「おとーさん、お客さん連れて来たよ」
少女は声を張り上げる。
「悪いな今別件商談中だから、お茶出してくれ……
くれぐれも余計な事するんじゃねぇぞ!」
渋めなイケおじボイスが聞こえる。 あぁ^~耳が幸せなんじゃぁ^~
「はーい、じゃぁここでお待ちください。」
そう言うと、パーテーションで仕切られたテーブルセットに案内された。
「ベテランって感じには見えないんだけど、やっぱり初心者?」
「そう、初心者。祖父母の田舎にダンジョンが出来てね。
爺ちゃんに、お前が探索者になってダンジョンのモンスターを『間引け』って言われて、ついさっきライセンス取って来たばっかりだよ」
そう言うと『ニー』っと人好きのする笑いを浮かべ相槌を打ってくる。
流石ギャル、コミュ力が高い。
「そうなんだ。ところで武術とかってやったことある?」
「習い事で空手と体育で柔道……ぐらいかな」
昔習っていたことがある程度の事だが、ないよりはマシだろう。
「武器の希望ってある? こう何って言うか……モンスターに近づきたくないとか、怖いとか……」
「今のところはないかな? FPSとかモン狩り・ゾンビハザードとかも平気だし……」
「へぇー 結構ゲーマーなんだね。私もピナクルとかやるよ。
良かったらこんどやろーよ」
「ぜひ」
嘘だと分かっていても、嬉しいもんだ。
キャバクラにハマるおっさんの気持が少しだけ理解できた気がする。
「ちなみに予算ってどれぐらい?」
「ダンジョンに入れないって言われたら、Dランクの装備を一つ買えればいいかなって程度だし、正直何でもいいよ……高校生だから予算もなくてね。そうだな100万ぐらいかな……」
俺が「探索者になる!」と言った時に、祖父から150万のお金を必要なものに使えと言って渡してくれてるから、ぶっちゃけ少しだけ余力があるが全額を武器だけに投資するわけにはいかない。
「それだと……中古で良いのを買うか、新品を買うかだけど……」
「パソコンと違って中古でも性能は下がらないでしょ?
なら中古でいいよ。どうせ経験がないから直ぐ壊しそうだし……」
二人でそんな事を話していると……
「あら、武具のご購入をご検討ですか?」
そう言ったのは中年の女性だった。
ギャルとは対照的に落ち着いたその黒髪は、地味な武具店の制服にとても合っている。
そして今接客してくれているギャルに目鼻立ちが似ているのだ。
「えぇまぁ、そうなんですよ。
こちらの店員さんには相談に乗ってもらってて……」
「あら、そうだったんですね。ウチの娘はこんな見た目で正式なスタッフではありませんが優秀な子です。もし気に入った武具があれば買ってあげてください」
「もちろんです」
「おかあさん。武器を握った事がなくて、柔道、空手の経験が多少あって、ホラーゲームで怖がらない人が約予算100万円で買えるDランク装備って何がいいと思う?」
「そうねぇー」
一瞬視線を俺に移し、娘の顔を見て更に俺に視線を移すとこういった。
「娘を含めて私達は武器に詳しいプロですが、それだけです。
武器のプロであって探索者ではないので、アドバイスは出来ますが最終的にはご自身で下す他ありません……ですからこれは助言の範囲です」
「わかりました。実際に命を預けて戦うのは、俺自身ですから……」
「もし筋力も無くモンスターが怖いのなら、槍をおすすめします。
しかしモンスターが怖くないとの事、それなら剣も選択肢にはいります。技術がないなら両刃で鈍器にもなるブロードソード。
格好良さも欲しいのであれば、肉厚な刀でもいいと思います」
「因みに、オススメ品のお値段を聞いてもいいですか?」
「あんたが連れて来た客なんだから、アンタが説明しなさい」
「分かった。いつものであってる?」
「えぇ。基本に忠実によ」
母親に言われて、ギャルの女の子は説明を始める。
「槍だと四菱重工製の『イワツキ』がオススメね。
穂先はダンジョン産鉱物を混ぜた特殊合金YOTUBISHIー142製。
頑丈で安心、初心者向けの装備よ。
お値段は90万円、中古で60万円~と言ったところかな?」
商品の写真を見せてくれる。 おー格好いい!
鈍色に輝く穂先で、柄部分はコストカットのためか木材で出来ている。
穂先の大きさは短刀と殆ど同じで90万かぁ……ちょっと高いな^^;
すかさずお母さまが解説を挟んでくれる。
「……ですが槍の運用には、サブの武器が必須になります。
鉈やマチェット、剣何でもいいんですが懐に潜られた時の対処のために、そう言った近接武器が必要になりますので、武器自体はお安い部類ですが総額は高くなります」
やはり、サブウエポンが必須級となると……総額200万オーバーの装備になってしまう。 槍は予算オーバーだな。