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第十五話 廃旅館

スマホのポイントは、ここから直線距離ならさほど遠くない。

だが、車だといったん町の方まで出ないと、道がつながっていないので、かなり遠回りをしないといけない。

今の俺は、走るのも速い。走って直線で行った方が速いはずだ。


真夜中の山だが、空が晴天の為か星が綺麗だ。

山を走りながら、手から空気を噴出してバランスを取ったり、大きくジャンプして距離を稼いでいる。

噴出している空気は、地球温暖化の解消の為、二酸化炭素から、炭素を取り出し酸素に変えている残りかすだ。まだ大量に体の中にある。

足からも噴出すれば、飛べそうな気がする。


県道につながった私道が、一本だけポイントにつながっている。

人間ならこの道を通らないとポイントには行き着くことが出来そうに無い。

幸い俺は、もう人間を超越してしまっている。

道を通らず山の中を進むと、道を二台の車でふさぎ、拳銃を持った男達が見張っている、その様子を見つからずに発見できた。


「ちっ、まいるぜ」


やばい予感しかしない。

男達を無視して、ポイントに急いだ。


「すげー!!」


そこには巨大な温泉旅館があった。

当然廃業しているようだ。

まわりが鉄板で囲われ、一カ所だけ鉄板が外されている。

関係者以外進入禁止、不法侵入者は警察に通報します。と、なっている。

俺は、目立たないところを探し、鉄板を飛び越えた。


中に入ると、ゲンはまだ無事だった。


「ぐああーーーっ!!」


今、ダーとポンがデカイ体の男達に痛めつけられているところだ。


旅館の一階が広い駐車場になっていて、車のヘッドライトに照らされ、大勢の男達の姿がある。

その中央にゲンがいる。

ゲンを囲む様にギャングの様な男達が不気味な笑顔で立っている。

男達の手には拳銃があり、銃に詳しくない俺には名前まではわからないが機関銃をもっている者までいる。


男達の前には、体を拘束され座る事も出来ず倒れている、生気の無い男達の姿があった。

ゲンの配下の幹部の顔がある。こいつらが人質ということなのだろう。


「ひーーひっひっひ」


俺ぐらい太った男が笑い出した。

すると、その横にいる男達も笑い出した。

恐らくこの太った男がボスなのだろう。

廃旅館の気持ちの悪い雰囲気と、このボスの憎悪が伝わってきて、ブルッと寒気が走った。


俺は糸のように細くした体の一部を、気付かれない様に伸ばし、銃を持つ男達の足下にひそませることにした。


「ゲン、やっと追い詰めたぜ。てめーはやり過ぎなんだよ!! 楽には殺さねーから覚悟しろ!!」


「……」


ゲンは、怒り狂うボスを前にしても全く無表情で、無言のまま光の無い瞳でボスを見つめる。


「気持ちの悪い目だなー、まずはその目をくりぬいてやる。そして、鼻をそぎ、耳を切り落としてやる。その後は指の爪を剥ぎ、指をニッパーで関節ごとに切ってやる。痛ーぞー。わあーはっはっはっは!!」


「てめーらは、恥ずかしくねえのか」


ゲンはまるで感情の無い、静かな口調で言った。


「なにーーっ」


ゲンがあまりにも、静かな口調だった為か、ボスはかえって聞く気になった様だ。

ゲンはいったい何を言う気なのだろうか。

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