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0045 遊園地の戦い

「おかえりー、あずさー」


「とうさーん、シュートー!!」


黒い丸い物をあずさは華麗にキックした。

シュ、シュートだと。パスでは無くシュート。

わかった。お前の望みは、俺にキーパーをやれと、そうおっしゃるわけだな。

良かろう、華麗なキーパーをやって見せよう。って、どこに蹴っているんだよう。

俺じゃなきゃあ、とれんぞこんなシュート!


俺は、ギリギリのところでガッチリキャッチした。

ちゃんと胸の前で、超華麗にキャッチした。

んっ、なんだかビチャビチャでヌルヌルだ。


「とうさーん、それにおってみてーー!!」


「くせーー!!」


な、なんじゃこりゃあ。めちゃめちゃくっせーー!!

良く見たら、ここの遊園地の人気マスコット、ネズッキーマウスの頭じゃねえか。

あんまり蹴るもんだから、目玉が取れそうになってブラブラしている。やめなさいよね。罰が当たるよ、ほんとに!

最早、ゾンビじゃねえかー。気持ちわりー。


「それ、雨に濡れて腐ってるのー。気持ち悪いでしょー!!」


蹴り終って、足を高く上げたまま、足首をクイクイ動かしながら言う。

こらこら、そんな格好していると、白い物が丸出しになっちゃうでしょ。


「うおーーっ、ちょー可愛いー。何だあの子、妖精の様に可愛いーーーー!!」


十人の悪人達が、凄い勢いであずさを見つめている。

それは、いいけど。あずさ、お前、こんなグチャグチャで気持ち悪い物を俺にキャッチさせたのかよー。まいるぜ!


「パ、パンツが丸見えだぞ!!」


やっぱり悪党共が気付いたぞ。

それは水着ですから、残念!!


「とうさん、あれに乗ってもいーい。激豚君!」


あずさは、黒い激豚メイル改を指さした。

アトラクションのつもりかな。


「いいともー」


てっ、いうか。

この臭い気持ちの悪い物はまだ俺の胸の中にあるのだが、それは放置なのかな? ガッカリだぜ。


あずさが黒くてシャープな激豚君に載ると。

激豚君に刻んだ、飾りの溝に、虹色の光が走り、全体が金色に輝いた。

それに合わせるように、あずさは腰に手をやり、胸を張ってポーズを取った。

その後クルクル弧を描きながら移動し、駐車場の中央に移動した。


「ふっふっふー!! 対戦者もとーーーむ!!!」


ちょ、調子に乗りすぎー!!

おもちゃじゃ無いからね。それ!


「私でもよろしいかしら?」


そう言うと、右手を上げて手のひらをクイクイ動かし、坂本さんは、専用鎧天紫改を呼んだ。

いいかしらと言いながら、もうヤル気満々だ。


「どっちにかける」


「俺は坂本さんだな」


「俺もだ」


おいおい、賭けが始まっちゃったよー。


「兄弟は、どっちだ……まあ、聞くまでもねえか」


結局、俺とゲン以外は坂本さんだった。


「では、私から行きますよ。あずさちゃん!」


言い終わると坂本さんが、アダマンタイトのブレードを抜刀して斬りかかった。

あずさも抜刀するとその攻撃を紙一重でかわした。


「ふふ、やるわね。これなら、どうかしら」


二回目の斬撃、三回目の斬撃、だんだんスピードが増していく。


「や、やるわね。私の必殺技、三段突きを受けてください」


坂本さんが、技名を言ってしまった。

まあ、ハンデのつもりなのでしょうか。


最初の突きは胸に向います。

あずさはそれを、バックステップで後ろに下がってかわした。

坂本さんは、素早くブレードを引き戻し、二回目の突きに入った。

あずさはバックスキップの時、後ろ足に体重がかかり硬直している。


「きえーーーっ」


気合いと共に、二度目の突きはこめかみに向った。


「くっ」


あずさはそれを、首を曲げて避けた。

あずさの体勢は完全に崩れた。

坂本さんは、すぐに三度目の突きに入る。


「でやーーーっ」


最後の突きは、最も的が広い腹に向った。

それをあずさは、強引にブレードで左上に払った。


ジュッ!!


坂本さんの鎧のブレードが激豚君の左目の横にかすった。

あずさは、左に振り上げているブレードをそのまま振り下ろした。


ガシュッ!!!

ガラン! ガラン!


紫色の天紫改の腕が吹き飛んで、地面に転がった。


「それまでだ!!!」


ゲンが叫んだ。


すげーーかっこいいなー。

ミサイルやビームがない分、素早いブレードでの戦いが美しかった。

それにしても達人同士の試合に見えた。

坂本さんは武術、この場合はたぶん剣道だろうけど、かなりの達人のように感じる。

それと互角に戦ったあずさは、どこでこんな戦い方を練習したんだろう?


「あずさ、すごいな。どこで戦い方を学んだんだ?」


あずさはしょんぼりした顔で、ハッチから降りながら答えた。


「私は、魔王城のメイドですから」


「あー、そっか」


なるほど、魔王城のメイドにとって、この位は朝飯前と言うことらしい。


「大丈夫?」


あずさはしょげた顔をして、激豚君に声をかけ、こめかみの傷を見つめている。

激豚君は大きな手で、あずさの頭を優しく撫でた。

大丈夫と言うことだろう。


「ふふふ、あずさ。戦うロボットにとって、傷は勲章だ。わざと弾痕などをつけるぐらいのものだ。むしろありがたい。くーーっ、かっこいい傷だ!! 惚れ惚れする」


しまった。ロボットって言ってしまった。


「うわーーん!!! 私のリョウマの手がーーー!!」


坂本さんは、鎧にリョウマと名前をつけたようだ。


「こっちは、スクラップで作り直しだな」


俺は、リョウマを吸収して、再度作り直した。


「リョ、リョウマー! おかえりー」


「良かったー!」


あずさもほっとしている。

心配はしていたようだ。


俺の心配もしてくれよ、ビチャビチャの臭い、目玉の取れかけた頭を抱っこしたままだぜ。どーすんだこれ。


「あずさちゃん、完全に負けたわ。強いわね」


「いいえ、生身なら私が負けていました」


「じゃあ、引き分けでいいかしら」


「引き分けですね」




さっきから、チョロチョロ、人の気配がする。

遊園地の影や、駐車場の影にいくつかの人影が動く。

また、誰かに狙われているのだろうか?

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