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0073 新たな事件

俺たちは、静かに人混みに紛れて、帰ろうとした。


「待ってくれ、あんた達はいったい何者だ?」


尾野上隊長に呼び止められた。


「ふふふ、誰かわからないように、こんな格好をしているんだ。出来れば詮索しないで欲しい」


「隊長、あの子は、アスラちゃんです。大田大商店のアイドルです」


だーーーっ!!!

一瞬でバレてしまった。


「アスラさん、正義の味方は誰だかバレてはいけない事は分かっているよね」


「大丈夫です。まだアスラとしかバレていません。謎は残ったままです」


「そうだな。うん。確かに謎は残っている」


なんだか、名探偵と逆の事を言っているなー。

あずさとはバレていないので良しとしよう。


「尾野上隊長!!」


「どうした」


「お耳を……」


「なっ、なにーーーっ!!!」


尾野上隊長がすごく動揺している。

何か大事件の予感。


「すまない。大田さん、事件が起きた。後で殿とお店に行く、待っていてくれ」


「はぁーっ、わかりました」


俺はため息をついた。

結局、大田大とアンナメーダーマンが同一人物とバレている。


「じゃあ、帰ろうか。アスラーマン移動魔法を頼む」


「はい」


「うおーー消えたぞー!! 三人が消えたー!!」




「アッ、マスター! オカエリナサイ。アズキサマモ、ハルサマモ、オカエリナサイ!」


「ただいま! シュラちゃん!」


三人の声がそろった。

俺は、大田大商店の二階に帰って来た。

なんだか久しぶりの感じがする。


「はあーーっ」


大きなため息が出た。

俺は落ち込んでいる。


隕石騒ぎの前の日本では、力を持った政治家や金持ちが結託して底辺に暮らす俺達から、税という名目でお金をむしり取っていた。

底辺の人間を助けようともせず、消費税を二十パーセントにしようとする考えまであった。

こんなに破壊された世界でも力を持った者達が、力を振りかざし理不尽な要求をして底辺の人を苦しめている。


「恐竜は、隕石が落ちて滅亡した。人間は頭が良いから、隕石が落ちるという情報だけで滅亡するのかもしれないな」


「滅亡しませんよ。とうさんがいるもの」


あずさが抱きついて来た。

その顔は悲しみでいっぱいだった。

俺が元気ないから心配しているのか。


「なあ、浜松にも人が大勢生きている様だ。ウナギが食べられるかもしれない」


「な、な、なんですとーーっ」


あずさがはしゃいでくれた。

この子は頭が良い、わざとはしゃいでくれているはずだ。


「ふふふ、まいるぜ!!」


俺はあずさの頭を撫でた。

あずさがいれば、この世界はなんとかなるような気がしてきた。

あずさにまたもや、勇気をもらった気がする。


着替えを済ませ、シャワーを浴びて二階に戻った。

しばらく休憩するとすぐに夕方になった。


「お、大田さん!!」


店の入り口が開き尾野上隊長と、殿と四人の護衛が入って来た。


「この方がアンナメーダーマンなのですか?」


殿が丁寧な口調で尾野上隊長に質問している。

その質問には俺が答えた。


「まあ、本当は知られたくありませんが、そうです。ところで皆さんは、食事を済まされましたか」


「いいえ、まだです」


「そうですか。では、話しは食事をしながら致しましょう」


俺がそう言うと、うちのメイド四人が準備を始めた。

あずさはもともとメイド姿で、シュラもメイド姿、はるさんも、のりのりでメイド姿になっている。

商談用の机を二つ並べて、その上に手際よく並べていく。

メニューはキンキンに冷えたビールと、大トロのマグロ丼だ。


「すげーー!!」


護衛の兵士がゴクリとツバを飲んだ。


「どうぞ、食べてください。で、何がありました」


「はい、保井一家が北条一家にのっとられました」


「えっ」


「当主の保井は討ち死にしたという事です」


「住民は大丈夫ですか」


「はい、なんでも住民に危害を加えるなー、アンナメーダーマンが来るぞー。と言っていたようです」


おいおい、妖怪扱いだな。

尾野上さんが言い終わると、殿が口を開いた。


「清水宗家から、討伐隊を五百人出す事が決り、うちからも三百人援軍を出す事になりました」


「そうですか」


また戦争だ。

俺はまたまた、気分が暗く落ち込んでしまった。


「そこで、大田さんにも参加していただきたく」


「ちょっと待ってください。俺は傭兵じゃありません。戦闘に直接参加をする気はありません」


「!?」


殿と尾野上隊長が驚いている。

俺の事を戦闘狂とでも思っているのだろうか。


「荷物持ちならしますが、それ以上の協力はしません。それでよろしければ」


結局、手を出すのだろうけど、それは死者を減らす為だけに限定したい。


「わかりました。それでお願いします」


「それと、俺がアンナメーダーマンということは秘密でお願いします」


「ふふふ、わかりました」


殿と尾野上隊長が意味ありげに笑いながら返事をした。

俺の参加が決まると、殿達一行は帰って行った。


「あたしは、はじめて今川の殿様をこんなに近くで見たよ」


はるさんが少し興奮している。


「考えてみれば、ファンタジー小説なら、御領主様が家に来るイベントだ。待てよー。こういうイベントの時には、御領主の娘さんが先に友達になるはずだが今回は無しなのか」


俺は考え事が口に出ていた。


「いますよーー!!」


「うわああ!! いたあ!!!」


「佐藤陽葵(サトウヒマリ)です。十二歳です。あずきちゃんとはマブだちです」


メイド姿で、三人に溶け込んで働いていた。

モグモグ口を動かしている。大トロをつまみ食いしたようだ。

だから、四人だったのかー。

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