「っっりゃゃあぁぁぁ―――」

　剣を八相に構え、振りかぶりフォーム左の足裏で地を強く踏み、自身を砲弾として射出する。

重鈍な挙動で振り返る２体のオーク労働者に向けて。

まずはピッケル持ちＭrピッケル――君に決めた！――

　数mの距離を一瞬で詰め、左腕の肘から先を袈裟懸けに斬り飛ばす。

即座、スコップ持ちによる追撃を、身体を捻りながら刀でいなし、その捻転力のまま、がら空きになった脇腹に回し蹴りを叩きこむ。

「――――グオっ！」

　痛みに悶もだえ腹を抱えた事で、スコップ持ちの頭部が下がり、より斬り飛ばしやすくなる。

「終いだ！」

　そう宣言し剣を振うものの、その時刀身はいつも通りの鈍い銀色に戻っていた。そう、付与魔法【皇武神の加護ディバイン・ブレス】の効果切れだ！　粉雪を思わせるエフェクトも今は無い。

「――――やば！」

　振っている途中の剣により一層、腰と腕力を込めるが……

途端にゴム板や、強靭な繊維に刃を突きたてたような、得も言われぬ抵抗感と反発が刀身から伝わる。

――――このままでは、斬り飛ばすことは出来ない――――

（ちっくしょー！　魔法抜きだと俺の実力って、こんなもんなんかよ！）

でもムリに首を飛ばす事をしなくても、動脈傷付ければ殺すにゃ十分じゃない？　脊椎動物にとって首は弱点だし。

俺は刃筋をしっかり立てる事を意識し、少しづつ刃を押し込んでゆく。

　半分ほど刃が入ったところで、苦しくなったのか抵抗が減少する。

うなじから入った刀を、刀身半ばまで差し込み、一気に引き戻す。

ゴキリッとした感触の後、頭の重さに耐えきれなくなった首が、オークの身体にぶら下がる。

緑血のしぶきを散らし緑の噴水を作り、スコップ持ちの躯は倒れた。

　うし！　残り＠2体

「よし……いけるぞ！」

　そう自分に言い聞かせるように呟く

「さあ来いよ、豚野郎どもっ！！　『南無八幡大菩薩！なむはちまんだいぼさつ』」

呪文詠唱で再び輝きを取り戻した刀は、切れ味も頼もしく、血振るい一回でサッと汚れも落ちる。

深夜ショッピングの焦げ付かないフライパンや、切れ味の良い包丁を思い出したが、こっちは更に戦闘証明付きだw。

　一瞬くだらない事が頭を過ったが、心と刀を正眼に構え、備える。

オーク達は、仲間が殺された事に怒りを覚えているのか、鼻息荒くこちらを睨みつけ、唸り声のような奇声を上げる。

「「オオオオオオオオオオオォォォォッ！」」

　ドスドスドスと、優に100キロ超えた巨体が突っ込んで来る迫力は、トラックに轢かれそうになるそれに近いだろか。

フィジカルで負けいるのだ、気迫で負ける訳にはいかない！

「来いよブタ公！　一撃で切り裂いてやんよ！」

　高ステータスに任せ、大胆に間合いを詰めると、頬まで裂け牙のみえる口元を『ニチャっ』と歪ませる醜悪な面が大きくなる。

「――――ブモヒっ！」

　大きく振りかぶったピッケルを、まるで軽い棒きれか何かの様に、雑に横殴りに振う。

ビュン！

　しかし、俺はその攻撃を腰を落とす事で紙一重で躱かわす。

　地面に左手を付く程に低い……クラウチングスタートのような姿勢まで腰を落とし、左下段にオニキリカスタム構えたその姿は、まるで飛び掛かる前の四足獣を想起させた。

　高い筋力ステータスで、コボルトのように跳ね、オークの腹目掛けて円弧を描くように肉厚の刃を振り抜く――――

　一閃

居合のような鋭い斬り上げの軌道で、オークの分厚く強靭な皮膚と筋張った筋肉、分厚い脂肪に覆われた巨躯きょくを真っ二つに切断する。

　オークが斬撃の衝撃で後ろに倒れてくれたお陰で、銅臭い血を浴びずに済んだのは不幸中の幸いだ。

「――っと、次だ！」

「ブゥモオオオオオォォ――――！」

　｜利き腕を失うも、｜闘志を失わない姿に賞賛はすれど《痛くねぇんだすっげぇーな》、諸手狩りスタイルのタックルが遅い！……遅すぎる。

「――――疾しッ！！」

すれ違い様に、最後のオークを切り捨て、対オーク戦は終了した。