俺の魔法をかけると俺の考え方の影響を強く受けるようになる。おい、清水お前は、女性に対して何を感じる、感じたままを言ってみろ」
「はっ……」
清水は空を見つめ考え込んでいます。
「ふむ、これまでは、若い女性に強く性欲を感じましたが、今は……。不思議と臭い汚いとしか感じません」
「はーーーーーっ!!!!!」
私と楓音とスケさん、カクさんがシュウ様をにらみ付けました。
言って良いことと悪いことがあります。
いくらシュウ様でも許せません。
「ぎゃーーーーーー!! 何で俺を見るんだーー!! 言ったのは清水だぞーー。俺じゃねえーー!!」
「いいえ、言っているのと同じです。許せません!!」
私達四人の声がそろいました。
「お、大殿。私にもその魔法を、おかけください」
藤堂のお殿様が言いました。
「いや、これは去勢をするようなもんだ。清水はロリコンだ。年端もいかない少女に、エッチなことをする。ここにいるカノンちゃんも被害者だ。こんな奴にはこの位の罰が必要だ。あんたには、去勢は必要無いだろ」
「……」
藤堂のお殿様は無言でうつむきました。
「藤堂、あんたは俺と違って男前だ。これからも沢山の子供を作って欲しい。だから、このままだ。いいな」
「はっ」
「清水、お前に聞きたい、カノンちゃんと離婚して親元に帰してやる気はあるか? 無理矢理しろと命令はしたくない。ちゃんと親の了解も本人の了解も取っている話しだろうからな。嫌なら断ってくれ」
「ふふふ、そんなことですか。最早、私には女は不要です。この国の為に尽くしたい。そんな気持ちに満たされています」
「と、言う事だ。カノンちゃん、この先は自由だ。よかったな」
「は、はい」
娘の楓音がシュウ様を見つめます。
その目には涙が一杯たまっています。
心なしか、頬が紅潮しています。
女の勘ですが、恋じゃないでしょうか。
母としては応援してあげたいのですが、どうも無理っぽい感じがします。
女の勘が外れていることを祈ります。