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第11話

 今日で2回目、気合を込めていざダンジョンへ


 昨日の興奮を思い出しながら道を進む。

ゴブリン共と戦闘したルームに到着すると、何か違和感がある。

辺りを伺うと、比較的新しい戦闘の痕跡があった。


俺以外の冒険者が何者かと戦闘したようだが、その痕跡は最早、壁石や足元に僅かに残る黒い血液跡のみだった。

 恐らくは、ダンジョンの掃除屋と仇名されるスライムの仕業だろう。


 スライムはモンスターの中では珍しい人を見つけても襲ってこないノンアクティブモンスターで、屍肉食動物スカベンジャーの役割も担当している。

またその危険度の低さから武器の当て方の練習、レベル1への昇格を担うチュートリアル役として人気のあるモンスターだ。


「右か左それが問題だ。」


 分岐を見ながら、ハムレットの一文をオマージュする。

先ほどのMobを倒した冒険者が進んだ方向に向かえば、お零れに預かれたり、より奥層に進める可能性は高いが、一匹もMobを狩れず金が稼げない可能性もある。


 統計的に、人間は右を選びやすいと言う。

だから、スーパーなどでは外周を回らないと肉や魚、野菜を買えないように配置する事で、より多くモノを買わせようとしているらしい。

    ――――という事を思い出した。


「よし、今日のパンツが赤いから左にしよう」


 左の道を歩いていると、違和感を感じる。


「何かいる……」


 頭上付近1Ⅿ上を注視すると、そこに居たのはコウモリ型モンスター

全長約45㎝ほどの大きさのダンジョンバットだ。


「ダンジョンバットか厄介だな……刀だと間合いがギリギリだな……」


 こんな時のために、槍を買っておけば良かったと後悔するもの、後の祭りだ。


「――――!!」


 人間には聞こえない周波数の超音波を発しているのだろう。ダンジョンバットは、大きな三日月状の口を開いている。


 ダンジョンバットは飛行能力・戦闘能力共に低く、群れで攻める事でようやく、ゴブリン一匹と同程度の強さと言われているのだが……俺が所有するデメリット付きスキル【禍転じて福と為す】の効果でどれだけ強化されているのだろうか? と考えるだけでも嫌になる。


 仲間の声を聞きつけて、ダンジョンバットの群れが押し寄せる。


「マッ〇ハンドみたいに永遠に、『仲間を呼ぶ』をされても困るんだけどな!」


 そうは言いつつも今の俺に有効打は少ない。右手にオニキリカスタム、左手に解体用のナイフを持ち、飛来するダンジョンバットを迎撃していく。


 袈裟斬り→逆袈裟りと、手首を軽く捻り正面からの攻撃を防ぐように剣を振う。

 流石に10匹以上の数になると、迎撃しきれずに牙で足や腕に嚙みつかれ吸血されてしまう。

 そいつを集中して殴っている間に、また新しい個体に噛まれると言う悪循環に陥ってしまう。


「うぜぇンだよ!」


 左手に持った解体用のナイフで、ダンジョンバットの丸まるとした饅頭のような体に刃を突き立てる。


グサリ!


 ダンジョンバットは血を噴出す。

 オニキリカスタムで、ダンジョンバットの群れを一刀両断しながら、吸血で少なった血の事を考える。


(確か前に献血した時は、「約500mlまでなら健康上問題ないですから、献血で400mlぐらい血を抜いたってどうって事ありませんよ。あれ! 全然血が抜けないなぁ~師長~~」って赤十字の人が言ってたから大丈夫だ。)


 全長45㎝・翼間150㎝超のオオコウモリが数秒から数分程度で、何ミリリットル吸血するかは知らないが、少ないに越したことは無い。

 随分と剣を振うのにも慣れて来た。


刀は片刃のため刃筋をシッカリと立てなければ、最大パフォーマンスを発揮する事は難しい。確かにこういう乱戦・混戦を想定すれば、槍や剣の方に分があるだろう。

 だが刀には格好良さと、切れ味がある。


 解体用のナイフからオニキリカスタムの鞘に持ち替えて、疑似二刀流スタイルで応戦する。


 距離5メートル……今だ!


 確りと刃筋を立てるイメージで刀を振るう。

 打ち落とすイメージで、右上方、左下方。二体のダンジョンバットが一直線に並んだところで袈裟斬りに刀を振るう。


「せやぁぁぁぁあああああああああッ!」


 二体のダンジョンバットを、地面に叩き付けるイメージで刀を振り抜く。

 ――――だが視線を他のモンスターから離す事はしない。

俺が刀を振り抜いたのを確認してから、ダンジョンバット達は一斉に襲い掛かる。


 距離は数メートルと言った所か……

 だが俺の二刀目。

鞘による横なぎによって、襲い掛かる多くのダンジョンバットは殴り飛ばされる。


 イメージは鞘と刀による二段構えの人斬り抜刀斎剣術、双〇閃そう〇〇〇せんだ。

 出遅れたダンジョンバットには、三刀目の袈裟斬りがお見舞いされ、あらかたのダンジョンバットを片付ける事に成功する。


「っしゃァああ! オラっ!!」


 数が減っているうちに、強化プラスチックが入った安全靴で、鞘で殴り壁や地面に打ち付けられたダンジョンバットを蹴飛ばし、踏みつけ行動不能あるいは命を奪う。


 ぜぇぜぇと、肩で息をしながらなんとか呼吸を整えると、鞘を捨て残ったダンジョンバットに斬りかかる。

 先ほどまでとは違い、両手で剣を構えた状態だ。


「食らいやがれ!」


 俺は刃筋を気にしながら走り、逃げようとするダンジョンバットの群れを斬り殺してく――――


「ふうーっ、これで一段落ついたな。ダンジョンバットの魔石って小さいらしいけど、お金になるから剥ぎ取るか……モンスターを倒して剥ぎ取るって……まさにモン狩りじゃん!?」


 愚痴や文句を吐き捨てながらも、解体用のナイフを使い、換金用の魔石を体内から抜き出して集める。


「ああ。モン狩りのお守り厳選しなきゃ、アプデにおいて行かれるぅ~~最近のクエは調査レベル上げないと受注できないの多いからなぁ~~サボってたぶん頑張らないと」


 どうやら俺は、50匹を優に超える数のダンジョンバットを斬り殺していたようだ。


「そりゃ大変なわけだ……」


 一部のゲームでは『仲間を呼ぶ』モンスターをあえて全て倒さないように調整し、効率よく経験値や技の熟練度を上げるために悪用するらしい。

 実際計らずとも俺は、それを実践してしまった。


 規則的に飛来するコウモリを斬り付ける事で、刀の使い方と体捌きを学ぶことが出来た。

 それにしても、この階層のモンスターでこの強さなら、もっと下の層に行くとどれだけ、デメリット付きスキル【禍転じて福と為す】で強化されるのだろうか?  そう考えると、少し不安になる。

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