目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
0036  ゾンビ襲来

笑っている二人の後ろを、装備を終えた桜木が通り過ぎようとした。


「桜木さん、気分はどうですか?」


「それが、とても良い気分です。何か、開放されたような」


桜木の顔は、あきらかに、おかしかった。

その目の下は、真っ黒にくまが出来、目は充血し血走っている。

肝心な瞳は、うつろとなり、意識がもうろうとしている様だった。


――なんだ、これはまるで麻薬中毒者じゃないか


鈴木は、桜木とその部下の顔を見てそう感じていた。

よかった、「私も4倍にして下さい」と言わなくて、そう思っていた。


「桜木さん、ゾンビについてはどれだけご存じですか?」


「そうですね。頭を撃たないといけないことと、かまれたり怪我をさせられると、ゾンビになる事ぐらいでしょうか」


「ふふふ、それは、映画やアニメの見過ぎです。本当のゾンビは、頭を撃ったぐらいではなんともありません。土葬か火葬、水葬にするしか倒せません。まあ、手足を切り落としても動けなくはなりますが。あとは、かまれたぐらいではゾンビにはなりません。死ぬとゾンビになるのです。憶えておいてください」


「そうですか。それは、良い事を教えていただきました。おい、お前達いくぞ」


そう言った桜木の顔は、人殺しが楽しくてしょうが無いように見える。

鈴木は、ハルラがまさしく邪神としか思えなくなっていた。


「では、鈴木先生、こっちは酒を探しましょう」


「わ、わかりました。ハルラ様」


鈴木はこの短時間で、ハルラを自然とハルラ様と呼んでいた。






「寺倉連隊長!! 大変です」


「どうした」


「ゾンビです」


「はーーーっ!?」


「うち捨てられた死体が立ち上がり、ものすごい数で近づいてきます」


「坂本さんに、連絡を取れ。アンナメーダーマンにこの事を伝えてもらうんだ!」


「はっ!!」




「ねー、とうさんいつまでやるのー」


あずさちゃんが、とうとう飽きたようです。

木田城の中庭で、あの人が今度はトラクターを造り始めました。

農家のトラクターをばらして、「オリハルコン炭素鋼で造るんだー」とか言って、黙々とやっています。


「あのー、なんでオリハルコン製にこだわるのですか?」


私が質問すると、あの人の心がパーッと輝きます。

あー、私は駄目な質問をしてしまったようです。


「ふふふ、ミサよく聞いてくれた。よくぞ聞いてくれた」


おじさんは、無駄に二回言いますよね。ウザイ!!


「はい」


私の目は死んでいるはずですが、あの人は気が付きません。

駄目な人です。


「燃える男のトラクターは、赤なのだよ!!」


意味がわかる人がいるのでしょうか。

私には全くわかりません。


「そ、そうですか」


「よし出来た!!」


目の前に、ランボルギーニのようなトラクターが出来上がりました。

そういえばランボルギーニの始まりはトラックとトラクターを作る会社だったはずです。

くっ、かっこいい。

私も、感覚があずさちゃんに、似てきてしまったようです。

私の横で、あずさちゃんが目を輝かせています。

当然、かっこいいと思っているはずです。


「か、かっこいいーー!! とうさん、すんごくかっこいいーーー!!!」


「だろーー!! 扉はガルウィングを採用した」


「すごーーーい!!!」


ほ、ほらね。

でも喜びすぎでぴょんぴょんするから、自慢のメイド服のスカートから、青いスライムの付いた下着がチラチラしちゃっていますよ。

ここには、私と、あずさちゃんしかいないから良いですけど。


「あずさ、魔石はここにセットして、ゴーレム化を頼む」


「はい」


「ちょっと試運転をする」


「私も乗ります」


おーーーい、中庭を耕すなー。


あの人は、もっとロボットを作ったらどうですかと言われたら、「ダメだ他に必要な物が沢山ある」と言っていました。

その一つがこれなのでしょう。

どれだけ先を見ているのでしょうか。


そういえば、あの人は皆からロボットの名前を聞かれたら「あれはロボットでは無い、鎧だ」と言っていました。変なこだわりがあるようです。


「ロボットとは無制限に遠距離攻撃が出来る物を言うんだ。アフロダイ○ースのミサイル、ガ○ダムの頭部のバルカンのように無限に攻撃できるのがロボットだ。直接攻撃しか出来ないこれは、鎧だ。名前はアンナメイルだ!!」


――どんなメイルだよー!!


全員が心で叫んでいました。

結局私は、青い鎧に天海、紅い鎧に天夕と名付けました。

他の人も愛鎧にそれぞれ名前をつけたようです。

私は、教団の幹部に、天海と天夕を預けて、とんぼ返りでここにいますが、あの人はすでに、眠ることを忘れているようです。


「アンナメーダーマーーーーーーン!!!」


上空から、坂本さんの大声が響き渡ります。

この鎧、どういう理屈かわかりませんが空を高速で飛ぶことが出来ます。 


「どうしました」


「大変です。皇居がゾンビに襲われています」


「はーーっ、何て?」


「ゾンビです。ゾ、ン、ビ!!」


「あーーははは、何かの見間違いでしょう」


「本当です。見間違えようがありません。上空から見たら、何百万、いいえ、東京中の死体が皇居に移動しています」


「あずさ!! 激豚メイルと俺とミサ、坂本さんを寺倉さんの所へ運んでくれ」


「は、はい」




「おおおっ、来てくれたかアンナメーダーマン!!」


寺倉さんが、突然現れた私達に少し驚きながら、歓迎してくれているようです。


「こ、これがアンナメーダーマンの機動戦闘鎧ですか」


寺倉さんは機動戦闘鎧と呼ぶ事にしたようです。


「激豚メイルです」キラーン


キラーーンって満月に反射して歯が光りました。光るような名前ではありません。

寺倉さんが悲しげな顔になっていますよ。

あずさちゃんだけは目がキラキラしています。

あんたは、お父さんのやることを全肯定しすぎです。


「おそろいです」


黒いジャージをめくって、海パンのお尻の「激豚」を指さし見せています。

どうでもいいわーーー。


「何をしている!! 頭を狙えーー!! うぎゃああああーー!!!」


ここまで悲鳴が聞こえてきました。

どうなっているのでしょうか。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?