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0047 静かな遊園地

 あずさは、次々テーブルの上に食べ物を並べる。

 天丼やカツ丼、牛丼もあるが、そのうつわが見た事無い変わった色と模様だ。

 ひょっとすると、あれも異世界アイテムなのだろうか。


 その後はペットボトルの飲み物を出している。

 キンキンに冷えているのか、水滴がいいあんばいに付いていて、冷たくて美味しそうだ。

 そして、最後は冷蔵庫の空いたスペースに色々詰め込んでいる。


「ねー、おばさん」


「おば……、なあーに?」


 ミサがおばさん呼ばわりされて、怒りたそうだが、怒るのをあきらめて笑顔になった。

 そりゃあそうだ、アラサーなんて、子供達から見たらおばさん以外の何者でもない。


 ――ぎゃーーっ


 ミサが鬼の様な顔でにらんでくる。


「あのかわいい、綺麗なおねーさんは誰なんですか?」


「あー、あの子ね。あの子はあずさって言うのよ。あのくそ、不細工でばけ物の様な、おじさんのかわいい娘さんよ」


 ちっ、ミサめ、おばさんと言った、仕返しを入れてきた。


「ふーーん、似てないねー」


 似てなかろうが、あずさは俺の大事な娘です。

 でも、君達も半分すでに俺の娘みたいなもんだから、安心しなさい。


「ねーっ、とうさん」


 あずさが、頬を赤らめて、もじもじしながら話しかけてきた。

 子供達も、リラ一派も食事に夢中になっているので、手が空いたらしい。


「何?」


 改まって言われると、なんだか嫌な予感しかしない。


「遊園地の中へ、一緒に遊びに行こーー!!」


「あーーそんなことか。いいよ」


 俺が返事をすると、あずさは俺の手をつかむと、グイグイ引っ張りだした。

 ふふふっ、少し大人びてきたけど、まだ小学六年生、可愛いもんです。

 美女の手というのは冷たいものだと、思っていたのだけど、あずさの手はとても温かかった。


「こっち、こっち」


 グイグイ、引っ張られてたどり着いたのは、入り口ゲートだった。

 天紫改で先回りして、ミサが手荷物検査の係員の真似をしている。


「手荷物を拝見します」


 ミサが言うので、俺はネズッキーマウスの頭を置いてやった。


「ぎゃーーー!! 臭いキモーーい!!」


 やっとこれで、あの頭とお別れです。


「ミサさーん、それお土産なのでお願いしまーす」


「えーーーーっ!!」


 せっかく、雰囲気作りの為に出て来たのに踏んだり蹴ったりですね。


「せっかく、せっかく……」


 ミサが小声でブツブツ言っています。

 人のことを化け物呼ばわりしたバチが当たりました。


「とーさーーん! はやく、はやくーーー!!」


 あずさは、手を離して一人で駆け出し、ゲートの中に入り大声で呼んでいます。

 完全にはしゃいでいます。

 楽しそうです。


 …………


 …………


「この馬鹿野郎がーーーーっ!!!!」


 男の子が、ゲートをくぐってはしゃぎ過ぎた為に、お父さんに殴られています。

 三発、四発、結構力一杯殴られています。

 そんなに殴らなくてもいいでしょうに。

 最後は腹に蹴りを入れました。

 そのまま、うずくまりました。

 背中がガタガタ震えています。


 泣いているようです。

 そりゃあ泣くでしょうね。

 それだけされればね。

 まわりの、親子連れが、ドン引きして、親が子供に見えないようにしています。


 ふふふ、これは俺じゃねえか。

 あずさの姿が、俺の小学生の時の姿にフラッシュバックしてしまったようだ。


「ぐっ、ぐっ」


 俺はあの時、両手で口を押さえて、声を出さないようにしたんだ。

 初めて会ったあずさのように。

 こういう親は、子供が泣き声を出すと、


「泣くなー!!!」


 そう言って、さらに殴ってきますからね。

 当然のことです。

 口を押さえている手から、ぽたぽたと鼻水が垂れてきました。

 地面に落ちると、真っ赤です。


 そうでした。鼻血が出ていたのでしたね。可哀想に。

 この後、一日中鼻血が止まらなくて困りましたね。


「てめーーっ、新品のよそ行きの服が汚れたじゃねえかー!!」


 鼻血を服につけたら、往復ビンタでしたね。

 すでに殴られて腫れ、鼻血が出ている俺の顔に容赦無く。

 さすがに、途中で母が止めてくれましたね。


「あんた、皆が見てるからーー!!」


 そうだよね。家なら。

 誰も見ていないなら、気が済むまで殴っていましたよね。

 君はよく頑張ったよ。


 その後は二度と遊園地なんか行きたいと思いませんでしたよね。

 親とは、ずっと出かけていませんでしたが、遊園地と言うことで油断して付いていってしまったんですよね。

 楽しみにしていましたからね。ふふふ、前の日は眠れませんでしたよね。

 遊園地は悪くないけど、遊園地を憎みましたよね。


 その後の遊園地は、まるで砂漠を歩いているようでした。

 今は、殴られたことは憶えていますが、どこの遊園地か、どんな風景だったのかも憶えていません。




「とーーさーーん、何をしてるのーー!!」


 おっと、いけない、動きが止まってしまった。

 俺は、笑顔であずさの横に駆け寄った。


「うわーーーん」


 後ろで、ミサが、臭いネズッキーマウスの頭をギュッと抱きしめて泣いている。

 強く抱きしめすぎて、灰色の汁がポタポタ垂れている。

 すげー臭いぞそれ。大丈夫か。


「見てーーーー!!! お城、お城があるーー!!」


「本当だ。綺麗だなー」


 城を見つめる俺の横であずさが腕にしがみついて、嬉しそうに見上げながら見つめてきた。

 遊園地は、破壊されずに綺麗なまま残っている。

 人だけ綺麗に消してしまった休業日の遊園地のようだ。

 明日はまた大勢の人が来て、賑やかになってもおかしくない。

 そんな感じがした。

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