「まったく、殺そうとした相手に背を向けて逃げるとは、何を考えているのでしょうか。背を向けるなら、せめて鎧ぐらいは着けておかないといけませんねー。それとも防御魔法でもかけているのでしょうか?」
ハルラは鼻の頭を人差し指でかいた。
宙に浮いていた弾丸が次々、銃を使った部下に向った。
弾丸は、背を向けている部下の後頭部の中央に命中していく。
部下は声も上げず倒れていく。
弾丸は、後頭部に小さな穴を開け、顔面を吹き飛ばしているのだ。
人間の目玉は存外丈夫い。
ボールの様に飛んで、銃を撃つことが出来なかった部下達の体に、ポコポコ当たった。
「……」
だが、殺されなかった部下達は唇を必死で噛みしめ悲鳴を押し殺し、震えてはいるが大きく体は動かさなかった。
「間抜けな奴らですねー、無防備じゃないですか。命がいらなかったのでしょうか。ひゃはっ」
ハルラは生き残り、震えているハゲの部下をヘラヘラ見た。
ヘラヘラ笑うハルラの顔は、狂気をまとい、目の奥が真っ暗で、笑っている分余計に恐ろしかった。
「ヒッ」
ハルラと目が合った一人の部下が、我慢できずに声を出した。
その瞬間、桜木が悲鳴を上げた部下の近くへ、目にも止まらぬ速さで移動した。
移動すると、大剣でその男を切り倒そうと剣をかまえる。
大剣は桜木を中心に四メートルの円を描く。
声を出した部下とそのまわりにいる者を巻き込んで、問答無用に切り倒した。
真っ二つになった者は即死だったが、腕だけ切られた者など、死にきれない者が数人いて、しゃがみ込んでいる。
桜木は、笑いながら近づくと、その者達を縦に真っ二つにした。
「あんた、運がいいな」
桜木は、剣が一センチほど横を抜け、無傷の男に顔を近づけ、耳元でささやいた。
ささやかれた男は、唇をさらに噛みしめ、涙を流しながら声を出すのをこらえていた。
震える男の、ズボンからは湯気があがっている。
「さーー、もういいでしょう。やっと、静かになりました。勝手に動く人も、もういませんね。ふふふ、小学生より出来が悪いですね。静かになるまでに半分以上の人が死んでしまいましたよ」
広場の人々に、声を上げる者も移動する者もいなくなった。
ハルラはゆっくり全体を見回した。
ギャグを言ったつもりなのか、うけている人を探したようだ。
一人も笑う者がいないのがわかると、つまらなそうに言った。
「全員、鈴木先生の前に整列して下さい。男は左、女は右です。桜木さん遅い人は殺して下さい」
「ははっ」
桜木の返事が終る頃には、全員全速力で、無言で移動している。
「ひゃーーーははははっ、やる気になれば出来るじゃ無いですか」
あっと言う間に、綺麗に整列が終った。
誰もが沈黙し、静かな整列だった
「皆さん、聞いて下さい。こちらの鈴木先生は、ここで新政府を立ち上げるお方です。そして僕は、この世界の神です」
ハルラは、手を前に出すと空に上げた。
ドオォォォォーーーーン、ビリビリビリ
空から巨大な青い稲妻が、目の前のビルに落ち、ビルを破壊した。
稲妻が落ちた衝撃で、地震の様に大地が震動している。
「おおー!」
神の御業を目の当たりにして、人々の口から声が漏れた。
「僕はこの鈴木先生を加護する事にしました。皆さんは、鈴木先生を助け、僕を信仰するようにして下さい。そうですね、どこにいても朝六時に僕の家に手を合わせて下さい。それだけでいいです」
「ははーーっ」
それを聞くと、誰がするとも無く、全員がひざまずきハルラに手を合わせている。
「皆さん、ついでだから聞いて下さい。この世界には、コンナ……? ドンナ? まあ、何でもいいです。ダメーナマンとかいう悪魔が現れました。この世界をこのようにしてしまった悪の元凶です。僕達は、この悪魔を倒し平和を取り戻さなくてはなりません。鈴木先生の言うことを良く聞いて協力してください。僕からはこれだけです」
「ははーーっ」
人々は、突然の恐怖から解放され、神の御業を見せられ、ハルラを神として受け入れてしまったようだ。
「桜木! 俺は城に行く、あとは任せる。整列した女はいったん城に入れろ」
桜木に誰にも聞こえないように指示をした。
「はっ」
「おい、女! お前、名前は?」
ハルラは、髪をつかんでいる女に声をかけた。
「はい、私はイーランと申します。あの、ハルラ様、申し上げてもよろしいですか」
「かまわん!」
「はい、ありがとうございます。では、申し上げます。城にはまだ、幹部が大勢残っています」
「ふふふ、そうか。可哀想な奴らだ。イーラン、城には酒はあるのか?」
ハルラはイーランの髪から手を離した。
「はい、案内出来ます」
「うむ、付いてこい!!」
ハルラは、酒と女が手に入り上機嫌のようだ。
大阪城天守閣からは、大きな断末魔の声がしばらく響いた。
「先生、人間何をされるとあんな声が出るのでしょうか?」
桜木が不安そうな顔をして、鈴木に質問している。
「さあな、わし達では見当がつかんような事だろうよ」
「そ、そうですね」
「それより、何と言ったか……」
「あーーっ、アンナメーダーマンですね」
「その男が可哀想になってきたよ。悪魔にされたうえに、あの男に目を付けられてしまったのだからな」
「仕方がありません。自分でハルラ様に宣戦布告したのですから」
「ふふふ」
鈴木と桜木は笑っている。
こうして、西日本では、アンナメーダーマンの名は、神にあだなす者として知らぬ者がいない存在となっていく。