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0065 駿府の拠点

「何にしますか? うふふ、あの人達が気になりますか。大丈夫ですよ。あの人達は今川家の中隊長さん達です。今川家は民間人との喧嘩は御法度。犯罪……食い逃げ、でも犯さなければ何もされませんよ」


女中さんが注文を取りに来て、がらの悪い連中の説明と、食い逃げをしないように釘を刺してきた。


「ビールがあるのか?」


メニューは壁に貼ってある。

その中で見つけて聞いて見た。


「ふふふ、あります。ありますが、電気が無いので常温です。なまぬるいですよ」


申し訳なさそうに言った。


「そうさねー、あたしはお酒と、今日の煮魚だ」


「俺たちは、今日の煮魚とご飯とお茶で」


「はい、かしこまりました」


「うふふ、静岡と言えばお茶です。楽しみ」


あずさが嬉しそうだ。


「あんたは、そんな大きな体で、もしかするとお酒が飲めないのかい」


「ああ、むしろ苦手だ。味が嫌いなのと、すぐに真っ赤になって頭が痛くなって吐いてしまう」


「あずさちゃんは飲んでみるかい?」


「こらこら、あずさは未成年だ」


「何を言っているんだい、もうこの国に法律は無いよ」


「おい、おい、駄目だぜ。今川家じゃあ、日本の法律が生きている。未成年はアルコール禁止だ」


中隊長の一人がこっちに歩いて来て、勝手に座った。

三人だから、俺の横が空いている。

俺は、負け組男だ。とっさにうつむいて、目を合わさないようにしてしまった。情けねえ。


それにおかみさんが気付いたのか、少し表情が曇った。


「勝手に座るんじゃ無いよ。なんだいあんたは」


「俺は、今川家の家臣尾野上だ。あんたら、見ない顔だなー。どこから来たんだ」


「あたしは、保井一家の領地からだ。この二人は小田原からだよ」


「そうか、家族かと思ったが違うのか。で、小田原から何をしに」


尾野上が、俺に聞いて来た。

完全に怪しんでいるな。


「……」


だが、俺はとっさに答えることが出来なかった。

負け組の底辺のおっさんの行動など、こんなもんだ。


「ふふふ、いや、すまなかった。邪魔したな。楽しんでいってくれ」


尾野上は俺のこの姿に、取るに足らない奴と判断したのか、警戒を解いて自分の席に戻って行った。

かえってよかったのかもしれない。

でも、おかげで、食事の雰囲気がぶち壊しになった。

特におかみさんの表情が暗い。




「おい、あいつら、どうだった」


「いや、あやしいところはない。まあ、放っておいても大丈夫だろう」


「そうか、上から、木田の密偵が来るかもしれないから、警戒するように言われている。見落としたら、大変だ」


「だったら、あんたが行って来るかい」


「いや、ここから見ていた。あんな情けねー奴が密偵のはずはない。終始負け犬のような奴だった。よく生き延びてこれたもんだ」


「ぎゃあーはっはっはっは」


笑いが起った。

まあ、おっしゃる通りだ。

俺の人生は、大体こんな感じで笑いものになる。

学生時代も就職しても、情けなさ過ぎて、いじめの対象にもならないほどだ。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


あずさが明るく受け取った。


「……」


料理が運ばれると、おかみさんは暗い表情で食べ始めた。

対照的にあずさの表情は明るい。

口元しか見えないが、ずっと口角が上がったままだ。


「とうさん、お茶がおいしい」


はしゃぐ、あずさをよそに俺とおかみさんは、お通夜のように食事をすますと、旅館に帰った。




翌朝、快晴。

俺とおかみさんの心とは裏腹に、太陽が眩しすぎる。


「さて、気分を一新、拠点探しをしよう」


朝食を済ますと、旅館の前で両手を高く上げ大きく伸びをした。


「ふぉあふぃいーー」


あずさが俺のまねをして伸びをして、変な声を出した。


「おかみさん、まずは店舗を探したい。どうすればいい」


「そうさねえ、くっ、くっ」


あずさの声がつぼに入ったのか、笑いが止まらないようだ。


「お金が沢山いるのかなあ?」


あずさが心配そうに言った。

何しろ俺たちは無一文だ。


「お金はいらないさ。何しろ空き家だらけだからねえ。空いているところなら勝手に自分のお店にしていいはずさ。その後、役場へ行って登録して、売り上げから税金を払うのさ」


「じゃあ、まずは店舗探しだな」


「おーーーっ」


あずさは元気だ。


「おい、あずさ!!」


旅館から少し歩くと、すごいお店が見つかった。


「あああああーーーっ」


あずさも感動している。

メイド服のおいてあるお店だ。

こんな服、誰も必要としないのか荒らされずに残っている。


「全部いただいてしまおう」


俺はそう言うがはやいか収納魔法で収納した。

あずさも自分のお気に入りだけは、俺よりはやく収納したようだ。


「あんた達……」


おかみさんが目をまん丸にしている。


「はっ!! まさか、勝手に取ったら犯罪なのか」


「そんな訳はないさ。放置されている物はいらない物だからねえ。そんなことより、目の前で沢山の服が消えたことに驚いているんだよ」


「そんなこと」


あずさが呆れたように言った。

あずさからすれば、当たり前のことだ。

俺も、最近は当たり前のように感じていたが、普通に考えれば驚きの光景だろう。まるで、イリュージョンだ。


「おい、あずさ!!」


少し歩くと、今度はスポーツショップがある。


「わああああーーー!!」


あずさが嬉しそうに驚きの声を上げた。


「どうしたんだい」


おかみさんが不思議そうに聞くと、あずさはバサッとスカートを胸まで上げた。


「こらこら」


俺が笑いながらたしなめた。

そう、いま見せているあずさのお気に入り、白地に水色のスライムの水着がお店で、半額セールで大量に並んでいる。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


今度は俺の番だ。テンションマックスのうおーーが出た。

ジャージのズボンを半分下げると、激豚を丸出しにした。

でも大丈夫です。俺の激豚はパンツでは無く、水着です。


「こらこら」


あずさが俺のまねをして、半笑いでたしなめた。


「全く、あんた達親子は……」


おかみさんがあきれている。

お店に激豚トランクスの水着も沢山の種類おいてあるのだ。

俺は、店舗の商品を全部収納した。

あずさは俺の収納よりはやく、お気に入りのスライムの水着を収納した。


「うん、この店舗丁度いいなーー」


駅からの距離、広さ、店の状態、どれを取っても申し分ない。

俺はこのスポーツショップを拠点に決めた。

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