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第79話 セティの告白

 教皇であるレイラさんの申し出に、僕は声を荒げ驚愕した。


 三日後、神聖国グラーテで僕と彼女達で結婚式を挙げろと言い出したからだ。

 いきなり呼び出されたと思えば、あまりにも急展開すぎるぞ!


 驚いたのは僕だけじゃない。

 勿論、五人の美少女達も大口を開けて驚いている。あのパイロンでさえも唖然とした表情だ。

 ただヒナとシャバゾウだけは「なんのことやら?」といった感じで首を傾げていた。


「さぁ、セティさんに皆さん。さほど時間がございません。各自の衣装合わせがございますので、どうかご準備を」


「いや、レイラ教皇様」


「レイラで結構です。義理とはいえ母となる身です。お義母さんでもいいですよ、セティさん」


 ちょっぴり嬉しそうに頬を染めるレイラさん。

 フィアラに似ているだけあり綺麗で可愛いけど、そう思っている場合じゃない。


「ではレイラさん。お聞きしますけど、何故このグラーテカで結婚式を挙げなければならないのです? しかも半強制的じゃないですか?」


「わたくしがお答えいたしましょう。マギウスから聞いた話だと、セティ達はこれからエウロス大陸に赴くと聞いておりますが?」


 イライザ王妃に問われ、僕は正直に頷いた。


 モルスを打ち斃した今、次の相手はエウロス大陸を支配する『倭国皇帝』だと決めているからだ。

 僕の父アトゥムを陥れ、母を殺した張本人であり、これまでも散々悪行を重ねてきた人物である。

 ヒナやイオ師匠のこともあり、今も虐げられたエウロス大陸に住む民達のためにも、始末する対象に十分すぎる悪党だ。


「……それが何か?」


「であれば当面はグランドライン大陸には戻ることはない……したがって彼女達のご両親は皆大変心配しているのです。隣にいるマギウス、レイラ教皇もそうですが、隣国ウォアナの国王から精霊王に至るまで、皆が同じ声を上げております」


 イライザ王妃は言いながら、ムランド公爵を介して嘆願書を見せてくる。

 内容は「セティ殿と娘達の婚約及び挙式についての要望」について書かれていた。

 一番下に各親達の名前が署名されており、中にはイライザ王妃とロカッタ国王の名前まである。


 これほどまで著名人達のサインが記されているのは珍しい。

 ある意味、国の法律が強制的に変われるほどの執行力を持つかもしれない。

 しかし、なんちゅう手の込んだことを……。


「まぁ私達親族も強引なのはわかっています……ですが皆、娘達の幸せを思えばこそ。セティ君、どうかマニーサを幸せにしてやってくれ」


「わたしからもお願いします、セティさん。きっとここに来られない、ウォアナ国王や精霊王も同じ気持ちでしょう。その為の嘆願書なのですから……」


 マギウスさんとレイラさんが深々と頭を下げてくる。


 正直、僕の心は揺れている。

 別に身を固めるのが嫌だというわけじゃない。


 これからもずっと、みんなと一緒に暮らす事は寧ろ願ったり叶ったりなわけで……けど。


「……あのぅ、僕の気持ちを正直に言ってよろしいでしょうか?」


「どうかなんなりと」


 イライザ王妃から許可を頂いたので、僕は気を落ち着かせ深呼吸をする。


「これほどまで願われているなんて凄く嬉しいです……けど同時に不安もありまして」


「不安とはなんでしょう?」


「はっきり言うと経済的な部分です。だって同時に五人の娘達を娶るわけですから……ランチワゴンでそれなりの利益はあり、今はなんとかなっていますが、この先子供とか生まれたらと思うとなんとも……はい」


 僕の意見に、国王や王妃から大臣に至るまで周囲から「おお~っ」と声を上げて空気がざわつく。

 そこ、ざわつくところじゃないぞと思った。


「セティは堅実なのですね」


「いや王妃様。お言葉ですが、それが普通でしょ?」


 やっぱり苦労知らずの王族だからズレているんだろうか?

 そのイライザ王妃は「ふむ」と頷き納得してみせる。


「では肝心の花嫁達はどうお考えなのでしょう? 初見の真っ白な貴女も意見をください」


「問われるまでもありません。我はセティ殿と結婚したいと存じます」


「はい、それがわたしの悲願でもあります」


「セティと結婚したいですぅ! 是非お願いしますぅ!」


「迷う余地すらないです。私は最初から心に決めておりました」


「今夜から早速、子作りするネ!」


 カリナ、フィアラ、ミーリエル、マニーサは各々の想いを打ち明ける。

 パイロンに関しては子作りすることしか言っていない。相変わらずブレない娘だ。


 彼女達の告白に周囲から感嘆の声が漏れた。

 イライザ王妃は嬉しそうに「うん、うん」と頷き納得した様子だ。


「皆の気持ち、しっかり受け止めました。ではどうでしょう。これまでの功績を称え、セティ――貴方に爵位と領土を与えましょう」


「爵位? つまり僕に貴族になれと言うのですか?」


「はい。高貴な貴族であれば複数の妻がおりましても不自然ではありません。既に与える領土も用意しておりますよ」


 確か国に貢献した市民は「準男爵」になれると聞いたことがある。


 しかしなぁ……。


「お気持ちは嬉しいですが、僕にはランチワゴンがあります。いきなり領土を与えられても管理する暇はありませんし、知っているとおり当面はエウロス大陸に向かう予定です」


「管理自体は別の者に任されてはいかがでしょう? 勿論、世直しのため、これまで通りランチワゴンで世界中を回るのもありですよ。きっと困窮する民達は貴方の力が必要となるでしょう」


「はぁ……しかし僕のような者が『準男爵』だなんて……いまいち実感が湧きません」


「はて? セティは何をおっしゃっているのです。貴女に授ける爵位は『伯爵』ですよ」


「ハァッ、伯爵ゥ!?」


 なんだって!? 伯爵ってあれだよね!?

 貴族の中で侯爵の次に偉い中間管理的な立場ッ!

 (注:セティの偏見が含まれています)


 イライザ王妃の話だと、神聖国グラーテカと隣国ウォアナ王国の国境に面して手つかずであった土地が存在し、両国の良好な関係を継続するためにも誰もが納得し得る人物が治める必要があるとのことだ


 そこでグラーテカ国を誇る有力者の娘達であるフィアラとマニーサ、それに隣国の王女カリナに精霊王の娘ミーリエルの夫となる僕ならば適任であるらしい。

 なまじ思い付きからの提案ではないようだ。


「如何でしょう、セティ? これは褒美だけではなく、貴方の力量を評価しての特別待遇です。貴方がグラーテカ国とウォアナ国の領土に名を置くことで、裏側に潜む者達も迂闊に脅かすことはないでしょう。両国の発展に繋がります」


 なるほど、悪党共への牽制の意味もあるってわけだ。

 流石、イライザ王妃。聡明ぶりは健在だ。


 その領土が整備され発展すれば、グラーテカ国とウォアナ国から民達が行き来して、いずれ住むようになる。

 ちょっとした第三国となるかもしれない。


 ん? ちょっと待てよ……だったら、領主となった僕は王様になるかもしれないってことか!?

 いや、それはまだ杞憂ってやつだろう。


 まぁ、どちらにせよ。

 僕としてはイオ師匠から受け継いだランチワゴンさえ運営できればいいわけだし……。


「――わかりました。その提案受け入れさせて頂きます!」


 僕の返答に、女子達を含む全員から歓声が湧き上がった。


「ありがとう、セティ。これで皆も安心して見送ることができるでしょう」


「はい……ですがその前に王妃様と国王様、それに重鎮の皆さん……ちょっとだけ、そっぽを向いてもらっていいですか?」


 僕からの要求に、名指しされたイライザ王妃達は「はぁ、別に構いませんが……」と後ろを向き始めた。

 同時に僕は立ち上がり、一緒にカリナ達にも立ってもらうよう指示する。


 静まり返った謁見の間で、僕と女子達は互いに向き合った。


 すっと深く息を吸い込む。


 そして――。


「カリナ、フィアラ、ミーリ、マニーサ、パイ! 僕はみんなのことを大好きです! 心から愛しています! だから僕と結婚してください!」


 彼女達に向けてお辞儀し、両手を伸ばした。


 瞬間、ふわっときめ細かで柔らかい複数の手が優しく、さらに強く握られる。


 顔を上げると、女子達は瞳を潤ませて僕の両手を握ってくれていた。


「はい、セティ殿。ずっとお慕いしておりました」


「わたくしの方こそ喜んで。愛しています、セティさん」


「勿論だよ、セティ。大好き」


「嬉しい……ありがとう、セティ君。私こそ大好よ、愛しているわ」


「えへへへ、アタシもセティを愛してるヨ。ようやく堂々と子作りできるネ」


 カリナ、フィアラ、ミーリエル、マニーサ、パイロンも了承してくれた。

 みんな泣きそうな顔を浮かべ、既に涙が零れ落ちている。


 僕も嬉しい。

 ようやく想いを打ち明けられ、みんなと通じ合えて涙が溢れそうだ。


 そんな中。


 ヒナが何気にくいくいと、僕のズボンを引っ張ってくる。


「どうした、ヒナ?」


「ねぇ、セティお兄ちゃん……ヒナのことは?」


 不安そうに見つめてくる。

 自分だけ名指しされず、何も言われてないからとても悲しそうな表情だ。

 別に除け者にしているつもりはなかったんだけど……。


「勿論、ヒナのこと大好きだよ。これからもずっと一緒だからね」


「うん、ヒナもセティお兄ちゃんのこと大好き!」


 ヒナは向日葵のような満面の笑顔で、僕の足に抱きついてくる。

 相変わらず可愛くて愛しい……ずっとヒナを守っていこうと誓う。



 こうして僕と彼女達の結婚が決まり、三日後に挙式を上げることになった。


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