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第67話 グローヴへの尋問

「よし! それじゃ、グローヴと対面して尋問しよう。パイとポンプルも一緒ついて来てくれ。後のみんなは、リーエルさん達に協力して復興を手伝ってほしい」


「わかったネ。ちゃっちゃと終わらせるがヨロシ」


「うぃっす、セティ様。どこまでもついて行くっす」


 パイロンとポンプルは快諾する。

 他の女子達も「わかったわ」と了承してくれた。


 こういうのは専門である暗殺者アサシン同士で話し合った方がいい。

 カリナ達は心が綺麗すぎて、きっとついて行けない場面もあるかもしれないからな。



 それからエルフ兵の案内で地下の牢獄へと降りて行く。


 牢屋には魔法が施された縄で手足を縛られた一人の男がいた。

 頭部に髪の毛のない痩せた体形、髪の毛と眉毛のないスキンヘッドで目立った特徴のない中年の男。

 それが組織ハデスの幹部であり変装術の達人として知られた、グローヴの素顔だ。


「誰だ?」


 グローヴは身を起こし、薄暗い地下牢の僅かな灯りに照らされた僕達を凝視している。

 奴にはこちら側の姿が見えていない様子だ。


「久しぶりですね、グローヴさん。僕のことは覚えていますか?」


「……その声は、『死神セティ』か?」


 声を震わしながら問うグローヴに、僕は無言で頷いた。


「あの時はお世話になりました。貴方には今でも感謝しています」


 ハデスに在籍していた頃、僕が『偽勇者アルタ』として変装できたのも、グローヴが変装を施し声質や癖など細やかな指導してくれたからだ。


 けど僕は戦闘専門の暗殺者アサシン

 身を潜める隠密任務なら問題ないが、長期間他人に扮するのはボロが出やすかったと思う。

 案の定、カリナ達にあっさり見破られて黙認してくれた経緯があった。


 グローヴは強気に「フン!」と鼻で笑う。


「組織の命令だ。ただ言われるがまま協力したまでのこと……殺すならとっとと殺してくれ。どうせ任務失敗した時点で処分対象だ」


「グローヴさんの任務とはなんだったんですか?」


「お前からヒナという娘を奪い、倭国の皇帝に突き出し恩を売ること……なんでも闇九龍ガウロンがお前と手を組み、ヒナから対象を外したと言う情報だ。それで組織ハデスが動くことで、あわよくばエウロス大陸の裏社会の利権を奪い取るという目論みらしい」


「その情報はどこまで流れている?」


「ボス伝手に極一部の幹部だけだ。繊細な話でもあるからな……組織ハデスとて、闇九龍ガウロンと正面から遣り合うつもりは毛頭ない。あくまで極秘事項だ」


「極秘事項ね……ケール、お前は知っていたのか?」


『いえ存じておりません。我ら『四柱地獄フォース・ヘルズ』の目的は、あくまでセティ様と戦うことでありました。あの忌々しい憎き糞ビッチ共……いえ、美しきお仲間の皆様が介入されたことで失敗に至りましたが』


 ケールめ。所々彼女達の恨み節は聞かれるが、まぁいいだろう。


 どうやら僕が『四柱地獄フォース・ヘルズ』と戦っている間に、ヒナを奪い去る算段だったようだ。

 最高幹部すら囮にするなんて……モルスの奴め、なんて強かで周到な奴なんだ。


「ハデスとの全面戦争ネ……アタシ達、闇九龍ガウロンは上等ネ! ただ今は他組織の対面上、隠密に活動しているだけヨ!」


「その小娘は誰だ? その口振りと長袍チャンパオといい、闇九龍ガウロンの下っ端暗殺者アサシンか?」


 グローヴからは逆光でパイロンの顔までは認識できないでいる。


「下っ端違うヨ! アタシは闇九龍ガウロンのボス、白龍パイロンネ!」


「へーっ」


「お前、まるで信じてないネ! あいやーっ!」


 パイロンは袖から鉄扇を取り出し、グローヴに襲い掛かろうとする。

 僕はすかさず、彼女を羽交い絞めにして抑制させた。

 自分からぶっちゃけて虚言扱いされるとは……まぁパイロンだから仕方ないけど。


「おちついて、パイ。この子の話は本当ですよ、グローヴさん。そしてワケあって僕も闇九龍ガウロンの支援を受けているのも事実だ」


「……そうか。しかし今の俺には関係ない。殺すなら早く殺してくれ」


 任務が失敗したことで、すっかり自暴自棄になっている。

 おかげで口が軽く尋問も楽に進んでいるがな。


「なら最後に聞きたい。幹部の貴方はボスの……モルスの正体を知っているのか?」


「さぁな……何度も姿を変える神出鬼没以外は知らん。俺はそれに憧れて変装術を極め、あの方に恩寵ギフトスキルを頂いたんだ。それでも遠く及ばないと思っている」


 そうか……まぁ幹部だろうと、モルスの正体を探るのは最大の禁止タブーだ。

 僕でさえ厳守して命令に赴くまま淡々と暗殺者アサシンを続けていた。


「……わかりました。お話してくれて感謝します。それでは」


「待て、死神……俺を殺さないのか?」


「……もう僕を追わないのであればキルする対象じゃない。任務失敗した時点で暗殺者アサシン稼業にも戻れないでしょう。後はここの責任者であるリーエルさんに処分をお任せいたします」


 グローヴは誰かエルフ族の誰かを殺めたわけじゃない。森を焼いた実行犯でもないからな。

 きっと極刑にはならず何かしらの刑罰とペナルティが与えられるに違いない。

 万一脱走を図っても組織ハデスに始末されるのがオチだ。

 たとえ幹部だろうと容赦ないのが組織ハデスのルール。


 グローヴは「フッ」と口元を緩める。


「……どうやら、ここで過ごした方が長生きできそうだ。どんな形にせよ、第二の人生を歩むのも悪くない。特に貴様を見ているとな、セティ……」


「僕を?」


「ああ、すっかり感情が豊かになっている……顔はよく見えんが口調だけでも十分に伝わるよ。以前は無感情で冷徹な創られし人形ゴーレムのような奴だった。今のお前は少しだけ悪くないと思っている」


「……そうですか。それじゃ」


 僕はそれ以上何も言わず地下牢から出た。

 グローヴの言葉に嬉しさを噛みしめながら。

 失った感情が戻り表情が豊になったのも、全て彼女達のおかげだ。


「……セティ様、あのままグローヴを放置して良かったんっすかねぇ?」


 ポンプルが聞いてきた。

 確かに更生したかのように見せて、密かに脱走を企てている可能性もある。

 誰かを人質にするなど凶行に出たら、ここで暮らすエルフ族に迷惑を掛けてしまうだけだ。

 そならいっそ、僕の手で瞬殺してやるのも慈悲という考え方もあるかもしれない。

 だが任務とはいえ昔世話になった奴でもある……僕やポンプルのように更生するならチャンスを与えてあげたい。


 そう判断に迷っている中、案内しているエルフ兵が不意に立ち止まる。

ちらりと僕の方を見つめてきた。


「セティ様……我ら誇り高きエルフ族にとっては裏技となりますが、重罪を侵した捕虜への刑罰として《隷属魔法》を施し永久的に支配する秘術がございます。元精霊女王であるリーエル様なら容易いこと。あやつに更生する意志があるのなら、我らの方でそのように進言いたしましょう」


 要するにグローヴの罰として奴隷にすると言う。

 禁を破り反抗したら精霊に呪われて死に至るらしい。


 まぁここにいた方が奴も安全だし贖罪にもなるだろう。

 今後の働きさえ認められれば解放されるかもしれない。


 後はグローヴ次第ってところだな。


「はい、お任せいたします。教えて頂きありがとうございます」


 こうして、グローヴの件は解決した。



 残るは――


 僕は鷲掴みしている骸骨を持ち上げ、顔を近づけて見据える。


「お前だな、ケール」


『え? 私ですか?』


「そうだ。みんなと合流したら、モルスの『感染源』について、お前の知っている限りを話してもらうぞ。拒否は許さないからな」


 鷲掴みにする握力を強め、鋭い眼光で睨んでやる。

 頭蓋骨にピシっと僅かな亀裂が入った。


『は、はい~! 勿論全てお話するであります! ですからどうか、お指の力を緩めてください、セティ様ぁぁぁぁヒェェェェイ!!!』


 すっかり忠実になったな。

 ヘイトじゃなくても「ヒェェェェイ」って叫ぶのか。

 しかしそんな姿になっても、生き長らえたいという執念だけは認めるよ。


 こうして仲間達と合流し、今度は『魔賢者』のケールに対し尋問することにした。

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