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第三十話 現れた化け物

一週間が過ぎた。俺は、生き残りの人達が心配で、もう一度差し入れに行く事にした。

ミサとあずさと一緒に近くまで移動して、二人には物陰で隠れてもらい、一人で警備兵の前に両手をあげて歩いた。


「止まれー! 何者だー!!」


「俺です! アンナメーダーマンです」


「そっ、そうですか。アンナメーダーマンは、通すように言われています。ですが証拠を見せていただけませんか」


「えっ!?」


いきなりの銃撃は無くなったが証拠を見せろという。

まあ、フルフェイスのヘルメットに、黒のジャージに裸足じゃあ、ただの不審者だ。証拠も必要だわな。

仕方なくジャージのズボンを下ろして、海パンのお尻の「激豚」を見せた。


「おお、まさしくアンナメーダーマン!!」


おーい、これから、ここでの身分証明は、毎回ジャージを脱いで尻を見せないといかんのかー。

あずさとミサを手招きして呼び寄せた。するとあずさが俺のヘルメットを見つめながら。


「とうさん、何故ヘルメットを外さなかったんですか?」


と、聞いて来た。

し、しまったー。その手があったのかー。

き、気が付かなかったー。俺が固まっていると。


「どうぞこちらへ」


警備兵が声をかけてくれた。ありがたい。ありがたい。

ふふふ、これで無かった事になったはずだ。

そう考えていると、ミサが呆れた顔をして見つめている。

あーばれているのですよね。はい、わかりました。


少し歩くと、立派なテントに案内された。


「私は寺倉一等陸佐です。先週は食料を分けていただき感謝致します」


中に入るなり、敬礼とあいさつをしてもらった。


「今日も、差し入れを持ってきました。今回はキャベツと、玉子、カップ麺を持ってきました。ただし、カップ麺は賞味期限がきれていますけど、不要なら持ち帰ります」


俺は、一つ意地悪をした。

賞味期限切れの物を持ってきて、いらないと言うかどうか試したのだ。

俺は、底辺所得者だ。

カップ麺などは、賞味期限ギリギリで投げ売りされている物を沢山買い込む。当然食べる時は、賞味期限切れだ。時には二年以上たった物でも平気で食べる。


こんな非常時に、貴重な食料を賞味期限が過ぎているからと、断る様なら仲良くは出来ないし、したくない。

そういう意味で試したのだ。


「ふふふ、カップ麺の賞味期限など一年過ぎていても、十分食べられます。喜んでいただきます」


うむ、半分合格だ。ここは二年でもと言って欲しかった。


「あずさ、頼む」


あずさはうなずき、テントの外にでて食料を出した。


「うおおおーーーすげーー!!」


テントの外で歓声があがった。


「アンナメーダーマン。少し頼みたい事があるのだが良いかね」


「なんでしょうか、出来る事なら何でも致します。丁度俺も頼みたい事がありましたし……」


「そうですか。何を頼まれるか不安を感じますが、まずはこちらの頼みから、飲み水を分けていただきたい」


俺は、食料品を出し終わって戻って来たあずさを見た。

あずさは、笑顔でうなずいた。

あずさが兵士に案内されるところを、テントの入り口から見ていると、給水車が十数台並んでいる。いっぱい集めたなー。


あずさは一台ずつ水魔法で、水を補給していった。


「あずさ、あそこの入浴セットにお湯を張ってあげなさい」


水が不足しているのなら、お風呂にも入っていないだろうと思い「湯」とのれんが掛かっている施設を指さした。


「はーい」


あずさが元気に返事した。


「おお、重ね重ね、ご配慮ありがとうございます。それでアンナメーダーマン殿の頼みとは何でしょうか?」


「俺の頼みは、子供の保護です。子供を見つけたら、家族共々保護して欲しい。その後はこちらで安心して暮らせる様にします。是非協力してもらえないでしょうか」


俺は、こんな世界になった事に少なからず責任を感じている。

そして、子供が泣いている姿が思い浮かんで、心安らかでいられない。

もし、親にはぐれ一人で泣いている子供がいたら一秒でも早く助けたい。

そしてあずさの様に、腹を空かせ泣いている子供の手を取り、腹一杯にしてとびきりの笑顔が見て見たいと、心からそう思っている。


一週間ずっと飛び回ったが、情けない事に俺は一人も見つけてあげられなかった。きっと俺の姿を見て隠れたのだろう。あやしすぎるもんな。

だからここは、組織の力を借りて手分けして探してやりたい。


「そ、そうですか。我々はここを、命を捨てて守る事ばかりを考えていました。……そうですね、忘れていました。元々我々も国民の生命と財産を守るのが仕事です」


「えっ!? ちょっと待って下さい死守していたという事? ここってそんなに大事なところなのですか?」


「はーーっ!」


ミサが呆れている。


「えっ!?」


益々わからねえ、いったいここはどこなんだよー。


「ここは、旧江戸城です。わかりやすく言えば皇居です」


寺倉さんが笑っている。


「こ、皇居!! ぐわーーっ、恐れ多いー。俺の様な豚が来て良いところじゃねえー!! 直ちに帰ります。あずさ、ミサすぐに帰るぞー!!」


ダダダダダダ

パーーン、パーーン


俺が帰ろうとした瞬間、銃声が聞こえた。


「バケもんだー、ぎゃーーーっ!!!」


悲鳴も聞こえる。


「うろたえるなー。いったいどうした。報告をしろ!!」


さすがは寺倉さんだ、貫禄が違う。


「俺の出番のようですね」


「行ってくれるのか? アンナメーダーマン」


俺は寺倉さんにうなずいて見せると、あずさとミサの方を見た。


「あずさはじっとしていてくれ。ミサ行くぞ!!」


ミサはお尻をクイっと少し出し、お姫様抱っこをしやすくした。

はーーっ、やれやれだぜ。ため息をつきながらご希望に応えた。

いったいどんな化け物が出たのだろうか。

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