「隊長、腹は減っていませんか」
「はーっ?」
隊長は意味が分からず声を出すと怪訝そうな顔をした。
「俺は減っています」
昨日つかまえた見張りが、声をそろえてそう言った。
「あんたらは、朝飯を食ったばっかじゃねえか」
柳川があきれている。
「ふふふ、大トロ丼です」
最初に隊長に手渡し、昨日つかまえた見張りにも手渡した。
醤油とわさびも出して渡すと、食べるようにうながした。
「うまい」
その声を聞くと、動ける隊員が手を伸ばしたので、彼らにも渡してやった。
「うわあああーーー!! うまーい!! うっうっ」
隊員達は、一口くちに運ぶと、歓喜の声を上げ泣きだした。
湧水の水筒も渡し、進めた。
「あんた達は何が目的なんだ」
「私は商人です。商売にしか興味がありません」
「そうか。だが、もうこの国には何も無い」
そう言うと隊長は暗い顔になってうつむいた。
「そうですかねえ。昨日見て来たのですが、葡萄は雑草に埋もれていましたが、ちゃんと実をつけていましたよ。酒造会社もたくさんありました」
「!?」
隊長が驚いている。
「崩壊した日本ですが、すでに通貨もあります。葡萄酒を売って、食糧を手に入れることが可能ですよ」
「大田さん、すまないが殿にあってはもらえないだろうか」
「私は、最初からそのつもりで来ていますよ。案内をお願いします」
「お、おおおおっ」
隊長が、歓喜の声を上げた。
それを見て、隊員達が丼をかき込みだした。
「皆さん、慌てる必要はありません。ゆっくり食べて下さい。お替わりもありますよ」
隊長と、昨日の見張りが、恥ずかしそうに手を上げた。
全員のお替わりがすむと、隊長を先頭に歩き出した。
二時間ほど北に向って歩くと何か様子が変だ。
「押し返せーーー!! 中に入れるなーーー!!!」
どうやら戦いが起っているようだ。
「くそう。何が起きているんだ」
隊長にも何が起きているのか分からないようだ。
「オイサスト シュヴァイン!!」
俺は素早く変身した。
「うおっ、アンナメーダーマン」
「私が、見てきましょう」
「た、頼んでもいいのか」
「はい」
「我々は、体のどこかに赤い布をまいている。まいていないのは敵だと思ってくれて構わない」
見ると、隊長も、他の隊員も、昨日の見張りも、腕や髪や首に赤い布を巻いている。
「なるほど、わかりやすい」
俺は空を飛んだ。
「うおおおーー!!! アンナメーダーマンは空も飛べるのか。いったいどういうことなんだ。すごすぎる」
俺は、飛びながら様子を見た。
敵は五十人程、赤い布は三百人ほど。
木々に覆われた山の始まりの様な場所の、駐車場で戦いが起っている。
敵も味方も武器は、鉄の棒や、バットなど殺傷能力の少ない物を使っている。
「んっ、あれは」
全身毛むくじゃらで、体の大きい頭のはげた男の姿がある。
すさまじい強さである。
この男は、素手だが、殴り倒した相手は立ち上がる事が出来なくなっている。
多勢に無勢だと思ったがこの男のせいで、赤い布の部隊はどんどん減っていく。
「よう、清水の大将!!」
その大男は、熊ガッパだった。
俺に呼ばれて、キョロキョロしている。
「だ、だれだーー?」
「上だよ。俺は上にいる」
清水の大殿、熊ガッパが上を見た。
他の者達も上を見た。
「うおっ、ダ、ダメナメーダマン!! な、なんでてめーがここにいるんだ」
「誰が、駄目な目玉だよー。アンナメーダーマンだー!! この野郎!!」
「な、何しに来たんだ」
「ここの殿様と商談だ。悪いがあんたは邪魔だ」
俺は、熊ガッパの前に降り立った。
全員が戦いを忘れて、アンナメーダーマンと熊ガッパを見つめている。
「くそっ、あと少しの所で……」
「どうだい、国外追放をかけてやるかい」
俺は拳を前に出した。
「ふん、野郎共、邪魔が入った引き上げるぞーー!!」
「待てよ、清水の大将。これを持っていきな」
俺は、十キロ入りの米の袋を五十袋、サバ缶やレトルトカレーなど保存のきく食料品を出してやった。
「こ、これは」
「このくれーなら、手分けすりゃあ持って行けるだろー。せんべつだ持って行きな」
なんだ、かんだ言って、清水の大将はすごい。
俺が間に合わなければ、この戦いも勝っていただろう。
しかも、三十人で清水を出たはずなのに、二十人ほど人数を増やしている。
カリスマもあるって事だろう。
「野郎共これを持って行くぞー、カバンにつめて運べーー!」
「じゃあな、清水の大将」
「けっ」
清水の大将は、地面にツバを吐くと引き上げていった。
俺は、その後ろ姿を見送った。
「殿ーー!!」
隊長が走ってきた。
殿と呼ばれた男が俺の前に来る。
「助かりました。私は真田と申します」
はーーっ!! 武田じゃねーのかよ。
俺は横に来た柳川の顔を見た。
柳川も苦笑している。
「私はアンナメーダーマン、こっちは柳川です」
「アッ、アンナメーダーマン!?」
「少しお人払いを、正体を知られたくありません」
真田の殿様は隊長の顔を見た。
隊長は、真剣な顔をしてうなずいた。
この人達は、信用しても良い人だと言っているようだった。
「そうですか。では、こちらへ」
遅れて走ってきた隊長の配下が、俺たちの説明をしてくれたようで、高まっていた緊張が解けていった。
俺たちは真田の殿様の案内で、駐車場から伸びる道を進み山頂の建物に案内された。