一週間が過ぎた。俺は、生き残りの人達が心配で、もう一度差し入れに行く事にした。
ミサとあずさと一緒に近くまで移動して、二人には物陰で隠れてもらい、一人で警備兵の前に両手をあげて歩いた。
「止まれー! 何者だー!!」
「俺です! アンナメーダーマンです」
「そっ、そうですか。アンナメーダーマンは、通すように言われています。ですが証拠を見せていただけませんか」
「えっ!?」
いきなりの銃撃は無くなったが証拠を見せろという。
まあ、フルフェイスのヘルメットに、黒のジャージに裸足じゃあ、ただの不審者だ。証拠も必要だわな。
仕方なくジャージのズボンを下ろして、海パンのお尻の「激豚」を見せた。
「おお、まさしくアンナメーダーマン!!」
おーい、これから、ここでの身分証明は、毎回ジャージを脱いで尻を見せないといかんのかー。
あずさとミサを手招きして呼び寄せた。するとあずさが俺のヘルメットを見つめながら。
「とうさん、何故ヘルメットを外さなかったんですか?」
と、聞いて来た。
し、しまったー。その手があったのかー。
き、気が付かなかったー。俺が固まっていると。
「どうぞこちらへ」
警備兵が声をかけてくれた。ありがたい。ありがたい。
ふふふ、これで無かった事になったはずだ。
そう考えていると、ミサが呆れた顔をして見つめている。
あーばれているのですよね。はい、わかりました。
少し歩くと、立派なテントに案内された。
「私は寺倉一等陸佐です。先週は食料を分けていただき感謝致します」
中に入るなり、敬礼とあいさつをしてもらった。
「今日も、差し入れを持ってきました。今回はキャベツと、玉子、カップ麺を持ってきました。ただし、カップ麺は賞味期限がきれていますけど、不要なら持ち帰ります」
俺は、一つ意地悪をした。
賞味期限切れの物を持ってきて、いらないと言うかどうか試したのだ。
俺は、底辺所得者だ。
カップ麺などは、賞味期限ギリギリで投げ売りされている物を沢山買い込む。当然食べる時は、賞味期限切れだ。時には二年以上たった物でも平気で食べる。
こんな非常時に、貴重な食料を賞味期限が過ぎているからと、断る様なら仲良くは出来ないし、したくない。
そういう意味で試したのだ。
「ふふふ、カップ麺の賞味期限など一年過ぎていても、十分食べられます。喜んでいただきます」
うむ、半分合格だ。ここは二年でもと言って欲しかった。
「あずさ、頼む」
あずさはうなずき、テントの外にでて食料を出した。
「うおおおーーーすげーー!!」
テントの外で歓声があがった。
「アンナメーダーマン。少し頼みたい事があるのだが良いかね」
「なんでしょうか、出来る事なら何でも致します。丁度俺も頼みたい事がありましたし……」
「そうですか。何を頼まれるか不安を感じますが、まずはこちらの頼みから、飲み水を分けていただきたい」
俺は、食料品を出し終わって戻って来たあずさを見た。
あずさは、笑顔でうなずいた。
あずさが兵士に案内されるところを、テントの入り口から見ていると、給水車が十数台並んでいる。いっぱい集めたなー。
あずさは一台ずつ水魔法で、水を補給していった。
「あずさ、あそこの入浴セットにお湯を張ってあげなさい」
水が不足しているのなら、お風呂にも入っていないだろうと思い「湯」とのれんが掛かっている施設を指さした。
「はーい」
あずさが元気に返事した。
「おお、重ね重ね、ご配慮ありがとうございます。それでアンナメーダーマン殿の頼みとは何でしょうか?」
「俺の頼みは、子供の保護です。子供を見つけたら、家族共々保護して欲しい。その後はこちらで安心して暮らせる様にします。是非協力してもらえないでしょうか」
俺は、こんな世界になった事に少なからず責任を感じている。
そして、子供が泣いている姿が思い浮かんで、心安らかでいられない。
もし、親にはぐれ一人で泣いている子供がいたら一秒でも早く助けたい。
そしてあずさの様に、腹を空かせ泣いている子供の手を取り、腹一杯にしてとびきりの笑顔が見て見たいと、心からそう思っている。
一週間ずっと飛び回ったが、情けない事に俺は一人も見つけてあげられなかった。きっと俺の姿を見て隠れたのだろう。あやしすぎるもんな。
だからここは、組織の力を借りて手分けして探してやりたい。
「そ、そうですか。我々はここを、命を捨てて守る事ばかりを考えていました。……そうですね、忘れていました。元々我々も国民の生命と財産を守るのが仕事です」
「えっ!? ちょっと待って下さい死守していたという事? ここってそんなに大事なところなのですか?」
「はーーっ!」
ミサが呆れている。
「えっ!?」
益々わからねえ、いったいここはどこなんだよー。
「ここは、旧江戸城です。わかりやすく言えば皇居です」
寺倉さんが笑っている。
「こ、皇居!! ぐわーーっ、恐れ多いー。俺の様な豚が来て良いところじゃねえー!! 直ちに帰ります。あずさ、ミサすぐに帰るぞー!!」
ダダダダダダ
パーーン、パーーン
俺が帰ろうとした瞬間、銃声が聞こえた。
「バケもんだー、ぎゃーーーっ!!!」
悲鳴も聞こえる。
「うろたえるなー。いったいどうした。報告をしろ!!」
さすがは寺倉さんだ、貫禄が違う。
「俺の出番のようですね」
「行ってくれるのか? アンナメーダーマン」
俺は寺倉さんにうなずいて見せると、あずさとミサの方を見た。
「あずさはじっとしていてくれ。ミサ行くぞ!!」
ミサはお尻をクイっと少し出し、お姫様抱っこをしやすくした。
はーーっ、やれやれだぜ。ため息をつきながらご希望に応えた。
いったいどんな化け物が出たのだろうか。