逃げる兵士がいなくなると、少し遅れて賊が俺の前を通りすぎる。
俺に気が付かないのか、どんどん通り過ぎる。
三十人ほど通り過ぎた時、気付いてくれそうも無いので声をかけた。
「おい、おまえら!!」
その声を聞くと、賊達はSNSで見た子猫が驚いた時のように数メートル飛び上がった。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
そして、大声を上げた。
まるで、俺の存在に気が付いていなかったようだ。
「おいおい、そんなに驚かなくても良いだろう」
少し笑いそうになったが、我慢してつぶやいた。
「て、てめーは何もんだー!!」
「俺かい、俺は……」
じらそうと思って、少しためて名乗ろうとした。
「お、お前は、アンナメーダーマン! 何でこんなところにいるんだ?」
おーい、俺が名乗る前に言うんじゃねーよー。
でも何で俺の名前を知っているんだ。
まさか俺はすでに有名人なのか。
そんなわけは無いわな。
良く見ると俺の名前を言ったのは、迷彩服の武装した男だった。
恐らく小田原で逃がしてやった兵士の様だ。
隠してあった武器を持って、保井家を襲ったというところか。
その時、近所の賊を配下にしたのだろう。
「ぎゃはは、アンナメーダーマン。なんだそりゃあ、変な名前だなあおい。死ねー!」
迷彩服を着ていないガラの悪い男達が、銃を向けてきた。
「やめろ、そいつに攻撃するんじゃねえ! 俺たちでは勝てねえ!!」
迷彩服の男が止めた。
「あ、あんた、こんな所で何をしているんだ?」
別の迷彩服が聞いて来た。
「俺かい、賊が暴れているって聞いてね。賊退治だ」
「ちっ! 俺たちは、これで部隊を引き上げる。それで見逃してくれないだろうか」
賊は、ここで見逃せば部隊を引き上げてくれるようだ。
少し、駿府へ向っている得体の知れない者が気になっている。
ここらで、妥協するのが得策と考えた。
「わかった。見逃してやる。さっさと行け」
そう言うと賊は,素直に引き返していった。
俺は、荷物を持つと空を飛び、誰にも見つからないように駿府の大田大商店を目指した。
「シュッラちゃーーん!!!」
空を飛んで行けば、大田大商店など三十分もかからない。
戻ってみると、店の一階の駐車場から大きな声がする。
何やら駐車場に簡単なステージのような物が作られて、シュラが踊っている。
まわりの男達は、俺の作った光るミスリルロッドをサイリウムのように使い、オタ芸を披露して、声援を送っている。
「ありがとうございました。次はアスラちゃんのステージです」
そう言うと、シュラは小さく手を振り可愛くステージを降りた。
おーーい、なんだか地下アイドルのステージのようになっとるぞー。
面白そうなので黙って見ていると、あずさがミニスカートのメイド服でステージに上がって、パフォーマンスを始めた。
「アッスラちゃーーん!!」
また、オタ芸が始まった。
ステージ上では、メイド服からチラチラ白い物を出してあずさが踊って、歌っている。
「殿ーー!!」
道路にバイクを止めて、男が叫びながら走ってきた。
「バカヤロー、せっかくのステージを邪魔するんじゃねえ。それと、殿はやめろって、言っているだろー。殿と呼んで良いのは、ビートたけしだけなんだよ!」
うん、うん、よくわかる。
殿と呼ぶ方は良いかもしれないが、呼ばれる方は嫌なもんだ。
……
まさか、あの男、今川家の当主様なのか。
見た目はちょい悪、イケおやじだ。すげーもてそうだ。
俺と大違いだ。
だが、最前列にいた殿は、手に光るミスリルロッドを持って、オタ芸をやっていたようだ。
オタクなのか?
「例の奴らがあと二十分程の所に来ています。城に戻ってください」
「ふむ、わかった。尾野上行くぞ」
「あっ、尾野上隊長!!」
「おお、大田さん。……なんでここにいるのですか」
「そういう、尾野上隊長こそ、はやいですね」
「俺は伝令のバイクを借りて、ぶっ飛ばしてきました。大田さんはどうやってここまで帰って来たのですか?」
やばい、どう誤魔化そう。
「おい、尾野上行くぞ、何をしている」
「はっ、今行きます。では、大田さん話しは後ほど」
尾野上隊長は、一礼すると走って行った。
「では、これでステージは終了でーす」
どうやらあまり見ていないうちにあずさのステージは終ってしまったようだ。
「と、ととと、とうさん?! いつからいたのですか」
あずさが俺の存在に気が付いた。
「ふふふ、シュラが『次はアスラちゃんのステージです』と言ったところかな」
「うーー、最初からじゃないですかー」
あずさが顔を押さえ耳まで真っ赤になっている。
「あずき、なにやら、大変な事が起きている様だ。城に行くぞ。シュラとはるさんは留守番を頼む」
「ハイ、マスター」
「何をいっているのさ、あたしはついて行くよ」
おかみさんは、ついてくる気満々だ。
「出来れば来ない方がいいと思うのだが、言っても無駄そうだな。仕方がない。じゃあ行こうか」
あずさのステージを囲んでいた者も今川家の者だったらしく、殿に同行したために、駐車場は静かになっていた。
俺たちが城に着くと、城のまわりには大勢の人だかりが出来ていた。
街中の人が集まっているようだ。
その視線は駅ロータリーにむいている。国道一号線を進んでくる、得体の知れない者の来るのを、全員が固唾を呑んで待っている。