翌日、朝食を済ますとシュラを留守番にして役所へ出かけた。
駅の北口まで戻り北へ歩くと、駿府城址を囲む車を積み重ねたバリケードの様な壁が見える。
近づくと、壁は駿府城址を囲む県道に築かれ、ぐるりと駿府城址を囲んでいる。
壁の中に県庁舎があり、ここが本丸になっているようだ。
戦国武将今川家の家紋の大きな旗が立っている。丸に二本線のわかりやすい家紋だ。
駿府城址を囲む壁の外に市役所があり、ここが受付の対応をしている。
市役所の建物の外にテントがあり、ここに人が集まっている。
恐らく建物の中は、すでに暑く、暗いので外で受付をしているのだろう。
ファンタジーのギルドのように感じる。
「あの、店を出したいのですが」
案内と書いてある机にいる女性に話しかけた。
「では、三番の窓口へ行ってください」
「わかりました」
一番、二番の討伐隊募集の窓口を通り越して、三番の窓口の前に来た。
一番、二番の窓口は人が大勢いたが三番には人が一人もいない。
四番の窓口は、行方不明の家族を探す窓口になっている。
ここも人が一人も並んでいない。
恐らく数ヶ月前は沢山の人が並んでいたのだろう。
「すみません、お店の登録をお願いしたいのですが」
「おお、あんたは」
窓口にいたのは、居酒屋で会った、尾野上さんだった。
「尾野上さんですね。俺は大田です。お店を出したいのですが」
「そうですか。どちらに出されますか」
尾野上さんは白地図を出した。
地図は、駿府城のまわりと駅までの道沿が赤く塗ってある。
俺は店の場所を、指さした。
「ここですか。見ての通り、色が塗っていないところは空き家です。城のまわりから駅の近くに人が多くいます。大田さんの店は、そこから少し離れています。空き家は、まだあります、変更された方がいいと思いますよ」
尾野上さんは優しい人なのか、丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございます。ですが、俺はここが気に入ってしまいました。問題なければここでお願いします」
あんまり人通りの多いところは、遠慮したいのでその点でも、かえって丁度いい。
大田大商店のまわりには、赤いところが無いので、近所迷惑もかけなくて済みそうだ。
「そうですか。わかりました」
尾野上さんは、白地図の俺の店を赤く塗りつぶした。
ブオオオオォォォォォ
数台のバイクが猛スピードで、車の壁の間に開いている門をくぐって、中に入っていった。
「あれは?」
俺は、尾野上さんに聞いて見た。
この人は、今川家の部隊の中隊長と言っていた。
いろんな情報を持っているだろう。
「あーあれですか、あれは、伝令ですね。何か起きたのかもしれません。まあ、今日の俺の仕事は、こっちの担当ですから関係ないでしょう」
「そうですか。ところでなぜ、庁舎の中で受け付けをしないのですか」
俺は大体答えは知っているが、聞いて見た。
「ああ、庁舎の中は、すでに暑い。外の方が、風がある分涼しいのですよ。それに明かりが無いので、中は暗いですからね」
「そ、そうなのですか」
俺は驚いた振りをする。そして続けた。
「大田大商店では、涼しくする為の物と明かりを商品にしています。これから、夏になります、あると便利ですよ」
「な、なんと、見ることは出来ますか?」
「お店に来ていただければ、お見せ出来ます」
さりげなく、お店の宣伝をしておいた。
少し書類を書かされたが、偽名でも何でも登録できるようだ。
「では、登録料をお願いします」
「いくらですか?」
「二万円です。前払いとなります」
どうやら、売り上げに応じて支払うのでは無く、一店舗いくらと払うようだ。
まあ税務署も無いのだから、こんな所なのだろうか。
おかみさんが、お金を数えだした。
「隊長ー!! た、大変です」
尾野上さんの部下が慌てて走ってきた。
「どうした」
「はい、保井一家から救援要請があり、隊長の隊が救援隊として派遣されることが決まりました」
「何があった」
「はい、保井一家の領地が賊に荒らされ、報復の為五十人の討伐隊を出しましたが全滅。再度百人出しましたが、敗走しました」
「ふむ」
「殿より、百人の部隊を率いて保井一家に協力し殲滅せよと、下知がありました。すぐに準備して下さい」
すげー、今川家、殿とか言っちゃてるよ。
言われるの嫌だろうなー。かわいそー。
「わかった。大田さん聞いての通りです。どうですか。荷物運びの働き口がありますが、参加して見ませんか」
「えっ!? 日当はいくらですか」
「日当は四千円、五日間と言うところですかな」
「二万円かー。登録料と相殺できますか?」
「もちろんです」
「わかりました。荷物運び承りました」
俺は、おかみさんにお金を払ってもらうのに、気が引けていた。
お金が稼げるのなら丁度いいと思い、引き受けることにした。
「私も行きます」
すかさず、あずさが言った。
「あはははは、女性は無理です」
尾野上さんに笑って一蹴された。
「あずきと、はるさんは、留守番を頼む」
「おい、この二人に一人女性職員をつけて、お店まで行くように手配してくれ」
「はっ」
尾野上さんは出来る人の様だ。
俺の店に商品を見に行くよう手配してくれた。
「じゃあ、大田さん行きましょうか」
俺は、尾野上さんに案内されて、車の壁の中に案内された。
「隊長、また、受付なんかやっていたんですか」
「当たり前だ、人手不足なんだ、俺はどこでも働く。それより準備は出来たか」
「はっ、尾野上隊百人、輜重隊五十人そろっています」
朝一で役所へ行ったのが良かったのか、俺は今川家の荷物持ちの一人に潜り込むことが出来た。