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0078 その名はクザン

空を飛ぶ最高速度も変身しない方が速いようだ。

ただ、俺が飛ぶ時は、空気を出して飛ぶ。

地表近くでは、ゴミが舞い上がるが、変身すれば空飛ぶホウキと同じ原理で飛ぶので、静かでゴミも舞い上がらない。


空を飛ぶと、数分で大田大商店に着く。

今日の駐車場のアイドルステージはお休みのようだ。

お得意さんの兵士の皆さんが戦争へ行っているので休みなのか、それとも戦争中に浮かれるのも良くないので自粛したのか、あるいはその両方なのだろうか休んでいる。

店の入り口の前で、変身を解除して黄色のジャージになり、ブラックゴーレムと二人で店の中に入った。


「アッ、マスター、オカエリナサイ!」


シュラがすぐに気が付き嬉しそうだ。

あずさも気が付いた様だが、様子がおかしい。

目がうるうるしている。

俺が帰ってきた事が、そんなに嬉しかったのだろうか。


「うわあーー!!」


あずさが、泣きだして走ってきた。

すごいスピードだ。

俺はあずさを受け止める為、両手を広げた。

あずさが、最後は飛びついた。


「……!?」


両手を広げた俺を無視して、ブラックゴーレムに飛びついた。


「とうさん、この子……、この子、うう、ぐすん」


「ど、どうしたんだ。あずさが、こんなに取り乱すなんて」


「この子、前世で私に使えてくれた子にそっくりなんです。少し小さいけど、それ以外はもうまるで同じ。とてもなつかしい。名前は何ですか?」


「まだ、つけていないけど」


「じゃあ、クザン、クザンにして下さい」


「わかった。そうしよう。いいな、クザン」


クザンは、あずさを抱きしめたまま、うなずいた。


「しゃべれないのですか」


「ああ、アダマンタイト製だから、ゴーレム化だけで付与魔法は与えられない。ミスリルで作り直すか?」


「いいえ、クザンは黒くなくてはいけません。このままがいいです。クザンお帰りなさい」


上目遣いでクザンを見つめるあずさは、滅茶苦茶かわいい、やばい。

こうして、大田大商店に一人メンバーが増えた。

クザンには、執事の格好をさせた。


「あずさ、早速だが柳川さんを連れてきてほしい」


「はい、分かりました」


あずさは、姿を消すと十分ほどで帰って来た。

柳川と、アメリちゃんまで一緒だった。


「アメリちゃんは呼んでいませんが」


「アンナメーダーマンと一緒がいいでしゅ」


「アメリちゃん、アンナメーダーマンはまずい。うーーん、そうだなあ、やっぱりあずさと同じで、とうさんと呼んでくれないかな」


さすがに、アンナメーダーマンとどこでも呼ばれたら変身する意味が無い。


「わかりましゅた。と、と、とうしゃん」


そう呼ぶと真っ赤になった。

くっ、かわいい。どう見ても十歳の幼女だ。


「柳川さん、俺は今、大田大商店の店主だ」


俺は、大田大商店の店主だから、柳川を呼び捨てにせず、さん付けにしている。


「はい、わかりました。大田さん。で、何の御用でしょうか?」


「まずは、かけてください」


「おっ!!」


テーブルを案内したが、そこに、はるさんとヒマリちゃん、古賀さん、そして今川の殿様まで座っている。


「また、美少女が増えている。どこで、誘拐したのですか」


おーーい!!

柳川さーーん、人聞きが悪すぎますよー。

またなんて言ったら、何度も誘拐しているみたいじゃ無いですかー。


「柳川さん、ゆ、誘拐はしていません」


「そうです。私は、自分の意志でここにいます。ここには美味しい物が一杯あります」


ヒマリちゃーん! それだと美味しい物でつって、誘拐したみたいになってフォローになっていませんよー。

案の定、柳川が俺の顔を驚いた表情で見てきた。


「や、柳川さん、違います。お父さんもいますから」


俺は、今川の殿様を手のひらで示した。


「初めまして、ヒマリの父の今川と申します」


「なっ!?」


柳川は、驚いて俺の顔を見てきた。

もう誰か気が付いたようだ。


「そうです。柳川さん。こちらは、今川家当主、今川義虎様です」


さすがは、今川家の当主だ。柳川が誰かわかったのか、立ち上がり深々と頭を下げた。

柳川も同じように頭を下げた。


「ふーーっ、柳川です。もう気付かれたようなので、包み隠さず言います。木田家の柳川です」


さすがに柳川だ。完璧な対応だ。

きっと、ため息は、俺に対する物だろう。

密偵と言いながら何をやっているんですか的な意味だろう。


「柳川さん、御説教は後で聞きます。まずは状況を説明させて下さい」


「お伺いしましょう」


「まず、清水家はつぶしました」


「はああぁーーーーーっ!!!!!」


今川さんと、柳川が大きな口を開けて驚いています。

あごが外れますよ。


「あ、あの、保井家の敵討ちに行っていただいたはずでは、無かったのでしょうか」


今川さんが、困惑気味に聞いて来た。


「詳細は、尾野上隊長から聞いて下さい。清水の当主は、クズでしたので退場していただきました。昼過ぎには、尾野上隊長が連行して駿府を通過するでしょう。国外追放にしました。清水の領地は今川さんが統治して下さい」


「あの、大田さんはいったい、どの様な方なのですか」


今川さんが俺の正体に薄々感づいたようだ。


「ふふふ、私は、ただのヘンテコ商品販売の商人ですよ」


「そうですか……。清水の殿は、私にとっては、大恩あるお方。手出しが出来ませんでした。本当は私がやるべき事を、お任せしてしまった形になりました。申し訳ありません」


「では、あの男の悪事も性根も知っていたのですね」


「……」


今川さんは何も言わず、うなずいた。


「保井家をのっとったのは、北条の残党でした。ですが、住民には手を出さず、心を入れ替えたと言っています。私はそれを信じてみたいと思います」


「そうですか。で、どうしてほしいのですか」


「そこで、柳川さんにお願いです。小田原に北条残党を帰し、保井家の領地も今川さんに統治してもらうというのはどうでしょう」


「ふふふ、わかりました。その様に致しましょう」


「一商人の言葉に耳を傾けていただきありがとうございます」


「柳川様、私を一度木田の殿様に合わせていただけませんか」


今川さんが、柳川の目を真剣に見つめ頼んでいる。


「わかりました。数日のうちに手配致しましょう」


「ありがとうございます」


そして、数日後、今川さんが、木田の殿様に面会する日がやって来た。

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