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0032 木田城へ

この場所は、アニメのファンタジー世界なら王城だ。

こんな所から、女の子が一緒に行動したいなどと出て来れば、たいていお姫様か御貴族様のお嬢様だ。


「そのような事は、俺の一存では出来ません」


ふふふ、これが一番良い。

厄介ごとはごめんだ。


「ないしんのう様、私を置いて行かないでくださーい」


遅れてスレンダーなスーツ姿の美女が走ってくる。


「あずさ、愛美さんは名字がないしんのうなのか」


「たぶんそう」


「じゃあ、愛美さんは姫様とかじゃ無いのかな」


「普通の感じだったよ」


「普通の女の子なのか」


「はい、そうです。私はごくごく普通の女の子です」


愛美さんがニコニコして自分で言った。

じゃあ、普通の女の子なのだろう。


「はあ、はあ、愛美様。探しましたよ」


スレンダー美女が愛美さんに近づき、俺との間に割って入ってくる。


「あんたは何者だ」


俺は、スレンダー美女に聞いた。


「私は愛美様の側衛官の坂本と言います」


そくえいかんってなんだ。

聞いた事が無い。アニメでも見た事が無い。

まあ、知らんものはしょうが無い。


「坂本さんか、このお嬢さんが、一緒に来たいなどと言っている。連れ帰ってくれ」


「愛美様!?」


驚いた顔をして、坂本さんが愛美さんの顔を見た。

愛美さんが微笑んでうなずいた。


「では、私も同行致します」


「えーーっ」


厄介ごとが増えてしまった。


こんな会話をしている間にも、アイアンファングが連れてきた村人が、ゆで卵を無心に食べている。

最初は遠慮していたが、あずさがすすめると、二つめ三つめとどんどん食べている。


ミサも小さな子供の為に殻をむいて、せっせとマヨネーズをかけて渡している。

それを見て、愛美さんも坂本さんも同じように手伝いを始めた。


「あの、私もいただいてよろしいですか」


坂本さんが聞いて来た。


「いいに決まっている。食べてください」


「ありがとうございます。……おいしーー」


そう言うと、坂本さんは愛美さんにも食べる様にうながした。

全員が、満足するのをまって、近くで見守る兵士を呼んだ。


「俺たちは、この人達を安全なところへ連れて行く。このまま行くから寺倉さんにはよろしく伝えてくれ」


「はっ、わかりました」


「あずさ、そろそろ行こうか」


あずさに移動魔法を頼んだ。






木田城の中庭に出た。

木田城というのは、木田産業の本社のことで、最近は木田城という事が標準になってきた。


「柳川ーーー!!」


「おおおーっ! 大勢ですねー」


俺が呼ぶと、柳川は窓から顔を出し、俺たちの様子を見て喜んでいる。


「ゲン達は?」


「総長は町の警備です」


「そうか、この人達に町で住んでもらおうと思う。どこか良い場所を探してくれ」


「わかりました」


「ああ、それは俺がやります」


藤吉が村人の案内をかって出てくれた。


「じゃあ、そっちは藤吉にまかせる。晩ご飯も食べさせてやってくれ、頼む」


「わかりました」


「じゃあ、ファングとバリア、愛美さんと坂本さんも入ってくれ」


俺たちは四階の会議室に入った。

数人の柳川と藤吉の部下もいる。


「俺は柳川です」


全員が座るやいなや、柳川が自己紹介をした。

俺はA4の写真を開いて、会議室の机の上に開いた。

愛美さんと坂本さんが興味深そうにのぞき込んだ。


「これは、隕石を消滅させた31人のヒーローの写真だ。ここに,ミサがいて、ファングがここ。バリアがここにいる。あずさは写真を撮っているのでここに写っていない。そして、一番アップで尻が写っている激豚が俺だ」


31ヒーローズって「アイスみたいだなー」などと今更思った。


「おおおおおーーーっ」


どよめきが起った。

俺は写真をどけると机の上に地図を開いた。


「バリア、あんたのバリアはどの位の広さだ?」


「おらのバリアダニか。そーダニなー。半径五キロぐらいダニかなー」


相変わらず癖が強いなー。


「柳川、この地図でならどの位になる」


「そーですねー。この位ですね」


柳川が定規で示した大きさだと、木田シティーはすっぽり入り、まわりの市も少し範囲に入る。

改めてみるとすごい大きさだ。

この範囲を、重機も使わず31ヒーローズは、何メートルも掘り進んだのだ。

俺はジーーンと胸が熱くなった。


「バリアは、あんたを中心にして展開するのか?」


「そうダニ」


「ふむ、柳川。木田城を中心にすると、山ばかりが範囲になってしまう。どこか良い場所は無いか」


「そうですね。ここはどうでしょうか。ここに木田産業の倉庫があります。ここなら電気も食料もそろっています」


「良し、バリアにはそこに行ってもらおう。柳川。そこを中心に半径五キロの円を描いてくれ」


柳川は地図に鉛筆で円を描いた。

俺は、出入り口を一カ所だけ作って、外との出入りはそこだけにしようと考えている。


「ここですね」


柳川が俺の考えを先読みして、指をさした。

こいつもミサみたいに心が読めるのじゃ無いかと思ってしまう。

指の位置は、木田シティーを縦断する県道と円の交差する場所だった。


「バリア、この道の所だけバリアを解除出来ないだろうか」


「そんな事はお安い御用ダニ」


「そうか、ありがたい。ファングにはこの場所を防衛してもらいたい。頼めるか?」


「ゾレガ、ムラビトヲマモルコトニナル、ヨロコンデヤラジテモラウダ」


「ふふふ、ありがとう」


これで、町の防衛が楽になった。


「柳川、この事をゲンに伝えてくれ、他の皆は冷たい物でも飲んでくつろいでください。あずさ! 俺と中庭に来てくれ」


「はい」


俺は、少し試したい事があって、あずさと中庭に出た。

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