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第34話

辺りが静かになったのを確認し、残心を解く。

血を払い、ウエットティッシュで拭いて鞘に納め、地面に座ったままの少女に手を差し出しつつ、声を掛けた。


「きみ、大丈夫?」


「あ、ありがとう……彼方あなた強いのね」


手をとって助け起こすと、悪かった顔色も少しだけ和らいだ気がした。

足の痛みを訴えるように、黒髪を纏めたポニテが揺れるので、一旦腰を降ろすのに丁度良さそうな石の上に誘う。


 彼女の脚の具合の確認の為、防具を外し患部をふき取、稼働域確認後、冷却スプレーで応急処置をした。

その時感じた柔肌と甘く芳しい香りに、顔が赤くなるのを誤魔化す為、ウエットシートやカロリーバー等冷却・洗浄・休息アイテムを渡し、背を向けたまま、ややぶっきら棒に話しかける。


「ちょっとそこで休んでてよ、魔石だけでも取って来るから。

 終わったら出口まで送って行くね。」


 ドキドキする心臓音をBGMに、一度その場を離れる。

顔が暑い、いやぁ~超ハズい。 その後いっぱい魔石取りした。



………

……



魔石も、顔の赤みもとれた頃合いで、声を掛けながら彼女に近づく。


「足の具合はどうですか? ボク加藤光太郎って言います。

 あー結構腫れて来ましたね、痛みは大丈夫てすか?」 


「動かさなければ大丈夫よ。改めまして、ありがとう助けてくれて。

 私は中原なかはらともえ高校2よ。えっと…申し訳ないけど出口までお願いできます?」


怪我した女性を放置できないし、送ることは問題ない。


「分かりました。それと自分、高1なんでフランクにお願いします。

 で、送るのは構いませんが……その足だと肩貸すだけで歩けますかね?

 『おんぶ』…んんっ、『背負う』ほうがいいですか?」


 人肌感がある『おんぶ』より、荷物感がする『背負う』のほうが、より事務的でいいかと言い直したのだが、彼女中原さんは顔を赤らめながら改めて言い直した。


「では申し訳ないんですが、その……『おんぶ』して頂けるとありがたいです」


かっはぁぁー 反則じゃんそれ! 


横座りなので脚は強調されてるし、ポニテから見える項は綺麗だし、色々なことで弱った瞳は潤みがちだし、ライダースーツベースの防具は女性的ラインがハッキリだし、なんかイケナイと思います!


いかんいかん。 悪霊退散、煩悩退散!  色即是空、空即是色。

瞬間で脳内会議を終え、荷物を纏め上げると、彼女に背を向けあくまで事務的に・・・・・・・・しゃがむ。


「っっ 分かりましたどうぞ…」


「…っっ失礼します」


 とさっと背中に重みが加わると共に、甘い香りが鼻孔をくすぐる。

恐れていた期待?背中にあたる柔らかい感触は、防具に見事邪魔されさすがプロテクター、体感できなかった。

ちょっとした役得があってもよかったのに、と思うのは悪い事なのか?ちくせう


「じゃあ行きますよ」


 俺は立ち上がり歩き出す。カバンを前方に移し、バランスはバッチリだ。

敵に遭遇するのも面倒なので、やや早足ぎみの移動を心掛ける。 

耳元で聞こえる彼女の呼吸音と甘い香りを友に、帰路を急ぐ。 


 ダンジョンの出入り口。ゲートに戻り、退場手続きをしている時

いつもゲートにいるお姉さん武装OL風美女が、焦った様子で駆け寄って来た。


「あ、丁度いい所に……右側でモンスターの群れが現れたみたいで討伐隊に加わって貰えませんか?」


 服装はいつもと違い、四肢にプロテクターを装着外装強化パックし、防弾装備のようなベストを上から着込んでいるフルアーマー仕様だ!


「構いませんけど……? この女性ヒトを助けた時に粗方片づけたんですけど、まだいるのであれば参加します」


 試験問題にもあったが、JSUSAジェイスーサが管理するダンジョンで想定外イレギュラーが起こった場合、特別な事情が無ければ冒険者はJSUSAジェイスーサの指揮・命令下に加わる事が求められている。


 強制力は今の所ないのだが、時間の問題と言われている。

 また参加するだけで一定の補填があるので、元々今日の稼ぎが少ない俺としては願ったりかなったりだ。


「ありがとうございます! ではこちらへ……」


「この女性ヒトをお願いできますか?」


おぶっていた彼女をゲート周りにいた職員さんに預け、場を離れる時

「後日お礼をしたいので後で連絡ください!」


 やや早口でそう言って、渡されたのは一枚の紙だった。

 内容を見るとSNSアカウントとIDが記されている。

ふぉぉおおぉぉー (b'v`嬉)


この世界がゲームならキーアイテムフラグキタコレGetだぜ! っと脳内にファンファーレを響かせながら、努めて紳士的に返す。


「分かった。お大事にね」


 職員さんに案内されるがまま入った部屋は、広い講堂のような作りで、

既に30人ほどの探索者が集まり、話し声がざわざわと響いていた。

 その部屋の一番奥、お偉いさんでも座りそうな席で、ぶーぶーと文句を垂れているのは、その場に不似合いな、いかにもギャルと言った風体の女性だった。


 少し大きめのトップスが醸し出すシルエットがかわいく、ゆったりとしているので随分と着痩せして見える。

た・だ・し・探索者の集まりの中でその姿は浮きまくりである。


「なんでアタシが行かなくちゃ行けないの? 今は夏季休暇なのに~~」


「まぁまぁ人命第一ですから、助けに行くと言っていただければお目当ての方を紹介しますので……」


その会話はアイドルとマネージャーのそれで、宥めご機嫌を取り、餌を垂らして何とか動いてもらおうとしているようで、見るのが辛い。


「主任、例の探索者をお連れしました……」


 ここまで案内してくれた職員さんは、申し訳なさそうに主任と呼んだ女性に話しかけた。

 あの子のマネージャー的な人ではないんだね。)察し


「ありがとう……たすかるわ」


 等と言って軽く報告を始めているので、説明をと思って声を上げる。


「あのーモンスターの群れなら多分、俺が片づけたと思うんですけど……」


「レベル1に片づけられる訳ないと思うんだけど……そうね、君だったらもしかしてできるかもね……取りあえず確認に向かいましょう。

皆さんは出発してください」


 号令をかけると探索者達はドアに向かう。

その中に地元有名チーム:オーガーズ、三河フェニクス、豊橋天狗の面々が居た事に驚いた。


「へぇー、って事はこの子がスレの)ry……

今日はアタシ、君に会いに来たんだよね……君、なかなか強いんだってね。 

アタシはスリーフッドレーベンズのメンバー:立花たちばな銀雪しらゆきよ。

そんな見所のある君に、このアタシが稽古を付けてあげるわ! 」


「え、えぇぇぇえええええ!」


 俺は驚きの余り大声を出してしまった。

因みに『ビッシ』っと人差し指を向けた姿は、往年のアニメキャラ涼宮〇ルヒを彷彿とさせるものであった事を追記しておく。

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