橋の上で日の出を迎えると、朝食の準備が始まり、涼しいうちに進みたいのか、手短に朝食を済ませ出発した。
隊は、保井家の本拠地での戦いを想定しているのか、ズンズン進んでいく。
左手には鉄道、右は高速道路その向こうに海がある。
早朝で少し風がある為か、爽やかで気持ちがいい。
しばらく歩くと、すでに俺は気が付いているのだが、鉄道が国道から離れる所に国道のインターチェンジがある。その高架の上。
そして、国道沿の右側に平行して、南北に走る高速道路の上。
さらに、国道の左側にある建物の上に伏兵がいる。
三方の高所から銃撃をしようと、五百人程で息を潜めている。
高架の下に入るが、まだ誰も気が付いていない。
このまま、高架を通りすぎると三方向から総攻撃を受ける事になるだろう。
敵は高いところから、しゃへい物に身を隠し丸見えの清水連合の部隊を一方的に攻撃できる位置取りだ。
「うてーーー!!! 皆殺しにしろーーー!!!!」
声と共に銃撃が始まった。
銃声があたりに響く。
しかし、よくもまあ、こんなに日本に銃があるもんだ。
アメリカならもっとすごい銃撃戦があったのだろうなー。
「うわあああーーー!!!!」「ひいいいいいーーー!!!」
清水連合から、悲鳴があがった。
全員情けない声を出しながらしゃがみ込んでしまった。
弾丸は、清水連合の部隊を、三度は全滅させる事が出来るほど撃ち込まれた。
「!?」
両軍が、驚いた。
雨のように降り注いでいる銃弾は、清水連合に全く届かない。
「やれやれだぜ! 手を出さないようにと思っていたのに結局こうなるのかよ」
俺は、黒いジャージと、ヘルメットをかぶって、両手を前に出した。
そして、無数の糸のように細くした体で、清水連合の部隊をおおい、弾丸を全部吸収した。
バリアを出せる奴らなら空中に弾丸を止めて、「くっくっく」とか言うのだろうが、俺が出来るのは吸収だ。
弾丸が自然に消えたようにしか見えない。
「撃つのをやめろーー!! アンナメーダーマンがいるうーー!!!! 撃っても無駄だーー!!! 弾がもったいねーー!!」
声の後も少し銃声が続いたが、すぐに静かになった。
どうやら、アンナメーダーマンがやったとわかる者がいるようだ。
「さすがです。大田さん、いえ、アンナメーダーマン!!」
俺の横にいる四人の兵士の声がそろった。
ここにもいたようだ。
「アンナメーダーマン、いるんだろう? あんたがいるのなら勝ち目はねえ。俺たちは、これが最大戦力だ。ここで勝てなければ勝ち目はねえ。降伏する」
本当は、あんた達が勝っていた。
俺は、かわいそうな事をしたと思ってしまった。
だが、俺が手を出さなければ、数百人の命がなくなっている。
今は絶滅寸前の日本人だ。一人でも命を落として欲しく無い。
すまないと、そっと心であやまった。
「ぎゃーーあっはっはっはっはっはー、降伏するのなら武器を捨てて降りてこい!」
清水家の当主であろうか、体の大きな男が急に元気を取り戻し叫んだ。
「わかった! 野郎共! 武器を捨てろー! 降りるぞー!!」
敵の大将が、そう言うと武器を持たずゾロゾロ国道に降りてきて、ひざまずいた。
「ふふふ、全員銃を構えろーー!!!」
清水家の当主が声を上げた。
「な、何をする気だ。こっちは降伏している。……アンナメーダーマン!!」
敵の大将があせっている。
さすがに、このまま撃ち殺す事は無いよなーー。
「なにが、変な目玉だ。保井のかたきだ。皆殺しだーーー!!」
す、駿河の人は、アンナメーダーマンが、変な目玉に聞こえるのだろうか。
「アンナメーダーマン!! 俺たちはあんたに降伏したんだーー!!!!」
「うてーーーっ!!! ぶちころせーーーーっ!!!!」
ダダダダダダダダダ
銃声が鳴り響いた。
「なっ……!?」
全軍に驚きが走った。
当たり前だ。
やらせるわけが無いだろう。
俺は清水連合の前に立ちはだかり、ひざまずく敵軍の前に両手を前に出し立っていた。
「お、おお、ア、アンナメーダーマン、敵にまわすと恐ろしいが、味方ならこんなに心強い事は無い」
「けがは無いか」
「はっ、おかげさまで」
「うむ」
「へ、変な目玉野郎、邪魔をするんじゃねえ。構わねえ、撃てーーー!!!!」
清水連合がふたたび銃撃を始めた。
「アンナメーダーマン、保井の野郎は人身売買をやっていた。かわいそうに少女を売買していた。その売り先が、あの清水の野郎だ。あいつは、芯から腐っている」
「ふむ」
「俺たちは、保井家の住民を一人も殺していない。アンナメーダーマン、小田原の頃の俺たちじゃねえ、心はとうに入れ替えた。あんたの配下になりてえ。頼む!!」
俺が、せわしなく弾丸を吸収しているのに、後ろで勝手にしゃべって、全員頭を下げている。
「やれやれだぜ」
俺が、言うと清水の攻撃が止まった。
どうやら弾切れのようだ。
降伏してひざまずく者に、弾切れまで撃つかねえ。
血も涙もねえのかよ。
「くそーーーっ、どうなってやあがる。攻撃があたらねえ。おい、尾野上なんで今川は攻撃しねえんだ」
尾野上隊長は攻撃の指示をしなかったようだ。
「ふふふ、アンナメーダーマン様は今川の殿の血族です。撃つわけにはいきません」
「な、何だと。アノ野郎、俺が散々嫁によこせと言ったのに、のらりくらりと断わりゃあがったくせに、駿河一の美少女をあんな野郎の嫁に、やりゃあがったということかーーー!!! ぐぬぬぬーー!!!」
あれー、違いますよー。
俺は嫁にしていませーん。
尾野上隊長を見ると、ウインクをバシバシしている。
話しを合わせろと言うことかー。
まあ、仕方が無い。血族にこだわるなら養子にもらって、大恋愛でもしてもらって、うちから盛大に嫁に行ってもらうか。
「そのとーりだ。俺は最早今川家の血縁者だ。今川家配下の者に俺を撃つ事は出来なーーい!! あきらめろー!!」
「ふふふ、そう言う事なら、これで勝負をつける。俺が勝ったらヒマリはもらう、傷もんになっちまったがそれでも十分価値がある。ふひっ」
気持ちわりー変態やろーだー。ヒマリちゃんはてめーには、まかせられねえ。それと、傷もんにはしてねーー。
清水家の殿様は上半身裸になり、拳を握りしめ前にだした。
頭は少しはげているくせに、眉毛や、胸毛、腕の毛はすごい。もじゃもじゃだ。
筋肉も普通じゃ無い。
もう理解した。こいつも超能力者だ。
うちのリラと同じ筋肉特化の超人だ。
「ちっ、やれやれだぜ! 俺が勝ったら、てめーは国外追放だ! それでいいな」
殿様はニヤリと笑った。
俺みたいなデブには負けない自信があるのだろう。
俺は、黒いジャージのまま清水の殿様の前に進み出た。
まてよ、俺ごときが勝てるのかー。
やばい、今更怖くなってきた。