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第13話

ザシュ。


 大量の血が肩口からどくどくと噴出し、ぼとりと言う音を立てて、骨と皮だけの腕が地面に落ちる。


「ゴガァァァァァアアアアア!!」


 痛みによる絶叫なのか、死に対する恐怖なのかは分からないが声にならない声を上げ、武器を落とし肩口を押させ頭から地面に倒れる。


「出血死するのかどうかを確かめたい気持ちはあるけど……流石に犬猫を虐めているみたいで罪悪感を感じるな……一思いに殺してあげよう」


 背中辺りを爪先でグリグリと踏みつけ固定、首を狙い剣を振う。

 さながら、観衆の面前で斬首刑を執行する処刑人のように。


「せーの!」


 俺はそのありふれた掛け声を合図に、剣を垂直に振り下ろした。

 剣は狙い違わずゴブリンの首に命中し頭と胴体を永遠に別つ、すると大量の血がドバドバと吹き出す。


 俺は剣をゴブリンの首から引き抜くと、ブンと言う風切り音を立てて下段に振い血糊をある程度落とす。

 血糊を拭い鞘に納刀し、ナイフを取り出し解体を始める。


「不意打ちなしの1V1タイマンでも問題なく勝てた。という事は、あの強ゴブリンが障害ってやつなのか? 一番強かったイメージはあるけど……まぁ俺が成長しただけか」


 俺はゴブリンの魔石をウエストポーチに入れてた。


「ポーチも体力も限界だから、今日はそろそろ帰るか……」


 こうして俺は、帰り道もダンジョンバット先生やスライム等を倒しながら元来た方へ進んだ。

 ダンジョンの出入り口。入場ゲートに戻りライセンスをかざし出る時の事だった。


「大丈夫ですか?」


 衣服のボロボロさを見て、係りの人が声をかけて来た。


「大丈夫だと思います。ダンジョンバットの群れと戦闘しただけですから……あ、そうだダンジョンバットって病原体持ってますかね? 結構嚙まれたりしたんですけど……」


「今の所そう言った報告は受けてませんが……一応病院に行かれる事をオススメ致します」


公式見解として『危険なウイルスや病原体はいない』とされているらしい。厚生労働省のHpを見せながら説明してもらった。


「ありがとうございます。買い取りが終わったら行ってみます。じゃぁ買い取りお願いします」


 俺は今までの分を買い取りに出す。

 駅の駅員室や映画のチケットの販売所のようになっていて、金銭を受け渡す事が出来るようになっている。


 聞いたところによると、強盗対策らしい。職員の多くは冒険者ではないので、冒険者と揉めれば最悪死にかねない。だから気休め程度ではあるがこういった防衛策が敷かれているのだ。

 足元にあるカゴに魔石を入れ暫く待つと、金額が支払われる。


「買い取り金額が合計で28600円になります。まだ二日目なのに……みたいですね」


 トレーに万札を乗せながら、買い取りカウンターの女性はそう言った。

 どうやら俺の事を疑っているようだ。


「えぇ、ダンジョンバットが仲間を呼んだみたいで、数十匹に襲われちゃって見ての通りの傷だらけです」


 俺はそう言って欧米人のように肩を竦める。

 『モンスターが強化された事』も、『落とすアイテムの質が良くなる。』事も実感できていないからだ。


「確かにご苦労されたようですね……」


「ありがとうございます」


 俺はそう言って買い取りカウンターを離れ、更衣室に向かった。

 更衣室に付くと、ロッカーから着替えの洋服とタオル、ボディーソープを取り出してシャワー(五分で100円)を浴びる。

 傷口に水やソープが染みる。


「痛って!」


「ハハハハハ、モンスターにこっ酷くやられたようだな」


 そう言って声を掛けて来たのは、隣のブースでシャワーを浴びている190㎝はあろうかと言う。長身で角刈りのマッチョマンだった。


「ええ、ダンジョンバットの群れに襲われて命からがらって感じです」


「そうかそうか、それは災難だったな。俺は近藤。豊橋ダンジョンをホームにしている冒険者だ。お前見た感じソロだろ? 悪い事は言わないからパーティーを組んだ方がいいぞ? 稼ぎは減るが安全マージンを保ちやすい。まぁ年上のお節介だと思ってくれ」


 どうやら悪い人ではないようだ。


「学生だろ? 傷が残ると、カタギにビビられちまうからな……コレをやろう」


 そう言って渡されたのは、緑色の軟膏だった。


「この軟膏はダンジョンで取れる薬草の成分が入っていて、塗ると傷の回復を促す作用があるだが、回復薬と違って消費期限があるんだ。それはあと数日で消費期限が切れるからお前にやるよ。病院で消毒して貰ってから使うんだぞ?」


「そんな貴重なものを!? ありがとうございます」


 ダンジョン産の回復薬は高い事で有名で、最上級回復薬ポーションになるとオークションで10~55兆円の値が付いた事は有名だ。


「いいてことよ。俺は頑張ってる奴を応援したいんだ。高校生で探索者をするんだ。何かあるんだろう?」


「ええ、まぁ……」


「だったら大人の好意はありがたく受け取っておけ」


 そう言って俺は軟膏を貰い。お礼を言ってLIMEのIDを交換し、バイクで病院に向かった。


「結構するんだなぁ」


 病院から出ると、俺の中学の頃に買ったプー〇の財布は随分と軽くなっていた。 


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