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0075 見張り

翌朝は、朝から暑かった。

空が元気よく青い、こりゃあ暑くなりそうだ。

即興で、ミスリルの水筒を出した。

水魔法と凍結魔法で、いくらでも冷たい水が出る水筒だ。

俺はならないが、荷物運びの仲間が熱中症にならない為の対策だ。


城の門の前で、遠征隊がすでに整列していた。

俺は荷物を一つ持つと隊列に加わった。

俺が並ぶと、ザワザワしていた荷物隊から会話が消えた。

すぐに四人の武装した兵士が走って来る。


「アン……大田さんですか」


アン、大田さん?

そうか、昨日、殿と尾野上隊長に口止めしたが、ほとんどの人にバレているという事か。

あの時の笑いは、そういう事か。


「はい」


「我々が、お伴致しますのでよろしくお願いします」


「あー、はい。よろしくお願いします。荷物お持ちしますよ。貸して下さい」


俺は、一番近い兵士の荷物をもぎ取ろうとした。


「いいえ、いいえ、大丈夫です。そ、そんな事はさせられません」


「重いでしょう。他の方もほら」


他の兵士も全力で抵抗した。


「じ、自分で持ちますから大丈夫です」


「おーい、隊長、荷物持ちますよー」


俺は、荷物隊の隊長にも声をかけた。

全力で首を振っている。

荷物隊の隊長は前回と違うようだ。

結局、誰も俺に荷物を持たせる事はなかった。


「ぜんぐーん、すすめーー!!」


尾野上隊長が大声を出した。

どうやら全員そろったようだ。

俺は一番後ろで、のんびり付いて行く。

四人の兵士は、俺のお伴としんがりの警備の兼任の様だ。


一時間程で休憩に入った。

全員に今川の殿様から飲み水は渡されているが、川の水を煮沸した物でぬるくて不味い。

近くにいる兵士に、水筒を渡した。


「どうぞ」


「よろしいのですか」


「はい」


「ぐわあ、うまい」


よく冷えた、富士の湧水は、陽が高くなり気温三十度に近い炎天下ではうまいでしょう。

その声を聞いて、他の兵士と近くにいた荷物運びの仲間が水筒を見た。


「皆さんも遠慮無くどうぞ。いくら飲んでも無くならない不思議な大田大商店の水筒です。どんどん飲んで下さい」


「すげー、冷えている」「うめーー!!」


近くにいる人達が騒ぎ出した。


「あのーっ」


「うわあ!」


俺の後ろに尾野上隊長がいて、声をかけてきた。


「その水筒、もう少しありませんか?」


騒ぎを聞きつけ、尾野上隊長が見に来ていたようだ。

荷物袋から出す振りをして、三十個程出した。

実際は、袋に入りきる数では無いが誰も何も言わなかった。

全員が冷たい水を飲み終わると出発した。


清水の駅に着くと、清水宗家の部隊と、先日保井家に行って生き残った兵士と合流した。

何とその中に、荷物隊の隊長とあの時の二人の兵士がいた。


「おい、デブほら、荷物を持て!!!」


三つの荷物が飛んできた。

なんだか、懐かしい。

俺はその荷物を、落とさないように華麗にキャッチすると、両肩と腹側に抱えた。


「な、何をしているのですか」

「そ、そういう事だったのですね」


四人の兵士が、驚き、そのまま怒りの表情になった。


「お、お前達は、何をしているのか分かっているのか」

「そ、そうだ、この方はアンナメーダーマン様だぞ! わかったらお前達が、荷物を持つんだ」


どうやら、この四人は、二人の兵士より偉いようだ。


「ヘンナメーダーマン?」


二人の兵士と、荷物隊の隊長の三人が不思議そうにつぶやいた。


「変な目玉はお前達だ。つべこべ言わずに荷物をもてーーー!!!!」


どさくさに紛れて、四人の兵士は自分たちの荷物も持たせてしまった。


「すみません、アン……大田さん。これは、いじめでは無く罰だと考えて下さい」


そうか、いじめでは無く罰ならしょうが無いな。

自業自得だ。

荷物隊の隊長が俺の荷物を持ってヒーヒー言っている。

まあ、しばらくしたら許してやろう。

俺だけ手ぶらではえらそうで嫌だ。


清水駅を出て、一号線を歩き興津川に着くと、川の手前で今日の行軍は終るようだ。

橋に見張りを立てて陽はまだ高いが宿泊するようだ。


「尾野上隊長、俺も見張りをしたいのですが許可していただけますか」


「もちろんです。アンナメーダーマンに見張りをして貰えれば、これ程心強いことはありません」


尾野上隊長は、もうアンナメーダーマンという事を隠してくれる気は無くなったようだ。

まあ、すでに全員知っているのなら隠す必要も無いか。


俺はいつもの黒いジャージとヘルメットをかぶって宙に浮いた。


「では、行ってきます」


「おおおーー、とっ、飛んだー」


若干知らない人もいたようだ。

アンナメーダーマンは飛びますよー。


川の対岸まで飛び、細い糸のようにした体をズーっと伸ばし、索敵をした。

夜襲に備え今日はこのまま、橋にいようと思う。


橋の上から川を見ると、川の水が澄んでいる。

学校のプールより綺麗に見える。

そう言えば、爺さんが昔は近所の川で泳いで遊んでいたと言っていたなー。


日が暮れても、夜襲の気配はなかった。


「アンナメーダーマン、食事はいかがですか。といってもおにぎりですけど」


尾野上隊長と例の四人の兵士が来てくれた。


「貴重な食糧だ、皆で食べてくれ。実を言うと俺は、特殊能力者だ」


「えっ!?」


五人が驚いている。

こっちが、「えーーっ」だよ。

まだ気が付いていなかったのかよ。


「気が付いて、いませんでしたか?」


「いえいえ、いまさら何を言うのかという驚きです」


あー、そうか。そっちか。

俺はあきれるほど頭が悪いな。

学校の成績は、平均点ぐらいはあったのだけれどなー。

中学では美術と理科が4で、体育は1だったっけなー。


「食事は、ゴミ処理をすれば、必要無いのです」


「えっ、ゴミ処理」


「そう、俺の特殊能力はゴミ処理なんです。だから皆さんで食べて下さい」


「そう言えば、最近町が綺麗になっていましたが、あれはアンナメーダーマンがやってくれていたのですね」


「ふふふ、さっき清水の町もだいぶ綺麗にしましたよ」


「すごいですね。町のゴミ処理をするヒーローなんて聞いた事が無い」


「ふふふ、後は、ゴミ拾いするヒーローにまかせて、皆さんはしっかり休んで下さい」


「ありがとうございます」


五人はそう言うと、そのままここでゴロンと横になった。

俺は、一人が好きな人間だと思っていたが、こういうのも悪くないなーと、思えてきた。

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