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0059 悪党の島流し

「あずさ、こいつらの武器は、全部取り上げて収納だ」


「はい」


あずさの動きは、速すぎて銃を撃つ隙も無い。

倒れた迷彩服から、銃は取り上げていく。

しかし、こいつら、人を撃つのにためらいが無い、何を考えているのか。

数十人倒すと、お替わりが来なくなった。

倒れている者達は、死んではいないはずだが、骨折くらいはしているだろう。


「うおおおおーーー!!!!!


歓声と拍手が起った。

まわりにいつしか、人垣が出来ていた。


「大変だーー!!!」


「どうした」


「木田軍が攻めて来る」


「ははははは、俺たちには戦車軍団がいるじゃないか」


「戦車軍団は壊滅した。敵には新型人型兵器がある。その新型の黒い奴に10式が十両全部やられた。侵攻軍は全軍撤退している」


「な、なんだってーー!!!」


どうやら、敗戦の報告が入ったようだ。

敵の迷彩服の中に動揺が走っている。


「大変だーー。じきに木田軍が攻めて来るぞーー!! 城に逃げ込むんだー」


俺は、大声を出した。


「大変です。男は殺されて、女の人は連れ去られます。木田の殿様は恐ろしい人だと聞きまーす。城に逃げ込みましょう」


――おーい!!


あずさがとんでも無いことを言う。

俺たちの声を聞くと、街の人に動揺が走り、城に次々人が集まってきた。


「大変だー! 木田軍が攻めて来たー!! 皆殺しにされるぞーー!!!」


人に動きが起ると、動揺が起りどんどんその動きが伝染して、同じ動きをとる。群集心理だろうか。

隕石の時も、こうして人々は、都会を目指したのだろうか。

人が集まるところが安心出来るのだろう。

田舎の誰もいない場所に一人でいるのはやはり不安だったのだろう。


不安が伝染して、町の人が城を目指し動き出した。

城のまわりは、土嚢が積まれて、簡易的な壁が作られている。

少しずつ、撤退してくる兵士の姿が見えてきた。


「どうなるんだ、俺たちは?」


迷彩服に大勢の町の人がそれぞれ質問する。

だが迷彩服は答えない。

人々の不安と不満がどんどんたまっていった。


「あずさ、そろそろ行こうか」


俺たちは混乱する、小田原城を後にして港に向った。

港から激豚君に乗り、藤吉の待つ校庭に移動すると、すでにゲン達も戻っていた。


「ゲン、首尾は?」


「ああ、敵戦車は全部破壊した。味方に損害は無しだ。敵兵も指示通りピンピンしたまま逃げていったがな」


「そうですか。それでいいです。この日本では、人の命ほど貴重なものはありませんからね。小田原城を見てきましたが、混乱しています。明日の朝、全員で行きましょう」


こうしてゆっくり、夕食を取り睡眠も十分取った。

翌朝、食事を済まして昨日下見した場所へ、全軍あずさの魔法で移動した。




小田原城は人であふれていた。

花火でもあるのかというほどの、人の集まり具合だった。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


城から悲鳴が上がった。

突然現れた木田軍に驚いたのか、先頭にいる新型の黒い奴に驚いたのか。

大きな悲鳴が上がった。


「藤吉! バリアを張れ!」


「はっ」


藤吉は全軍を守るようにバリアを張った。


「違う」


「えっ」


「張るのは、小田原城と城からあふれ出している町の人だ」


小田原城は、町の人を石垣にでも見立てているのか、城のまわりに出してしまっている。

町の人を守る気がまるで無いようだ。


「わ、わかりました」


藤吉は結界を、小田原城を中心に外の町の人までを包み込むドームを作った。


「本当は閉めたままでもいいが、天井は空けておいてやれ」


「はっ」


天井を締めたままでは、窒息して死んでしまうから、開けさしたのだ。


「兄弟、これはひでーな。これじゃあ、町の人が壁にされているようなもんだ。こんなやり方をするとは、ここの親玉は血も涙もねえようだ」


「そうですね。人の命を軽く見過ぎです」


「こんなことをして何になるの」


ミサが聞いて来た。


「この城には、もう食べる物がほとんど残っていない。すぐに食べる物も飲む物もなくなる」


「えっ」


「つまり異世界の力を使った、兵糧攻めだ。敵はバリアのせいで、最後の出陣も出来ない。味方には被害が出ない画期的な兵糧攻めだ」


「これが、兄弟の言っていた地獄って奴か」


ゲンが、無表情な顔で、バリアの中の人達の顔を見ている。

いったい、何を考えているのか、表情からはまるで読めない。


一日目は、全員に行き渡る配給があった。

二日目で、その量が半減した。

三日目で、はやくも配給がなくなった。水の配給すら無い。

四日目は、あまりにも気の毒なので、町の人だけに水を差し入れした。


五日目、配下の反乱で、首領と幹部四人が捕縛され、俺の前に突き出された。

五人は、この状態でもふてぶてしいままだ。反省の色が無い。

五人とも人相がすごく悪い。ちょーこえー。

ゲン一家でなれていなければ、ちびってしまいそうだ。


「何か、言いたい事はありますか」


俺は丁寧に聞いて見た。


「うるせーデブ。てめーらに俺を殺す度胸があるのか」


この男達の、強気は俺たちが人殺しを出来ないと思ってのことのようだ。

そういえば攻めてきた敵軍を、全員無事に返してしまいましたからねえ。


「俺は、優しすぎるのかな。お前達でも心を入れ替えるなら許してやりたい」


「ひゃはははは」


幹部達全員が、笑い出した。

人を見下した、嫌な笑いだ。

俺は幾度となく耳にした、弱者が恐怖に支配される笑いだ。


「ところで、デブの後ろにいる女、全員べっぴんさんだなー。顔は覚えた。特にそのメイド服の娘、整いすぎているぜ。ぜってー襲ってやる」


そう言いながら、あずさをにらみ付けてきた。

その目は血走り狂気に満ちあふれている。


「嫌!!」


あずさが俺にしがみついてきた。

こういう男達に心を入れ替えて、やさしい良い人になれと言うのは無理な事なのだろうか。


「ねえ、あなた達ハワイ旅行へは行きたくない?」


「はあーーっ、何を言っているんだ、このボインボインの姉ちゃんは」


声をかけてきたミサの胸をいやらしい目つきで見つめる。

たまらずミサは、服で隠れているのにも関わらず、手で胸を隠した。


「なっ、いいから答えなさい」


「行かせられるならものなら、行かせてみろこのバカアマ」


「あなた達もそれでいいの」


ミサは首領以外の男達にも聞いた。


「ひゃはははは、やって見ろデカちち」


「わかったわ、これは、せんべつ」


ミサは、食糧と飲み物を前に置いた。


「じゃあ、いってらっしゃい」


五人の姿とせんべつが消えた。

案外五人は、ハワイで、ゾンビ達の親玉にでもなって暮らして行くのかもしれない。

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