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第二十話 前世の記憶

「と、その前に、とうさん、あの日の事を憶えていますか?」


あの日ー?

だめだー、あずさは何を怒っているんだー。心当たりがありすぎてわからねーー。

あれかー、可愛すぎてチューした日かー。


二人で暮らしを始めた最初の頃、可愛すぎて、は、脱毛症の所にチューをしちゃったんだ。

首の上、後頭部のしたに。うつ伏せで寝ているあずさが可愛すぎたんだ。

そしたら今でも髪の毛が生えてこねー。

何でばれたんだ。柳川が見ていたのかー?


「もしかして、だつ……」

「そう、たんじょ……」


「!?」


俺とあずさの声がかぶった。

たんじょ、たんじょって何だ?


「とうさん、だつって何?」


「そそそ、そう聞こえた? たんって言ったんだけど」


「そうよね。誕生日よね」


誕生日かー。あぶねー。墓穴を掘るところだった。

あの日か、十歳の誕生日。

あの日の事は、憶えている。

あずさが、あずさちゃんを卒業した日だ。


「十歳の誕生日の事か」


「うん、やっぱり憶えていてくれた。好き」


「んっ?」


あずさの奴、なんか言ったか。

語尾が小さすぎてよく聞こえなかった。


「あの日、うな重を食べた時、前世の記憶が少しだけ戻りました」


「えっ!?」


「私の前世は魔王でした」


「ええっ!?」


俺と柳川は驚いた。

まさか小学生なのに厨二病かー?

俺のが、うつったのかー。


「信じてもらえないかもしれませんが、勇者に殺された魔王なのです」


「本当なのか……」


あずさは、これで頭が良い。

俺よりはるかに頭が良い。

真実を言っているはずだ。

俺が信じなくてどうする。


「はい、あの日のうな重が引き金になって思い出しました。六歳より前の記憶が無いのに変でしょ」


「いや、だからこそ、思い出したのかもしれない。沢山泣いていたもんな」


「うふふ、泣いていた理由は、今でもよくわからないの、とても懐かしい感情が押し寄せてきて止らなかっただけなの。懐かしさだけが次々とめどなく湧いてきたの」


「そうなのか」


俺は驚いた。

尋常じゃない泣き方をしていたのに、具体的な思い出はなかったというのか!

恐らく前世のあずさには、うな重に強くそして深い深い思い出があるのだろう。


「それでね、しばらくして少しずつ具体的に思い出したのは、大きなお城、そのお城、魔王城の大きな宴会場で、可愛いメイド服を着て、恐い魔将軍に料理を運んだり、空のお皿を下げて運んだりする私の姿。横にだぶだぶのメイド服を着た猫耳の可愛い幼女もいたわ」


「えっ、そ、それって、ただの女中さんじゃないのか」


ま、まあ、あずさの可愛いメイド服姿はすごく見てみたい!

横を見たら柳川も同じような事を考えているのか、目にメイド服のあずさの姿が映っている。


「あ、本当だ。そ、そうよね。そんな魔王はいませんよね。しかも皆からあずさって呼ばれています」


「名前は、同じなのか」


「ええ、見た目も同じです。今の私とほとんど同じです」


「ま、まあ、魔王城で働いているんだ。メイドといえども相当強いはずだ。俺はアニメの知識で知っている」


「私は、使える魔法は、だいたい思い出しています。その中に移動魔法もあります」


「な、なんだって」


「目で見えるところ、一度行った所ならどこでも瞬時に行けます」


「じゃあ」


「はい、すでに目で見える様になった隕石へは移動魔法で行く事が出来ます」


「本当に、本当なんだな」


「うふふ、はい」


「よし、行こう。そして、地球を救おう」


「その前に、戦闘服を作らないと」


柳川が言ってきた。


――はっ!!!!!


さ、さすがは柳川だ!

て、天才かーーー!!




翌日早々、街へ買い出しに出かけた。

あずさの戦闘服を買いに行く為だ。

世に中にはすごい店がある。

メイド服が一杯売っている店がある。


「すげー、こんな店があるんだなー」


「すごーい。なんだか懐かしい」


あずさもノリノリだ。


「どれでも好きな奴を……」


どれでも好きな奴を買って良いぞと言おうと思ったら、零が一つ多い。なんて値段だーー!!

やばい。ご飯が食べられなくなる。


「ふふふ、地球を救っていただくのですから、俺が払いますよ」


柳川ーー!!

好きになりそうだよーー。


「あっ!」


あずさが一つのメイド服の前でピタリと立ち止まった。

リボンが可愛いメイド服だ。

そして、ひとしずく涙がこぼれた。


「あずさ。これなのか」


「はい、このメイド服です。私が魔王城で着ていたメイド服です」


柳川と俺は見つめ合った。

お互いの目にこのメイド服を着たあずさの姿が映った。


「このメイド服をあるだけ買いたい」


柳川が言った。


「これは、オーダーメイドなのでー……四着しかありません」


四着もあるのかよー。

一着しかないと言うのかと思ったよ。


「あずさちゃん、一度合わせて見てくれる」


柳川がメイド服をあずさに渡した。


「はい! ……すごーい、ぴったり。でも、スカートが少し短いです」


時々パンツがチラチラしている。


――いや、これでいい。皆が納得するはずだ。


なんと言っても、父親の俺から見ても、あずさは絶世の美少女だ。

柳川も満足そうだ。


「あの、この服を着るのなら、見られても良い物が、はきたいです」


頬を赤らめるあずさは、妖精の様に可愛い。

そうだ、あずさのパンツを誰にでも見せるわけにいかない。


「パンツって売っていますか」


つい俺は店員に聞いてしまった。

俺は少し興奮気味で鼻息が荒かったようだ。


「あ、はい」


変な雰囲気になった。

そして、見せてもらったパンツは、とんでも無いパンツばかりだった。

一つずつあずさが着けたところを想像してみた。


「駄目だー! けしからーん!!」


見せパンどころか、見せられないパンツばかりだった。

なんなら、ここのパンツをはいて、今のパンツを上に、はいて貰いたいぐらいだ。


――つづく

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