ハルラ達の姿は夜の大阪城公園にあった。
満月は照明のように大阪城天守閣を照らしている。
「おー、俺の家が見えてきた」
ハルラが天守閣を見てニヤニヤ笑っている。
桜木達は、ハルラがここを自宅にするつもりだとすぐに理解した。
まさか、江戸城を襲ったのは、あそこを自宅にするつもりだったのかと気が付き、今更ながら恐怖を感じていた。
「わーーーっ!! わーーーーっ!!!」
大勢の人の喚声が聞こえる。
声の方に向うと、数千の人間が広場に集まっていた。
広場には舞台が置かれ舞台の中央に椅子があり、頭がつるつるの、体のでかい男がふんぞり返っていた。こいつが、ボスなのだろうとすぐにわかる。
「あのハゲはバカなのでしょうか。あんなところでふんぞり返っていれば、殺してくれと言っている様なものです。さて、どれにしようかな。きひひっ」
桜木は舞台を見た。
舞台の上やまわりには、銃を持った男達がいて、守備をしている。
中には機関銃を持っている者までいる。
だが、ハルラ様にとっては、あんな守備は無いに等しいのだろうなと、思っていた。
――それにしても、ハルラ様はやけに上機嫌だな。
桜木はハルラの上機嫌に気が付いていた。
それもそのはず、住みかと、女が手に入り上機嫌になっているのだ。
広場では、ガラの悪い連中が丸く輪を作り、その中央でひどいリンチが行われている。
「ぐわっはっはっはー、見せしめだー! もっと痛めつけろーー!!」
特等席で、ボスが笑っている。
「ぎゃーーーー!!!」
人垣の輪の中央で数十人の者達が痛めつけられている。
すでに血だらけだ。
「まあ、あいつがこの中で、一番だな」
ハルラは、輪の中の痛めつけられている人間に、トコトコ近づいていく。
「ハ、ハルラ様!!」
桜木はハルラを追おうとした。
「桜木ーー!! 足手まといだ! お前達は命令するまで動くなー!! すぐに出番は作ってやる」
「はっ!!」
桜木は、返事をすると、ハルラが何をするのか見学する事にした。
「どれどれ」
ハルラが、リンチの輪の中に進むと、驚きで他の人間の動きが止まった。
そして、リンチを受けている中の一人に近づいた。
ハルラは、その人に近づくと胸をもみ、スカートをまくって中を見た。
全体が静まり帰った。
あまりにも自然体で、そうするのが当たり前に見えて、まわりが反応を忘れてしまったのだ。
「きっ、貴様ー! な、何をしている」
やっと、リンチをしている一人が声を上げた。
「あー、この女、俺がもらうわ」
そう言うと、女の髪をわしづかみにすると、ズルズル引きずって歩き出した。
「何をボーーッとしている。ぶち殺せーーーー!!!!」
ボスが大声を出した。
その瞬間ハルラの目が、あやしく光った。
ハルラは、舞台に向ってあいている手の平を向けた。
舞台の上の男達の体に赤い線が入った。
ボスは、首に赤い線が出来ている。
ボスの首の線の高さにあわせて、まわりの男達にも線が入っているようだ。
最初に、ボスの首がボトリと落ちた。
首から、水鉄砲のように、チューッと二本血が噴き出す。頸動脈からの血であろうか。
遅れて、ボスのまわりの男達の体が切れて、ドサドサ地べたに落ちた。
上半身と下半身が真っ二つだ。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
広場に恐怖の声が上がった。
「ふふふっ、無詠唱で出せるのですが、皆さんにはこう言った方が理解しやすいですか。エアーカッター!!!!」
「逃げろーー!! ばけもんだー!!! ひいいいいいーーーー!!」
広場から悲鳴が上がり、逃げだそうと動き出した。
「うごくなーーーー!!! 声を出すなー!!!! 命令を聞かない奴はころーーすーー!!! 桜木ー、命令を聞かないものはころせーー!!!」
ハルラは、大声を出した。
その大声は、大勢の人の悲鳴をかき消し、広場中に響いた。
そして、ハルラはどこからか大きな鉄剣を出し、桜木と部下の足下に投げた。
ハルラの大声で、静まり返った群衆だったがふたたび、動き出そうとした。
「ぎゃあああああーーーー!!!!」
動いたものは、桜木達が容赦無く切り殺した。
桜木の持っている剣は二メートルほどの長さがある。
動いた者と、その回りの者を巻き込んで、直径四メートル程の人達を真っ二つにした。
「うごくなーーー!!!」
「騒ぐなーーーーーー!!!!」
桜木と部下が声を張り上げ剣を振り回す。
「ぎゃああああーーーー」
しばらく悲鳴が上がり続けた。
ハルラは女を引きずりながらゆっくり舞台に上がる。
女はあまりの光景に、手で口を押さえながらぼろぼろ涙を流し、何も抵抗できないでいる。
舞台に上がると、血でベトベトになった椅子に、胴体だけで座る死体を蹴り落とした。
「おーい、鈴木先生!!」
舞台の上から子供の様な笑顔で、鈴木を手招きした。
鈴木は呼ばれるまま舞台に上がった。
舞台に上がった鈴木を満足そうに見ると、椅子を指さした。
鈴木はこの血でビチョビチョになった椅子に座るのかと、ちゅうちょしたが視線をハルラに移すと、口は笑っているが目が笑っていない。
――くそっ、ハルラめ、俺をためしていやあがる。
鈴木は素早く椅子に座り、足を組みえらそうにふんぞり返った。
高いオーダーメイドのスーツが、どこの誰ともわからない男の血で汚れてしまって、泣きたい気持ちになっている。
「このやろーーー!!!」
舞台の脇の、ハゲの配下が我にかえり銃を発砲した。
パパパパパパ
パーーン、パーーン
「馬鹿め、鎧を着込んでいない時は、当然結界を張ってある。そんな物が効くかよ!!」
弾丸は結界に捕まったのか、宙に浮いて止まっている。
「くそーーっ」
それでも、ハゲの部下は弾丸がつきるまで撃ち続けた。
「先生、どうしますかー」
ハルラは、鈴木に無駄に整った美形の顔を近づけ、ニヤニヤ笑って声をかけた。
また、鈴木を試すようだ。
――ふふふ、俺に言わせようと言うのか。
「ちっ、殺せーーーー!!!」
鈴木は、やけくそで大声を出した。
最早、後戻りできないことを自覚した。
「はっ、鈴木先生! 仰せのままに」
ハルラは、ハゲの部下をニヤニヤ気持ちの悪い笑顔で見回した。
だが、目だけは鋭く吊り上がり、月を反射して青くあやしく光っている。
「に、逃げろー!!」
ハゲの部下がハルラに無防備に背をむけた。