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0063 逃走

「旅館にはいません!!」


「なにーーっ!! 誰か見たものがいねえか聞き込みをしろー。話しじゃあ見た事もねえような妖精のような美少女って事だ。三百万は下らねえ上玉だってよ。ぜってーに探し出せー!」


男達の真剣さが伝わってくる。

見つかっては、ただですまないだろう。

かわいそうに。


「すげーー、妖精のような美少女かー。俺も見てみたいぜ」


俺は密偵だから、目立てない。

でも、助けられるものなら助けてやりたいと思った。

そう思っていたが、それは言えない。茶化しておいた。


「あんた、本気で言ってるのかい」


「当たり前だ。おっさんは大体ロリコンだ。美少女と聞いたら黙っていられねー」


茶化して言ったが本気かどうかなら、超本気だ。


「ふふふ、あんたって人は、あきれてしまうわ。この子に決まっているじゃないか」


優しそうな目で、あずさを見つめた。


「あ、あずさのことなのか? あずさを売るってことか」


「そうだよ。普通わかるだろー!!」


そうか、考えてみればそうだな。

ここまで整っている美少女はそうはいない。

だがおかしい、橋の見張りは清水連合のはずだ、あんなにいい人達がそんな事をするのか?


「橋の警備隊は出来た人達だった。清水連合の人が人さらいをやっているとは思えない」


俺は、疑問をぶつけた。


「橋の警備は清水連合の今川家が任されている。ここいら一帯は保井家のものなのさ」


「なるほど、保井家が人さらいをするような悪党って事か」


「まあ、そういう事さ。わかったら、裏口からこっそり逃げるんだ」


「そんなことをしたら、あんたに被害が及ぶんじゃねえのか」


「そんなことは、もうどうでもいいのさ。あたしはこの子に情が移っちまったんだよ。わかったら、気付かれていない今のうちに、さっさと行くんだよ!」


「そうは、行かなくなった」


「えっ!?」


「俺も、あんたに情が移っちまった。おい、あずさ! あずさ! 起きるんだ!」


「おかあさん!? ふにゃあ」


「あずさ、寝ぼけてねえでシャンとしろ」


「そうだよ。あたしはお母さんじゃない! おかみさんだ!」


「あっ、とうさんだー!!」


あずさは、思い切り抱きついて来た。

そしてチューをしようとしてきた。


「こ、こらー! もう夢じゃないからな。現実だぞー!!」


「えっ!? と、とうさん? 本物?! とうさんのエッチー! 何をするのよー!!」


「いやいや、俺じゃなくて、お前が抱きついて来たんだからな!」


「ふふふ、見ていて飽きない親子だねえ。さあ裏口から逃げるんだ。こっちなら、表通りからは見えないからね」


「何があったの?」


「説明は後だ、逃げるぞ。そしておかみ、あんたも来るんだ。普通の暮らしに戻るぞ」


「えっ?! それってプロポーズかい? あたしは、デブはきらいなんだがねえ」


「そ、そんなわけあるかー!! いいから二人ともついてくるんだー!!」


くそー。まったく、なんて面倒くせーんだ。

俺はとりあえず建物の中のものを収納して、二人の手を引っ張って裏口から外に出た。

外に出ると、松明がおかみの家に近づいていく。


「おい、誰もいないぞ! さがせーー!! まだ近くにいるかもしれねーー!!」


俺たちは光から遠ざかる為、北に逃げた。

しばらく歩くと、線路に出た。

俺たち三人は線路の上を駿府へ向って歩き出した。


「おかみ、すまない。迷惑をかけた。このうめあわせは必ずさせてもらう」


「ふふふ、気にしなくていいさ。あんた達は貧乏なんだろ。それより慌てて出て来てしまったけど、タンスにお金がしまってあった。それくらいは持ってくれば良かったねー」


「そうか、それなら家の中のものは、大体持って来た。このタンスか?」


俺は、収納してあった、それらしいタンスを出した。


「そ、そうだ、これだよ。これだけど、どこから出したんだい、こんなもの」


おかみは引き出しから少しお金を出すと、後はしまい聞いて来た。


「あまり気にしないでくれ、俺たちは超能力者なんだ」


まさか、魔法とも言えないので、超能力と言っておいた。


「へーー、不思議な力だねえ。口で言われただけなら信じられない力だよ」


「タンスはもういいのか?」


「もういいよ。それより、あんた達は、こんな所へ何をしに来たんだい」


まさか、密偵に来ましたとも言えない。


「俺達は小田原から逃げてきたんだ。駿府で商売が出来ないかと考えている」


「そうかい。あの不思議な力で、食べ物を持っているんだね」


「食べ物?」


「そうだよ。今の日本じゃあ食糧不足だ。食べ物ならたいてい売れる。逆にそれ以外はあんまり売れないよ」


「そうか……」


俺は、考えた。

商売をするなら売るものを考えないと。


「とうさ……ん」


呼ばれて後ろを見ると、あずさが少し遅れている。

無理もない、気持ちよく寝ているところを起こされたんだ。

疲れているのだろう。


「ほら」


俺はあずさの前でしゃがんで、おんぶをしようとした。


「……」


あずさはゆっくり首を振った。

……まさか!?

俺はお姫様抱っこの形をした。

あずさはコクコクうなずいている。


「やれやれだぜ!!」


「にひひ」


まったく、あずさの奴、すげーー嬉しそうだ。

俺は、時々おかみの様子を気にしながら、こまめの休憩を取りながら歩いた。

それでも、夜明けと共に開けた町が見えてきた。


「ここまで来れば、安心だよ。保井家は追って来れない」


どうやら、保井家の縄張りは抜けたようだ。

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