翌日は武器を買った店に向かった。
ケガの痛みが引くまでは、休養を取るべきだと考えたからだ。
「いらっしゃいませ」
そう言って挨拶してくれたのは、先日の華やかな見た目の女子だった。
「先日はありがとうございました」
礼の言葉述べ感謝を示す。
「いえいえ。私も初めて武器が売れてよかったよ。
こほん。本日はどのようなお品物をお求めでしょうか?」
「わざわざ丁寧な口調にしなくてもいいよ。
実は、昨日ダンジョンバットの群れに襲われて……結構斬ったので研ぎをお願いしたいなぁと思って……」
「そう言われても、他のお客さんには丁寧な口調じゃないとダメだし……じゃぁ練習ってことで、まだダンジョンに潜って二日目だとおもいますが……モンスターを合計何体ぐらい斬りましたか?」
「大体100体ですかね……」
「ひゃ、100体ですか!?」
店員さんは店中に響く程、大きな声を出して驚いた。
やはり、2日で100体と言うのはかなりぶっ飛んだ数のようだ。
「あ、ごめんなさい」
店員さんは、大きな声を出したことを恥ずかしく思ったのか、赤くなった顔を両の手で覆った。
「別に気にしませんよ。
研ぎってやっぱりプロに任せた方がいいんですよね?」
「ええ、基本的にはプロの方が削る量が少ないので刀が痩せなくてすみます。ただ研ぎ料が結構かかるので、お金のない学生さんにはお勧めは出来ないです。AI技術の発達で、削るべき部分に塗料を吹きかける可視化技術が開発中らしいですけど、実用はいつになる事やら……」
聞けば研ぎ料は一振り3万~らしく、錆びや刃毀れでの整形研ぎでも1万円程度はかかるらしい。
「ウチのお店では無料診断をやってますから、良ければどうですか?
お時間は少々かかってしまいますが……」
そう言われたので、スポーツバックごとオニキリカスタムを預け、店の中をうろつきながら商品を物色する。
「そろそろ防具が欲しいんだよなぁ~~」
昨日の戦闘で俺の弱点が分かった。
一つめは、攻撃範囲の短さ。
二つめは、防御力の低さ。
三つめは、技術の無さである。
攻撃範囲の短さは槍などを購入するしかない。
技術は時間をかけて学ぶしかない。
ならば、防御力の低さを補う事にした。
「何かお探しですか?」
そう言ったのは、さっきまで対応してくれた女の子とは違う店員だった。
「ええ、プロテクターを買おうかなと思って」
「なるほど! それだとこの辺がお勧めですね」
店員さんが指さしたのは、初心者向けセール対象商品の防具セットだった。
「こちらの商品は最低限、モンスターの爪や牙、斬撃などによって切り裂かれない事を目的とした装備ですので、お求めやすい価格になっています」
そう言うとスマホの電卓で総額が表示される。
税込み約25万円。
見た目ほぼバイク用品なのだが、安価な品よりも一回り以上値段が高い。
「防具メーカーの多くが、バイクやレース用品を取り扱っていた所で、軍需企業の多くがその後を追っているのが業界の動向です。
ウチのお店では、
素材も様々で、カーボン、金属、ゴム、強化プラスチック、レザー、ダンジョン由来の素材など多種多様ですが、安全には替えられません」
名前が挙がったメーカーの多くがバイクのプロテクターを作っているメーカーだ。
「なるほど!、じゃぁバイクのプロテクターはある程度流用出来るんですね」
「はい。ですがあまり古い物ですと、
「ええもちろん」
俺はプロテクターを店員に渡す。
「この品だとコレが流用できますね。
全身分のお値段が、端数切って税込み21万円で如何でしょうか?」
「じゃぁ、お願いします」
4万下がったことに喜びつつ俺は金を払う。
「ありがとうございます。ビニール袋はサービスさせて頂きます。
ありがとうございました。」
「無料診断終わりましたよ」
派手な髪色の店員さんが奥から出て来た。
「
「あ、ごめんなさい」
昨日の綺麗な店員さん改め鈴鹿さんは、先輩? と思われるスタッフに頭を下げた。
「別にいいよ。じゃぁお客様案内して……」
「はい。ではこちらへお願いします」
「お預かりしたオニキリカスタムですが、刃毀れが酷くお客様の研ぎでは恐らく、回復が難しいレベルの破損状況との事です。
研ぎ工賃が4万円です。お預かりさせて頂ければ、明日の朝10時までには仕上がります。どうされますか?」
まぁプロがやった方が良いと言っているのだ。
でも今日だけで25万の出費かぁ痛いなぁ。
通算二日で50万超の出費! で、稼げたのは3万円程度。
バイト代と、お年玉貯金がなければ耐えられなかった。
「あう、お願いします」
俺はそう言って全額の支払いを終え、数字の減ったオンライン銀行の預金残高の数字を見て悲しくなった。
俺は家に帰ると、刀剣店に置いてあった本『探索者向け! 刀剣の研ぎ方入門から基本編』を片手に、祖母の包丁や鎌、収穫用のはさみで使って研ぎの練習をすることにした。