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第7話

 次に飾り気のないブロードソードの写真が指さされる。


「両刃剣だと、フランスのデュノア社製『ラファール』が人気ね。

頑丈で、比較的安価・良く斬れると三拍子そろった一品よ。

お値段は通常140万円だけど、初心者割り引きで120万円ととってもお買い得だよ。中古だと100万円だからギリギリ予算の範疇かな」


「最後におすすめするのが刀『ダンビラー』ね。

『破格の値段で大和魂を貴方へ』をモットーにした(有)《有限会社》KATANAの作。

現代刀を打っていた刀匠達が作った会社で、ウチの店の推しなんだ。

お弟子さんたちの作刀練習の品だから破格のお値段なんですよ。

お値段なんと、破格の60万円!」


「安っす!」


 因みにダンジョン産の金属や食品は高い。

例えば牛丼でさえも、モンスター牛を使ったものだと10倍以上はする!ので正直破格の安さと言える。


「その代わり品質にブレがありまして……目利きが出来る人達には愛用される方が多いんですが、上位モデルの『オニキリ』がよりお勧めです。

お値段はカスタムなしで100万円ですが、ダンビラーより肉厚の刀身で、『ダンビラー』よりもダンジョン産の金属の含有率が高くて、切れ味も鈍り辛く、反りもしっかり入っているので切断性能・耐久性能は断然オニキリの方が上です。

またカスタム性が高くて総重量や、振った時の軽さなんかをカスタマイズできますから長く使うならコレですね」


 とまたも、お母さまが解説を入れてくれる。


 『ダンビラー』のページから、『オニキリ』のページに捲られる。

 切っ先からの画像を見てみると確かに肉厚で、大げさな言い方をすれば、三角形を逆にした形になっている。

 ダンビラーとは違い、切っ先の部分から少しだけ両刃切先両刃造や小烏丸造と言うらしいになっている事も特徴的だ。


 命を預ける得物だ。出来るだけ良いものを買う事にしよう。自己投資かつ妹の薬を取って来るためと思えば、仕方ない。

浮いた金でPCゲーム買おうと思っていたのに……サヨナラバイバイ俺の美少女ゲーム。


「じゃぁ『オニキリ』を下さい。

高校一年生が買うんです、カスタムパーツ位はオマケしてくださいよ」


「おかあさんいい?」


「えぇ、娘が初めて剣を売ったのだもの。

 それに同い年の男の子なんだから、多少オマケしてあげるわよ」


 こうして俺はオニキリカスタム購入、解体用ナイフと運搬用のショルダーバッグに、刀を吊り下げる吊り具をサービスしてもらった。



………

……



 ~~JSUSAジェイスーサが運営する豊橋ダンジョン~~


ビル一棟が、ダンジョンとその関連施設になっており、一階がダンジョンの入出口と買取りカウンター、二階が更衣室、三階が売店とレンタルルーム、四階以上が職員のみが立ち入る事の出来るエリアになっている。


 鍵付きのメタルロッカーが並ぶ更衣室で料金を払い、手荷物を預け汚れてもいい古着に着替える。

更衣室にはシャワー室が付いており、冒険から帰って来た後に汗や血を流せるようになっている。


もちろん館内の施設は全て有料だ。

更衣室の外で準備運動を入念に行って体をほぐす。

目安は少し汗が滲む程度だ。


 駅の改札口のような場所に、ライセンスとスマホをかざす。


ピッ!


と言う電子音が鳴り、何時・誰が入ったかを記録してくれる。

 豊橋ダンジョン。通称【駅前ダンジョン】前に立つと、夏とは思えない程涼しい冷気がふーっと流れる。


子供の頃に行った、鍾乳洞のような涼しさだ。

 駅前ダンジョンは、坑道・洞窟型に分類されるダンジョンで、上層ではスライムやダンジョンバット等のモンスターが生息している……らしい。


 購入したばかりの装備に身を包み、ダンジョンに足を踏み入れる。

念のため咄嗟の事に備えられるように、予め鞘から刀を払っておく。

 剥き出しの壁・天井のゴツゴツとした岩肌が視界の全てを占め、重苦しい圧迫感・息苦しさを伴う閉塞感を感じさせる。 


>> これがダンジョン <<


身長175㎝の俺が剣を振り上げても、天井には届かない。

『大丈夫だ』と自分に言い聞かせ、足を進める。 

光源は、数メートル間隔で壁に埋め込まれたランプ? と、仄かに輝く不思議な苔の灯りによって、一応確保されている。


足元は、当然のごとく舗装などされておらず、まるで坑道のような通路に気を奪われ、歩くだけでも正直に言って疲れる。

ジャリっと踏む足の音・自分の息遣いがやけに反響して感じる


 初陣という事もあってか、俺の緊張感は半端ない

ステータスを得るためには、最低でも一匹モンスターを狩らなければいけないと言うのも、理由の一つだ。


最初の一匹の怪我率は意外と高いのだ。

 最初のエリアに出現するのは、スライムと言う国民的RPGで一躍知名度を得たモンスターで、攻撃を仕掛けない限り襲ってくるな事はない。


ゲームで言えばノンアクMOBモブと言う奴だ。

 新規探索者はステータスを得るため、普通はスライムを倒す。

だから危険度の低い出入口付近は、多くの人がたむろしているのだ。


このため特にこの時期は、一日中張り付いても一匹も狩れない事もざらにあるらしい。

仕方なく奥へと進む事にした。

 奥に行けば行くほどモンスターは強くなる。

 俺が狙うのはゴブリン。←『君に決めた』


 ヒト型と言う事もあって、戦いたくないモンスターとして名が挙がるので空いている可能性が高いことと、ヒト型ってことは、弱点も同じなはずな理由、どうせ童貞を切るならいっぺんに済ませようとの魂胆から。


 セミプロとアマチュアを別けるのは、ヒト型モンスターを殺せるか? と言う一点に絞られると、日本有数の探索者チーム:スリーフットレーベンズ所属の探索者、賀茂ゆうきさんが言っていたことを思い出しながら、俺はそんなことを考えていた。

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