俺たちは、静かに人混みに紛れて、帰ろうとした。
「待ってくれ、あんた達はいったい何者だ?」
尾野上隊長に呼び止められた。
「ふふふ、誰かわからないように、こんな格好をしているんだ。出来れば詮索しないで欲しい」
「隊長、あの子は、アスラちゃんです。大田大商店のアイドルです」
だーーーっ!!!
一瞬でバレてしまった。
「アスラさん、正義の味方は誰だかバレてはいけない事は分かっているよね」
「大丈夫です。まだアスラとしかバレていません。謎は残ったままです」
「そうだな。うん。確かに謎は残っている」
なんだか、名探偵と逆の事を言っているなー。
あずさとはバレていないので良しとしよう。
「尾野上隊長!!」
「どうした」
「お耳を……」
「なっ、なにーーーっ!!!」
尾野上隊長がすごく動揺している。
何か大事件の予感。
「すまない。大田さん、事件が起きた。後で殿とお店に行く、待っていてくれ」
「はぁーっ、わかりました」
俺はため息をついた。
結局、大田大とアンナメーダーマンが同一人物とバレている。
「じゃあ、帰ろうか。アスラーマン移動魔法を頼む」
「はい」
「うおーー消えたぞー!! 三人が消えたー!!」
「アッ、マスター! オカエリナサイ。アズキサマモ、ハルサマモ、オカエリナサイ!」
「ただいま! シュラちゃん!」
三人の声がそろった。
俺は、大田大商店の二階に帰って来た。
なんだか久しぶりの感じがする。
「はあーーっ」
大きなため息が出た。
俺は落ち込んでいる。
隕石騒ぎの前の日本では、力を持った政治家や金持ちが結託して底辺に暮らす俺達から、税という名目でお金をむしり取っていた。
底辺の人間を助けようともせず、消費税を二十パーセントにしようとする考えまであった。
こんなに破壊された世界でも力を持った者達が、力を振りかざし理不尽な要求をして底辺の人を苦しめている。
「恐竜は、隕石が落ちて滅亡した。人間は頭が良いから、隕石が落ちるという情報だけで滅亡するのかもしれないな」
「滅亡しませんよ。とうさんがいるもの」
あずさが抱きついて来た。
その顔は悲しみでいっぱいだった。
俺が元気ないから心配しているのか。
「なあ、浜松にも人が大勢生きている様だ。ウナギが食べられるかもしれない」
「な、な、なんですとーーっ」
あずさがはしゃいでくれた。
この子は頭が良い、わざとはしゃいでくれているはずだ。
「ふふふ、まいるぜ!!」
俺はあずさの頭を撫でた。
あずさがいれば、この世界はなんとかなるような気がしてきた。
あずさにまたもや、勇気をもらった気がする。
着替えを済ませ、シャワーを浴びて二階に戻った。
しばらく休憩するとすぐに夕方になった。
「お、大田さん!!」
店の入り口が開き尾野上隊長と、殿と四人の護衛が入って来た。
「この方がアンナメーダーマンなのですか?」
殿が丁寧な口調で尾野上隊長に質問している。
その質問には俺が答えた。
「まあ、本当は知られたくありませんが、そうです。ところで皆さんは、食事を済まされましたか」
「いいえ、まだです」
「そうですか。では、話しは食事をしながら致しましょう」
俺がそう言うと、うちのメイド四人が準備を始めた。
あずさはもともとメイド姿で、シュラもメイド姿、はるさんも、のりのりでメイド姿になっている。
商談用の机を二つ並べて、その上に手際よく並べていく。
メニューはキンキンに冷えたビールと、大トロのマグロ丼だ。
「すげーー!!」
護衛の兵士がゴクリとツバを飲んだ。
「どうぞ、食べてください。で、何がありました」
「はい、保井一家が北条一家にのっとられました」
「えっ」
「当主の保井は討ち死にしたという事です」
「住民は大丈夫ですか」
「はい、なんでも住民に危害を加えるなー、アンナメーダーマンが来るぞー。と言っていたようです」
おいおい、妖怪扱いだな。
尾野上さんが言い終わると、殿が口を開いた。
「清水宗家から、討伐隊を五百人出す事が決り、うちからも三百人援軍を出す事になりました」
「そうですか」
また戦争だ。
俺はまたまた、気分が暗く落ち込んでしまった。
「そこで、大田さんにも参加していただきたく」
「ちょっと待ってください。俺は傭兵じゃありません。戦闘に直接参加をする気はありません」
「!?」
殿と尾野上隊長が驚いている。
俺の事を戦闘狂とでも思っているのだろうか。
「荷物持ちならしますが、それ以上の協力はしません。それでよろしければ」
結局、手を出すのだろうけど、それは死者を減らす為だけに限定したい。
「わかりました。それでお願いします」
「それと、俺がアンナメーダーマンということは秘密でお願いします」
「ふふふ、わかりました」
殿と尾野上隊長が意味ありげに笑いながら返事をした。
俺の参加が決まると、殿達一行は帰って行った。
「あたしは、はじめて今川の殿様をこんなに近くで見たよ」
はるさんが少し興奮している。
「考えてみれば、ファンタジー小説なら、御領主様が家に来るイベントだ。待てよー。こういうイベントの時には、御領主の娘さんが先に友達になるはずだが今回は無しなのか」
俺は考え事が口に出ていた。
「いますよーー!!」
「うわああ!! いたあ!!!」
「佐藤陽葵(サトウヒマリ)です。十二歳です。あずきちゃんとはマブだちです」
メイド姿で、三人に溶け込んで働いていた。
モグモグ口を動かしている。大トロをつまみ食いしたようだ。
だから、四人だったのかー。