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0050 見渡す限りの小麦畑

「始まりは、食糧が街から消えたことが発端でした。食糧の奪い合いでしゅ。暴動は次々連鎖して暴動の渦が国中を襲いましゅ。大勢が亡くなりました。遺体は放置され、見るも無惨な状態になりました。それだけでも大変な状態なのに、本当の恐怖の始まりはそこからだったのでしゅ。放置された遺体が動き出したのでしゅ」


アメリは、長い金髪を手で後ろになおして、あずさが渡したコーヒーを一口飲んだ。


「とても、美味しいでしゅ。皆さんはゾンビ映画を見たことがありましゅか?」


「はい」


「怖いですよね」


「はい」


「でも、動き出したゾンビは、映画のゾンビとは見た目は同じでしゅが、恐さがまるで違いましゅ。ゾンビは、生きている人を探して動き回りましゅ。どこに隠れても、何故わかるのか不思議でしゅが、必ず見つけましゅ。しょして、必要にしつこく狙い続けましゅ。映画のゾンビは、頭を撃てば止まりましたが、そんなことでは止まりましぇん。そして、力がとても強い。人間は脳が力を七割セーブしていると言いましゅが、ゾンビはフルパワーなのでしょうか、力が強い。どこでもつかまれれば、それだけで致命傷になりお終いでしゅ。例えば、腹をつかまれれば、腹の肉がちぎられて内臓が出てしまいます。足をつかまれれば、肉がちぎられて歩けなくなります」


そこまで聞いて、愛美ちゃんが「うっ」と言って、手で口を押さえました。

坂本さんが、手を引いて場所を変えようとしましたが、首を振ってまだ聞くことを意思表示します。


「映画のゾンビからは、少しの傷でゾンビになる恐ろしさがありましゅが、このゾンビからは、そんなことはありませんでした。でも、最初の頃は、ゾンビに傷を負わされた人達が、銃で自殺をしました。そして、命を失うとゾンビになります。食糧も無く、ゾンビであふれる世界に夢も希望も無く、自殺者が後を絶ちません。ゾンビは増えるばかりでしゅ」


「それで、今はどうなっているのですか」


あずさが不安そうな表情で聞いた。


「コロンブスがこの大陸を見つけた時より、生きている人は少ないかもしれましぇん。私はゾンビから人間判定を受けなかったのか、ゾンビにおそわれましぇんでした。大勢のゾンビの手足をちぎり、動けなくしました。でも、一日三分では、何も出来ないのと同じでしゅ。私は、せめて食糧を必要とする人のために、ここを守ろうと考えを変えてここに来て、毎日空を見つめていました」


アメリの目から一粒涙がこぼれた。


「……」


俺たちは言葉を無くしてしまった。


「おかげで、あなた達に出会う事ができました。日本はどうなんでしゅか?」


ミサが日本の現状を説明した。


「アンナメーダーマン、あなたは神から使わされたお方なのかもしれましぇんね」


「そ、そんなたいそうなもんじゃないよ。本当に……」


俺は、過去の自分を見つめ直した。

どう考えても、暇さえあればゲームをする底辺のダメダメおじさんだ。

本当にすごいのは、俺の横で涙ぐんでいるあずさだ。

今日も絶好調に可愛らしいあずさに他ならない。

この子がいなければ、俺は恐らくアンタダメ―ダマンのままだったはずだ。


「ところで、小麦を見つけたのはいいけど、どうやって収穫するつもり?」


「さすがはミサだ、いい質問だ!」


「……」


「あんた、それを言いたかっただけでしょ!」


図星だ。鋭い。


「あずさ、聞いてくれ。新事実がわかった。収納魔法だが、これは恐らく一定の魔力が無いと使えない高位魔法じゃないか」


「はい、そうです」


「そして、その収納魔法が、俺は使えるようになっている」


「えっ!?」


「だから俺は、こんなことが出来る」


俺は、アメリの話しの最中に、体の一部を糸のようにして小麦畑中に潜ませていた。

そして、その体でゴミになる部分を蜂蜜さんに吸収してもらう。

一瞬で畑が小麦だけになる。

それを収納魔法で、地面に落ちる前に収納する。


「なーーーーっ!!!!!」


全員が驚いてくれた。


「すごーーい。無詠唱でこんな魔法が……」


言ってみたかったこの言葉。

あー、これは、俺が自分で言いました。

どうせ、だれも言ってくれないもんね。


「アンナメーダーマン。あなたは、ほんとーにアメージングでしゅ」


アメリがギュウギュウ抱きしめてくる。

可愛すぎるなーこの生き物。昔のあずさみたいだ。

と、思ったら、皆が抱きしめてきた。

愛美ちゃんまで抱きついている。

巨木に群がる蝉みたいだ。


地平の彼方まで、地面が顔を出している。

この国はすごい国です。

世界最高の工業技術に、これ程の農産物。

小麦は大切に使わせていただきます。俺は感謝を込め畑に一礼した。


「よかった! 大量の小麦は、入手出来た。今の木田家の人だけなら、消費するまでに何十年もかかるだろう」


「アンナメーダーマン喜ぶのはまだはやい、あと二ヶ月でコーンが、収穫時期を迎える。日本列島よりすごい量だぞ」


「なっ、なにーー!!」


「そっちは、フォード教授が面倒を見てくれている」


「フォード教授?」


俺が、変な声で質問をすると、ミサが写真で教えてくれた。


「ふふふ、物理と数学が専門ですが、スーパーヒーローでもある。そして、隕石の衝突をばらした一人でもある。変わったお方でしゅ。二ヶ月後に会うとしましょう」


そう言うとアメリは、UFOに乗ろうとした。

小声で、うな重、うな重、と言っている。


「ああ、帰りはあずさの移動魔法だから、それは使わないよ。って、いうか、アメリも来てくれるのか?」


「行くに決まっていましゅ。もう、ここに用はないでしゅからね」


こうして、目的を果たして俺たちは日本に帰ることにした。

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