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0072 誇り高き日本人

ダダダダダダ


銃弾は伊藤の体に当たる事はなかった。

全ての銃弾は、見えない壁に止められたように宙に浮いている。

攻撃が無駄とわかると徐々に攻撃が止まる。全ての攻撃が止むとサイコ伊藤が笑い出した。


「ひひひひひひ」


その笑い声は、人々の背筋を寒くした。

サイコ伊藤は、静かに目を閉じた。

そしてクワッと目を見開くと同時に、右手を左から右にふり手の平を開いた。

俺は思い切りジャンプをすると、そのまま宙に浮き、サイコ伊藤と同じ動作をした。


サイコ伊藤のまわりの銃弾が弾けるように、まわりに飛び散ると、次の瞬間その全てが消えた。


「なっ、何だと!? 何が起った?」


「俺が、全て処理させてもらった!」


サイコ伊藤は目を見開き驚いている。

恐らく、この攻撃で浜松では数百人の人を殺したのだろう。

だが、俺の前ではそうは行かない。

一度撃ち出された銃弾など廃棄物だ。

廃棄物なら今の俺は光の速さで処理が出来る。

一発たりとも逃さず吸収させてもらった。


「くそったれめ、ならばこうだ」


サイコ伊藤は左手を、下におろした。

殿の上の鉄球が落ちる。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!


殿が大声で叫んだ。

俺は、わざと殿に落ちる直前で鉄球を消した。

この鉄球も、廃車から出来た物で廃棄物だ。

これも、ありがたく吸収させてもらった。


「なっ、消えた! き、貴様の仕業かー!!」


「そうだ」


俺は宙に浮かび、サイコ伊藤と同じ高さで停まり、視線を合わせた。


「何てことだい。居酒屋でおびえていたあの人が悪人に立ち向かっているよ」


「ふふふ、とうさんは自分だけの事なら戦いを避けます。でも、大勢の命の為ならとても勇敢です。とてもかっこいいのです。はるさん、私も奴らをこらしめに行ってきます」


あずさは、ミスリルの太い棍を出すとその上に、立ったまま乗った。

スーッとあずさの体が宙に浮き俺の隣に来た。

それは良いけど、この高さだとあずさのメイド服のスカートの中が下から丸見えになる。


「ぉぉぉぉぉ……」


低い声が聞こえた。大勢の視線があずさのスカートの中に集まった。




「いったい、お前は何者だ」


サイコ伊藤が、やっと俺の存在を認めたようだ。


「俺か……」


俺はためを作ってじらそうとした。


「ふふふ、耳の穴をよくかっぽじって聞きなさい!! この方こそがアンナメーダーマンよ! そして私こそが、アスラーマン!!!!!」


おーーーーいっ!!

紹介してくれたのは良いけど、アスラーマンの方が五倍は声が大きいぞ。

まるでアスラーマンだけの紹介になってしまったぞ。


「アッ、アスラーマンだと!!」


おーーい、アンナメーダーマン忘れ取るぞー。

お前の目的じゃねえのかよーー。


「たった、二人でどうするつもりだ。こっちは十六人いる」


「ふふふ、二人じゃありません。私一人が相手です」


あずさはバランスが取りにくいのか棍の上でフラフラしている。

もともと丸出しの白い物が、そのたびに形を変えた。

でも、安心してください。これは、水着です。

あずさは、握手会を邪魔されたのがよほど悔しかったのかまだ怒っているみたいです。


「ふざけているのか。がきがー!!」


「ここに来て分かったけど、あなたにはハルラのバフが薄らついていますね。それをまず無効化します」


あずさが手を前に出した。

すると、サイコ伊藤と十五人の部下が真っ逆さまに地面に落ちていく。

ハルラのバフで超能力が強化されていたようだ。

それが消えると、宙に浮く事さえ出来ないようだ。


「うわあああああああーーーー!!!!!!」


俺まで大声を出してしまった。このまま落ちたら死んでしまう。

あわてて、左手を十六本のロープの様に変化させ、地面にぶつかる寸前でサイコ伊藤と部下の足に巻きつけ止める事に成功した。

まるでバンジージャンプの様にバウンドしている。


「そして、仕上げに私からのバフをプレゼントします。身体能力二分の一!! これで、あなた達は普通に歩く事も出来ないでしょう」


俺は巻き付けたロープ状の体を元に戻し、サイコ伊藤達を開放した。


「ぐううう」


サイコ伊藤は、立ち上がるのもしんどそうだ。

それを見て。


「引っ捕らえろーー!!」


尾野上隊長が声を上げた。

部下の兵士が、サイコ伊藤とその手下に駆け寄り、後ろ手に手錠をかけた。


「なあ、あんた」


俺はサイコ伊藤の正面に立ち話しかけた。


「ふん、てめーは何者だ!」


「いやいや、さっき言ったよね、アンナメーダーマンだよ」


「な、なっ、お前……、お前がアンナメーダーマンなのかーー!!!」


「おーい、アスラーマン、こいつ脳みそも半分になっているのか?」


「いいえ、脳みそはそのままです」


「き、貴様らー!!! ……説教なら聞かんぞ!!」


「まあ、聞いてもらわなくてもかまわねえ、言うだけ言わせてもらう」


「ふん、勝手にしろ!」


ハルラにしても、こいつらにしても、大きな力を持った者がこんな世界になった後でも、弱き者を助けようともせず、むしろ虐げようといている事に、悲しい気持ちになっていた。


「いいか俺たちは誇りある日本人だ。隕石騒ぎの前の動画で、外国人が日本を褒めているのを沢山見た。例えば、横断歩道で渡ろうとして停まっている小さな子供がいる。それを見つけた車が、手前で止まる。子供が横断歩道を渡ると、その後どうしたと思う」


「知るか!」


「ペコリと頭を下げるんだ。日本人は小さな子供でも自然にそんな事が出来る。ある外国人は、日本の町はゴミが落ちていなくて綺麗だという。財布を落として困っていたら、それが帰って来たと感動している。海外ではあり得ないそうだ」


「……」


「だが、俺は知っている。日本にも車の灰皿のゴミを駐車場で捨てる奴。買い食いしたゴミをそこら辺にすてる奴。あおり運転をして、人をぶん殴る奴。お前らはこっちだな」


「それがどうした」


「隕石騒ぎの後、日本には食べる物が少ない。協力して助け合わねえと滅亡するぞ。俺は、礼儀正しく、優しい日本人はこの危機を乗り越えられると信じている。お前達のように、特殊な強い力を持った者が弱い者を助けなくてどうするんだ」


俺たちの後ろで、まばらに拍手が起った。


「ふん、強い力を持った者が、いい思いをするのは当然の権利だ!! 弱い者など滅びればいいんだー。知った事か!!」


きっと、こいつは底辺の苦しさを知らないのだろう。

俺はずっと底辺をはいずっていた人間だ。

どうせ,いい思いをするなら、底辺の人間が全部一緒の方がいい。

こいつとは、同じ考えになる事はないのかとあきらめた。


「アスラーマン、心が疲れた。うめさんと帰ろうか」


「とうさん、はるさんだからね」


「そうだよ、人の名前を間違えるんじゃ無いよ」


知らない間に後ろに来ていたはるさんが、泣きながら怒っていた。

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