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0086 真田家の過去

部屋は板張りで、一段高いところがある。

真田の殿は段の上にはのぼらず、俺達の前にそのまま座った。

俺達の事に気が付いているようだ。

御用商人、大田大商店の大田大の正体を木田家以外では、北条と今川しか知らないはず。

という事は、柳川の事に気が付いているのだろうか。


しかし、この部屋、時代劇の見過ぎだろう。

でも、この戦国時代の雰囲気は嫌いではない。日本人だからだろうか。


「少し、愚痴など聞いて貰ってもよろしいですか」


「はい」


俺は逆に何を言い出すのか興味津々になってしまった。

何を話してくれるのだろうか。


「隕石が落ちる予定日の六ヶ月前、世界の一部で暴動が始まりました。それをネットやテレビが面白おかしく、紹介していました」


確かにそうだ。

それを見て、俺は隕石を何とかしたいと思ったんだ。


「その暴動の足音は日本にも忍び寄っていました。一部の人間が少しずつ食料品を買い占めていました。そして、突然牙をむきます。まるでコロナの時のマスクのように、店頭から食品が消えました。転売ヤーが百円の商品を千円で売り、すぐに五千円になりました。何故その時に買わなかったのかと後悔するのに一日かかりませんでした。翌日には十万円になっています」


そんな事になっていたのか。

俺なら、千円の段階で買えなくなっているなー。


「どこにも食料品が無くなると、日本でもさすがに食糧の奪い合いが始まります。暴動が始まると、じきに電気が使えなくなりました。当然のように水もガスも止まります。助けはどこからも来ません。人々の不安は頂点に達します。そんなとき、東京には政府があり、皆が豊かに暮らしていると噂が広がりました」


誰が流した噂かは分からないが、それを信じるしか無い人の気持ちが分かる気がする。


「最初は高速道路に車が殺到します。今も高速道路には、動けなくなった車が放置されています。人々は車を捨てて、重い荷物を背負い歩いて東京を目指しました。東京の事はよく分かりませんが、東京に避難した人は、帰って来ませんでした」


「東京では、背負っている物資を狙う者達に、皆、例外なく殺されました。酷いものでした」


柳川が顔をしかめた。


「そうですか……。それで東京には行くなと噂が流れたのですね。でも、残っていても食糧が無くなるのを待つだけです。その後も東京を目指す人は後を絶ちません。そんな中、武田一家を名乗る強盗集団がこの甲斐で暴れ始めます。それに続き馬場一家や甘利一家、武田家家臣団の名前を名乗り暴れ出すものが現れます。俺は仲間を守る為、真田を名乗り抗争を繰り返しました」


な、なんだって、この殿様、結構イケイケなのか。

見た目は優しそうな、優男に見えるのだが、見かけによらねえタイプなのだろうか。

俺と同じタイプという事か?

俺は、見た目は普通の豚だが、中身は駄目な豚だ。見かけによらねえだろー。いい意味で。


「抗争に勝つと、相手の物資を奪えます。最初はそれがありがたかった。次々抗争を繰り返すと、仕舞いには武器すら無くなりバットまで使い出す始末です。抗争を繰り返して、次々相手を滅ぼし、やっとこのまえ宿敵武田一家を滅亡させました。武田の物資はうちの持っている分より、はるかに少なかった。何の為の戦いだったのか。戦いの空しさを知りました。気が付けば、真田の手勢は三百人になっています。真田一家の女や子供を合わせても千人を切っています。恐らくこれが甲斐の総人口でしょう」


「……」


俺も柳川も言葉を無くした。


「そんな時でした。関東から、大量の物資を持って里帰りして来た者がいます。聞けば、ゲン一家を率いる木田家に助けられ、いただいた物資と言っていました。ゲン一家の名前はさすがに俺でも知っています。そして、ゲン一家には四天王と呼ばれる幹部がいる事も知っています。松田さん、松本さん、柳川さん、藤吉さんです」


真田の殿はそこで姿勢を正した。

両手を床につけて、柳川の目をジッと見つめた。

そして、ゆっくり頭を下げ、床につけた。


「柳川様、真田一家をゲン一家柳川様の配下の末席にお加え下さい」


「なっ」


柳川は、驚いた。

そして、今度は柳川が真田の殿を見つめている。


「お願いいたします」


真田の殿は再度お願いをする。


「その件を、私はここで即答出来ません」


柳川はそう言うと、真田の殿の耳に口を近づけコソコソ何か言っている。

真田の殿が目を見開き驚いている。

どうやら、俺の正体をばらしているようだ。

それならばと俺は、柳川の真似をして、真田の殿様の耳に口を近づけて話した。


「今日より、木田家真田一家を名乗る事を許します。そして、北条一家と協力して信州攻略を命じます。見事先陣を務め手柄をたてて下さい。但し、木田家では不殺攻略を目指してもらいます。同じ日本人、殺し合いは望みません。どうしても許せない人は仕方がありませんが、不殺を目指して下さい」


「はっ!」


「あー、でも、私は、大田大商店の大田です。よろしくお願いします」


耳から顔を離すと大きな声でそう言った。


「はっ! はっははああーー!!!」


いやいや、それじゃあ、バレちゃうよね。

この後、マグロの刺身の盛り合わせと、玉子、米、お酒などを渡し、料理は任せて宴会を始めた。


宴会が終り、皆が高いびきで眠ったのを確認し、外の駐車場に出た。

外はすっかり暗くなっている。

さて、始めるとしますか。

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