俺は部屋で、クリぼっちを決め込んだ。
食べ物はこたつの上の三つのみかんだけだ。
腹は空いたが、買いに行くのは面倒だ。作るのはもっと面倒くせー。
「はーーっ」
ため息をついて、こたつに入ったまま、横になりボロアパートの天井を見つめた。
俺は、コロちゃんという伝染病のため職を失った。
今は失業保険で暮らしている、四十四歳の冴えない、お宅のおっさんだ。
新しい職は、なかなか決まらない。
介護と警備の仕事は求人が多い。だが、内容を調べると思い切って飛び込む気にはなれない。
今までも、派遣の仕事で安い給料に、賞与も昇給もなかった。もちろん退職金も何も無い。
給料は十万円台だった。後半じゃ無いよ。
「この先も、こんな安い給料で仕事を続けるのかよーー!!」
思わず一人きりなのに声が出た。
社会は無情だ、何もかもが値上がりする中、底辺の人間の年収だけは上がらない。
結婚も彼女も考える事すら無い。
自分が食っていくのでカツカツだ。
すでに回転寿司も随分行っていない。
「夢も希望も何も無いなー」
俺はこのまま「死んだほうがましなのでは」と、心でつぶやいた。
まあこの時この瞬間だけは、本気で生きる気力を失っていた。
「なっ!!」
こたつのテーブルの上が黄色く輝きだした。
「こ、これは!?」
魔法陣のような模様も見える。
光が消えると、テーブルの上に黄色いベチャッとした物が残った。
「ふふふ、何だよこれ、美女とか出てくるわけじゃ無いのか。底辺の俺にはこんなもんだよな」
ベチャッとしているくせにウネウネ揺れている。
「スライムかな、いやアメーバーか」
それは蜂蜜にも見える。
いや、蜂蜜に見えてきた。
いやいや、蜂蜜でしょう。
「ちょっとだけ味見して見るかな」
俺は、それに指を突っ込み、味見をした。
深く眠っていたようだ。
上体を起こすと、こたつの台の上に視線が行った。
「あれ、みかんが無くなっている」
俺のこたつはちょっと変わっている。
まず普通に布団をひいて横になる、その状態で胸の上に小さめのこたつのテーブルを置く。
まるで、病院のベッドのテーブルのようにする。
普通のこたつの使い方をすると、電源を入れないと寒い。
この使い方だと、電気がいらない。そして温かい。いつでもパタンと倒れれば眠る事が出来る。
難を言えば、トイレとか布団から出るのが面倒臭い事だ。
そういえば、腹があまり減っていないな。どうしてだ。
「まてまて、部屋が綺麗になっている」
俺の部屋は当然ゴミ屋敷だ。
そのゴミが無くなっている。
「あっ、ゲームまで無くなっている」
人生が終った感じがした。