「とうさん、楽しみだね」
俺はあんまり楽しみじゃ無いけど、子供の楽しみの邪魔はいけない。
「ああ、楽しみだ。これなら営業中に行けば良かったな」
「はあーーっ!! 何を言っているんですか! もったいない!!
うわーーん。
俺はあずさを、なんて夢の無い子供に育ててしまったんだー。
泣けてきた。
木田産業の中庭を飛び立ち、都会の上にさしかかると、どうにも寒気がする。
「ゲンはこれのことを言っていたのか」
「どうしたのー」
「いや、何でも無い」
こんなことを、あずさに言えば楽しんでいる心に水を差す、黙っておこうと思う。
俺が思ったのは、この街の異様さだ。
上空から見るとよくわかる。
まるで農地が無いのだ。
日本の食糧自給率が低いと言われているが、この街は自給率0パーセントだろう。
この街の人間は、食料を必要としないのかと思えるほどだ。
何千万の人々が飢えて、ゾンビになるわけだと、ぞっとした。
だが、今の木田市は、このすぐ横にある。
人が増えるのはいいけど、このままでは食糧不足がすぐにやってくる。
――何とかしなくては……
ゲンはもう考えているな、きっと。
……農地の確保を。
今日が最後の、束の間の休みになりそうだ。
「ねえ、とうさん」
「何?」
「この、激豚君の操縦って難しいの」
「あーーはっはっはっ、難しいわけ無いさ。だって鎧だぜ」
とうとうこの真っ黒い、シャープでかっこいい鎧が、激豚君と言う名前で定着しそうだ。がっかりだぜ。
だれだー、尻に激豚なんて入れた奴わーー!!
この鎧は操縦なんて物は必要無い。
白い奴みたいに、カタログを見ながらの操作は必要無い。
ハッチを開けると、目の前に人型のくぼみがある。
そこにすぽっと、はまれば後は体を動かした通りに動いてくれる。
中では、外の様子がまるでガラス貼りのように透けて見える。
ゴーレムが判断してそうしてくれているようだ。
ちなみに、ゴーレムなので、外から命令すれば、誰も乗っていなくても指示通り動いてくれる。
だから、ロボットのように操縦桿やメーター類や、スイッチなどは何も無い。
誰でも、自由にその日から動かせるのだ。
まさに鎧なのである。
「ふーーん、じゃあ後でやらせて下さい」
「ああ、いいよ。あずさも乗れるように命令しよう」
当然、誰もが勝手に乗って動かせるようにはしていない。
それぞれの鎧にマスターを設定して、それ以外の者はマスターの許可なしでは乗っても動かせない。当然のセキュリティーだ。
「ほら、あれだ」
空を時速七百キロでぶっ飛ばせば、木田産業から遊園地まではすぐだ。
「きゃーーっ! きゃーーっ!! きゃーーっっ!!」
うん、はしゃいでしまっている。
可愛いもんだ。
……ってはしゃいでいるのは、ミサじゃねーか。
「だって、初めてなんですものーー」
うーーん。
年増でも可愛いなー。
うんがぐぐ!!
なんだかミサが、年増って言われて怒りたいのに、可愛いって言われて怒れなくて、サザエさんのようになっている。
全鎧が駐車場に降り立ち、別に他に車が来るわけでも無いのに、隅っこに並べた。
あずさは、持ってきた遠足セットのお弁当と、冷蔵庫とテント、机や椅子を出すと、
「行ってきまーす!!!」
愛美ちゃんとシュラと手をつなぎ駆け出した。
「まってーー!! 私を置いて行くなー!!」
ミサが置き去りにされて怒りながら追いかけた。
「なーゲン、どうする」
あずさの姿がゲートをくぐって、見えなくなるまで笑顔で見送るとゲンに話しかけた。
「やっぱり、兄弟も気が付いたか」
「うむ、このままでは俺たちも、飢死の道しか残っていない」
「まさか、大都会をトラクターで耕すわけにもいくめー」
「うん、やはり、新潟かな」
「ふふふ、悪党二人で密談ですか。こわい、こわい」
柳川が、テントの設営が終って、こっちにやってきた。
テントと言っても、学校の運動会のあれだ。
女性陣が、机を並べてもう酒宴を始めている。
肴はショートケーキや、シュークリームだ。
楽しそうにくつろいでいる女性達は皆、美人揃いだ。
「すげー、美人ばかりだな」
あんまり直視出来ないが、全員驚くほど美人で、胸がでかくてパンツが見えそうな服を着ている。
「木田さん、あれは、化粧ですよ。だまされちゃいけねー」
「な、なんですってーーー!!!」
滅茶苦茶切れてらっしゃいます。
「ちょっと、俺も何か取ってこようかな」
業務用の冷蔵庫が持って来てあるが、電源も無いのにどういうことかと思ったら、中にミスリルの短刀が入っていて、氷結魔法で中を冷やしているようだ。
中には、甘い物と飲み物と……何と、お寿司が入っている。
なんだか、見た事も無い色の魚の身が乗っている。
「あーそれは、異世界のお寿司らしいわよ」
何と異世界アイテム、おすしーが出て来た。
はぁーっ、異世界感が少ない。
お寿司とお茶を、ゲンの分と二つずつ取って、お姉さんの横を通りかかった。
俺は二次元にしか興味が無い。
だが、たまたま目に入るものはしょうがない。
ちらちら見た。
もう酔っ払っているのか、短いスカートでパカーッと足が開いている。
見える、見えるぞー!!
「おーい、兄弟。見るんならちゃんとのぞき込んでやれー。そいつら今日は高い競争率のくじに当たって来ているんだー。兄弟の愛人になるんだとよー。ぎゃはははははーーー」
がはっ!!
そ、そんなことを言われたら、もう、これっぽちも見ることが出来ませんがな。
「ひゃあーーーはっはっは、馬鹿がまさかこんな所に来るとはよーー!!」
なんだか、がらの悪い連中が十人ほどでやってきた。
でも、がらの悪さでは、こっちが勝っているのかな。
わかってんのかな、こいつら、誰にからんでいるのか。