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第10話

 豊橋にある自宅ではなく、祖父母の家がある豊川に向け、GASGASパンペーラ250を飛ばす。

 もちろん背中には、竹刀を入れるようなスポーティーな肩掛けに、買ったばかりのオニキリ―カスタムが一振り。


 何というか誇らしい気分だ。


「ただいま」  


 玄関のドアを開け靴を脱いで家に上がる。


「お帰り」  


 そう言ったのは祖母だった。


「ばーちゃん腹減った。今晩なに?」


「こーちゃんの好きな鉄火丼だよ。お吸い物ももう出来ているから、速く手洗いうがいしてらっしゃい」


「マジで? やったぜ。」


 俺はそう言うと、急いでハンドソープで手首まで洗い、い〇じんでうがいをし、アルコールジェルを手に馴染むまで擦り込む。

 ゴブリンの血が付いた服は、俺用の洗濯籠に入れた。


 ドタドタと足音を鳴らし、俺ぐらいしか上がらない急勾配な階段を上がり、爺ちゃんが買ってくれたメタルロッカーの中に、オニキリカスタムと解体用ナイフをバッグに入れたままロッカーに押し込み、鍵をかける。


 鍵は首から下げる。鍵っ子スタイルだ。

 またドタドタと足音を鳴らし、急勾配の階段を降り、一階のダイニングに行く。

 冷蔵庫からパックで煮だした麦茶のボトルを取り出して、大き目のコップを取り出して並々と麦茶を注ぐ。


「はい、お吸い物よ」


 そう言って差し出されたのは、柚子の皮の入った椎茸と、良く分からない青菜のお吸い物だった。

 夏ではあるが汁物はありがたい。

汁物があるだけで食事の満足感が一味違うからな……


「ありがとう」


「漬けマグロも沢山あるから、たんとおたべ」


 そう言って差し出されたアルミニウム製のボウルには、山葵醤油に漬けられたマグロの切り身が沢山敷き詰められていた。

 ウチの鉄火丼は少しばかり変っていて、Yo〇Tubeで見るような卵黄が乗っていたり、いりごまや胡麻油、シソの葉が乗っている事はない。


 酢飯の上に刻んだ海苔と砂糖と醤油で作ったタレを回しかけ、その上から漬けマグロ、三つ葉を乗せ、自分で山葵を足して食べると言うスタイルだ。


「頂きます」


 俺は手を合わせそう言うと、先ずは三つ葉と漬けマグロを口に運ぶ。

 醤油の塩分のお陰で、余分な水分の抜けたマグロは程よい食感ともったりとした食感になっており、仄かに香る山葵と三つ葉の匂いが魚臭さを打ち消している。


(美味い。)


 三つ葉の茎の歯応えや舌ざわり、食感も良いアクセントだ。

 一度冷たい麦茶を一口、飲んで醤油の塩味とマグロの匂いを洗い流す。

 次箸で酢飯を切り分けるようにして挟み、一気に掻きこむ。


先ほどとは違い酢飯、マグロ、ワサビ、醤油、海苔の香りがして、酢飯の酸味とタレの甘味がマグロと三つ葉を包み込む。

甘すぎず、辛すぎず。


甘じょっぱいタレがご飯に沁み込み、酢飯の酸味を和らげてくれている。そして最後に山葵の辛みが、鼻腔をスッと抜ける。


「美味い!」


 次は思わず言葉が漏れる。

 一杯目を完食したところで、柚子の皮の入った椎茸と良く分からない青菜のお吸い物に口を付ける。椎茸と柚子の品の良い香りが口内を洗い流す様に染み渡る。


 半分ほど飲んだところで、鉄火丼の味変タイムに突入だ。

Yo〇Tubeで見て美味そうだった、胡麻油から試してみることにする。

一回し胡麻油をかけ、丼ぶりに口を付けて酢飯をかきこんだ。


もぅ最っっ高っ!


 胡麻油の風味とコクが赤身に足りない油分を補い、またその香りが魚臭さを消し、食欲を増進させる。 山葵を足しても美味い。

 三杯目は卵黄を乗せて黄身をマグロに絡めて頂く……


 ねっとりとした卵黄が、マグロの赤身に加わる事で、美味しさの相乗効果を生んでいる。これもまたマグロの魚臭さの軽減とコクの増進に貢献している。

そんなこんなで俺は、鉄火丼を三杯平らげる。


「あら、随分お腹が空いていたみたいね。初めてのダンジョンで疲れただろう。お皿は洗っておくから歯磨いて早く寝なさい」


「ありがとう。ばあちゃん」


 ばあちゃんの言葉に甘え、丼ぶりをシンクのボウルの中に水を張って入れ、重くなった腹を摩りながら急勾配な階段をあがり、ラフな部屋着替に着替える。

 戦闘の緊張感が残っているのか? 疲れをあまり感じない。

どうやらまだ体は緊張状態のようだ。


「ステータスオープン」


 PC画面のウィンドウのような半透明の板状のモノが現れる。

カチカチと精密な歯車が嚙み合わさるような音がして、俺の【ステイタス】が更新される。



――――――――――――――――――

加藤光太郎

Lv.1

力:I

耐久:I

技巧:I

敏捷:I

魔力:I

幸運:I

《魔法》

《スキル》 【禍転じて福と為す】

――――――――――――――――――



「やっぱり、数字が目に見えて上昇する訳じゃないから達成感もないし、最初のゴブリンと強ゴブリンの強さの違いが明確に出来ないのは辛いなぁ……」


 国が発行している探索者の手引き(冒険者と言うのは俗称で正式には探索者と言う)曰く、ダンジョンで初めてモンスターを倒すと身体能力などをある程度可視化出来るようになる。


 ステータスは『力』、『耐久』、『技巧』、『敏捷』、『魔力』の基本五項目から構成されており、上からSS、S、A、B、C、D、E、F、G、H、Iで区分されている。詳しいステータスの幅は分からないとしながらも、恐らく100刻みではないか? と言う学説を紹介するにとどまっている。


 またレベルが上がる事でステータスが増える事があるらしく、そう言う意味では俺のステータス『幸運』はレアステータスと呼んでいいものだ。


「まあでも、スキル【禍転じて福と為す】のデメリットがあってもゴブリンとの死闘を乗り越えられたんだ。大丈夫俺は冒険者としてやっていけるさ……」

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