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第二十九話 残された人々

「うるさいなー。なんなんだよー」


「なんなんだよーじゃないわ! 私は仕留められたイノシシなの! 下から見たらパンツ丸見えだしー!!!」


どうやら、無造作に脇に抱えられたのが、気に入らないらしい。

だいたい、豚がイノシシを捕まえるかよー。


「じゃあ、おんぶか」


「……」


無言で首を振る。


「まさか?」


俺はお姫様抱っこのかっこうをした。

コクコクうなずいている。

やれやれ、ガッカリだぜ。

お姫様抱っこをしたら、嬉しそうな顔をしている。

お風呂に入ったばかりなのか、石けんの良いにおいがした。


「じゃあねーー!!」


あずさに、手を振っている。

あずさが少しムッとした顔をしている。


「動くんじゃねえよ。バランスが取りにくいんだ」


俺は、足から空気を噴出させて、飛び上がった。

手の平はふさがっているので、肘から空気を出してバランスを取っている。


「すげーーっ。自力で空を飛んでるよ。信じられねー」


柳川と藤吉が空を見上げ、つぶやいている。

今の俺は、前より体のコントロールがしやすくなっている。

これも、蜂蜜さんと同化したおかげかもしれない。

蜂蜜さんにお願いしなくても、自分の体としてコントロール出来るようになった。


ミサを抱っこしているので、スピードは控えめだが、すぐに都心が見えてきた。

街は静かだった。建物はあまり破壊されずに原型をとどめている。

高度が高いせいか、あまり変化を感じなかった。

街の様子をはっきり見る為、高度を落とす。


「ぐええー、げぼおー」


ミサがもどした


「だ、大丈夫か」


俺は手を広げ、エプロンの様にして、はいた物がミサにかからない様に受け止め、綺麗にした。


「ごめんなさい」


「気にするな。それより汚れてないか」


「あなたのおかげで大丈夫みたい」


「しかし、こりゃあひでーー」


広い道路に死体が放置されている。

埋葬する事が出来なかったのか、大量に転がっている。

集団同士がぶつかったのか、山の様になっているところもあり、悪臭が酷い。

真っ黒な山があったので近づいたら、それはハエがたかっている死体の山だった。


「ふふふ、俺の中の蜂蜜さんが、食べたがっている」


「ぐええぇぇぇ!!!」


俺の言葉を聞くと、自分が食べるのを想像したのかミサがまたも、もどした。


「大丈夫か?」


俺が聞くと、手で口と鼻をおおい、親指で上を示し上下させる。

俺は高度を急いで上げた。


「ごめんなさい。臭いがきつすぎて」


「うん、ひどいな。これは……」


俺は想像していた以上に酷かったので驚いた。

高度を上げると、黒い固まりが幾つもあり、何万人死んでいるのか見当もつかなかった。

生きている人がいないか、注意深く見ていたら声が聞こえる。


「な、何なんだあれは、近づくようなら打ち落としてもかまわん」


広い緑の場所を守る、迷彩服の人影が見える。

空を飛んでいるので、急には止まれません。


「撃てーー!!」


あちこちから銃撃が始まった。


「やめろーー。やめろーー。あやしいもんじゃねえー!!」


ミサがバリアをはってくれたので、銃弾は弾き飛ばして当たらないが、高度を上げてこの場を離れる事にした。


「生き残りがいた。よかった」


「どうするの」


俺は少し離れたところで着地すると、いつもの黒いジャージを脱ぎ、ヘルメットも取った。


「ミサ、これをもって後ろから、ついてきてくれ」


俺は激豚の海パン一丁になると両手を挙げて一歩一歩近づいた。


「話しを聞いてくれー」


「それ以上、近づかず、その場所で停止したまえ」


俺は足を止めた。

ミサは、バリアを張りながら後ろで立ち止まった。


「話しを聞いてくれー!!」


「わかった話しは聞く、その前に何者か言いたまえ」


「俺は木……」

「この人は隕石を消して地球を救った。アンナメーダーマンよ」


俺が木田と言おうとしたら、ミサがそれをさえぎって言った。


「な、なんだって、隕石を消しただと……」


迷彩服の人間達がザワザワしている。


「アンナメーダーマン、聞いた事がある。小学生を救った金髪のデブだ」


「俺も憶えている」


あー、そういえばネットでもザワザワしてたもんなー。

アンナメーダーマンって意外と有名なのかー?


「あなたが、隕石を消したという証拠は?」


「うふふ、すでに落ちていないといけない隕石が、何故落ちてこないのかしら。それを知っているのが証拠よ」


また、ザワザワしている。


「それで、ここに何の用で来たのかを伺いたい」


「ふふふ、食料を提供したい。受け取ってもらえないだろうか」


「なんだってー!!」


またザワザワしている。


「いらないのなら、このまま帰ります。うふふ」


ミサが悪戯っぽく笑う。


「まっ、待って欲しい。本部に確認する」


「ミサ、あずさを連れてきてくれ」


「うふふ、わかりました」


返事をすると、ミサがテレポートして姿が消えた。


「うおおっ! 消えた」


大勢が驚いている。


「うおおお!! 妖精か? ちょー可愛いメイドが現れたー」


ミサがあずさを連れてきた。

あずさは、戦闘服の例のメイド服を着ている。

ちょー可愛いといわれて、あずさはご機嫌だ。大サービスでくるりと回った。


「うおおおーー、スライムのパンツだーー!!」


いいえ、それは水着ですよ。


「ま、まずは、証拠を見せて欲しい」


「あずさ、玉子とお米を出してくれないか」


「はい」


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!


何も無いところから、突然多くの米の袋と、玉子の箱が出て来て驚いている。


「こっちの玉子は、ゆで卵です。毒味でも、どうですか」


あずさが言うと、恐る恐る小隊長が歩いて来た。


「あずさ、マヨネーズを出してくれ。まずは俺が毒味する」


俺はゆで卵をむいて、マヨネーズをたっぷりかけて頬張った。

ミサもあずさも真似して食べている。

近づいてきた隊長にあずさは、綺麗にむいたゆで卵にマヨネーズをたっぷりかけて渡した。


「うおおお、まじかーー。うめーーー」


「うふふ」


隊長がうまそうに食べるのを見て、あずさが嬉しそうに笑った。


「か、可愛すぎる。ゴホン! アンナメーダーマン、これを全部もらって良いのでありますか?」


「ご寄付致します。お納め下さい」


「あ、ありがたい」


「俺たちは、帰ります。また、来た時には撃たないでもらえると嬉しいのですが」


「わ、わかりました。全員に通達しておきます」


「あずさと、ミサは先に帰ってくれ、俺はもう少し生きている人を探してみる」


「はい」


二人はそろって返事をすると姿を消した。

あずさとミサを返すと俺はもう一度、一人で街を飛んでみた。

ここ以外で人影を探す事は出来なかった。

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