翌朝は、朝から暑かった。
空が元気よく青い、こりゃあ暑くなりそうだ。
即興で、ミスリルの水筒を出した。
水魔法と凍結魔法で、いくらでも冷たい水が出る水筒だ。
俺はならないが、荷物運びの仲間が熱中症にならない為の対策だ。
城の門の前で、遠征隊がすでに整列していた。
俺は荷物を一つ持つと隊列に加わった。
俺が並ぶと、ザワザワしていた荷物隊から会話が消えた。
すぐに四人の武装した兵士が走って来る。
「アン……大田さんですか」
アン、大田さん?
そうか、昨日、殿と尾野上隊長に口止めしたが、ほとんどの人にバレているという事か。
あの時の笑いは、そういう事か。
「はい」
「我々が、お伴致しますのでよろしくお願いします」
「あー、はい。よろしくお願いします。荷物お持ちしますよ。貸して下さい」
俺は、一番近い兵士の荷物をもぎ取ろうとした。
「いいえ、いいえ、大丈夫です。そ、そんな事はさせられません」
「重いでしょう。他の方もほら」
他の兵士も全力で抵抗した。
「じ、自分で持ちますから大丈夫です」
「おーい、隊長、荷物持ちますよー」
俺は、荷物隊の隊長にも声をかけた。
全力で首を振っている。
荷物隊の隊長は前回と違うようだ。
結局、誰も俺に荷物を持たせる事はなかった。
「ぜんぐーん、すすめーー!!」
尾野上隊長が大声を出した。
どうやら全員そろったようだ。
俺は一番後ろで、のんびり付いて行く。
四人の兵士は、俺のお伴としんがりの警備の兼任の様だ。
一時間程で休憩に入った。
全員に今川の殿様から飲み水は渡されているが、川の水を煮沸した物でぬるくて不味い。
近くにいる兵士に、水筒を渡した。
「どうぞ」
「よろしいのですか」
「はい」
「ぐわあ、うまい」
よく冷えた、富士の湧水は、陽が高くなり気温三十度に近い炎天下ではうまいでしょう。
その声を聞いて、他の兵士と近くにいた荷物運びの仲間が水筒を見た。
「皆さんも遠慮無くどうぞ。いくら飲んでも無くならない不思議な大田大商店の水筒です。どんどん飲んで下さい」
「すげー、冷えている」「うめーー!!」
近くにいる人達が騒ぎ出した。
「あのーっ」
「うわあ!」
俺の後ろに尾野上隊長がいて、声をかけてきた。
「その水筒、もう少しありませんか?」
騒ぎを聞きつけ、尾野上隊長が見に来ていたようだ。
荷物袋から出す振りをして、三十個程出した。
実際は、袋に入りきる数では無いが誰も何も言わなかった。
全員が冷たい水を飲み終わると出発した。
清水の駅に着くと、清水宗家の部隊と、先日保井家に行って生き残った兵士と合流した。
何とその中に、荷物隊の隊長とあの時の二人の兵士がいた。
「おい、デブほら、荷物を持て!!!」
三つの荷物が飛んできた。
なんだか、懐かしい。
俺はその荷物を、落とさないように華麗にキャッチすると、両肩と腹側に抱えた。
「な、何をしているのですか」
「そ、そういう事だったのですね」
四人の兵士が、驚き、そのまま怒りの表情になった。
「お、お前達は、何をしているのか分かっているのか」
「そ、そうだ、この方はアンナメーダーマン様だぞ! わかったらお前達が、荷物を持つんだ」
どうやら、この四人は、二人の兵士より偉いようだ。
「ヘンナメーダーマン?」
二人の兵士と、荷物隊の隊長の三人が不思議そうにつぶやいた。
「変な目玉はお前達だ。つべこべ言わずに荷物をもてーーー!!!!」
どさくさに紛れて、四人の兵士は自分たちの荷物も持たせてしまった。
「すみません、アン……大田さん。これは、いじめでは無く罰だと考えて下さい」
そうか、いじめでは無く罰ならしょうが無いな。
自業自得だ。
荷物隊の隊長が俺の荷物を持ってヒーヒー言っている。
まあ、しばらくしたら許してやろう。
俺だけ手ぶらではえらそうで嫌だ。
清水駅を出て、一号線を歩き興津川に着くと、川の手前で今日の行軍は終るようだ。
橋に見張りを立てて陽はまだ高いが宿泊するようだ。
「尾野上隊長、俺も見張りをしたいのですが許可していただけますか」
「もちろんです。アンナメーダーマンに見張りをして貰えれば、これ程心強いことはありません」
尾野上隊長は、もうアンナメーダーマンという事を隠してくれる気は無くなったようだ。
まあ、すでに全員知っているのなら隠す必要も無いか。
俺はいつもの黒いジャージとヘルメットをかぶって宙に浮いた。
「では、行ってきます」
「おおおーー、とっ、飛んだー」
若干知らない人もいたようだ。
アンナメーダーマンは飛びますよー。
川の対岸まで飛び、細い糸のようにした体をズーっと伸ばし、索敵をした。
夜襲に備え今日はこのまま、橋にいようと思う。
橋の上から川を見ると、川の水が澄んでいる。
学校のプールより綺麗に見える。
そう言えば、爺さんが昔は近所の川で泳いで遊んでいたと言っていたなー。
日が暮れても、夜襲の気配はなかった。
「アンナメーダーマン、食事はいかがですか。といってもおにぎりですけど」
尾野上隊長と例の四人の兵士が来てくれた。
「貴重な食糧だ、皆で食べてくれ。実を言うと俺は、特殊能力者だ」
「えっ!?」
五人が驚いている。
こっちが、「えーーっ」だよ。
まだ気が付いていなかったのかよ。
「気が付いて、いませんでしたか?」
「いえいえ、いまさら何を言うのかという驚きです」
あー、そうか。そっちか。
俺はあきれるほど頭が悪いな。
学校の成績は、平均点ぐらいはあったのだけれどなー。
中学では美術と理科が4で、体育は1だったっけなー。
「食事は、ゴミ処理をすれば、必要無いのです」
「えっ、ゴミ処理」
「そう、俺の特殊能力はゴミ処理なんです。だから皆さんで食べて下さい」
「そう言えば、最近町が綺麗になっていましたが、あれはアンナメーダーマンがやってくれていたのですね」
「ふふふ、さっき清水の町もだいぶ綺麗にしましたよ」
「すごいですね。町のゴミ処理をするヒーローなんて聞いた事が無い」
「ふふふ、後は、ゴミ拾いするヒーローにまかせて、皆さんはしっかり休んで下さい」
「ありがとうございます」
五人はそう言うと、そのままここでゴロンと横になった。
俺は、一人が好きな人間だと思っていたが、こういうのも悪くないなーと、思えてきた。