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第66話 本当の仲間

 妙なことが起こった。


 マニーサが『四柱地獄フォース・ヘルズ』の一人にして、小人妖精リトルフの女ことパシャを《凍結魔法》を施していたと同時に、奴から断末魔のような絶叫が発せられたのだ。


 しかも小さな身体を痙攣させ、戦慄や恐慌などの精神的なストレスとかとも違う。

 致命傷を負い、死ぬ寸前と同じ状態に見える。


 魔法を施していたマニーサでさえ詠唱を止めてしまうほどだ。


 束の間、パシャの動きがピタッと止まる。

 白目を向いて、皮膚が紫色に染まっていく。


「セティ君……これって?」


「僕が調べてみよう。パイ、スキルを解除してくれ」


 僕の指示で、パイロンは「わかったネ」と返答し《|牢獄の烙印《プリズン・スティグマ》》の結界を解いた。


 パシャは前のめりで倒れ、ぴくりとも動かない。

 僕は近寄り、奴の身体に触れて状態を確認した。


「――死んでいる。あれほど不死身だったのに……一見して外傷はなさそうだけど」


「あいや~、まさかショック死ネ?」


「パイ、仮にも最高幹部である『四柱地獄フォース・ヘルズ』の一人だ。そんなしょぼい死に方なんてしないさ……僕なら怯えた振りして打開策を考えているね」


 あるいは死んだフリをしてやり過ごすかだ。

 けど、パシャは本当に死んでいる。そこは間違いないだろう。

 一体なんだっていうんだ?


 僕は立ち上がり、彼女達の方に視線を向ける。


「とりあえず、『神殿』に戻ろう! ヒナのことも心配だしね!」


 最後の情けで、こいつらの埋葬くらいはしてやるか。

 僕と同じモルスの『子供達』であるよしみでな……。



 それから事を終わらせ、僕達はエルフ達の集落地である『遺跡の神殿』に戻った。


 が、何やら騒がしいことになっている。

 なんでも負傷したエルフ兵の中に組織ハデス暗殺者アサシンが紛れ込んでいたらしい。


 暗殺者アサシンの名は、グローヴ。


 上級幹部の一人であり、変装術の達人である。僕も良く知る男だ。

 何せ戦闘専門の僕が『偽勇者』として成り代われたのも、グローヴが変装を施し指導してくれたからに他ならない。


 まさか『四柱地獄フォース・ヘルズ』以外にも、奴まで導入されていたとは……モルスめ。


 そのグローヴの変装を偶然見ていたポンプルが、リーエルさんに報告したことで発覚し《|眠り魔法《スリープ》》で眠らせようとしたところ、奴はヤケを起こしたのか自ら正体を明かして近くにいたヒナに襲い掛かったそうだ。


 ポンプルが助けようとするも逆襲に遭い、ヒナはその隙に拳銃ハンドガンでグローヴを撃ち再起不能にしたということらしい。


 現在グローヴは辛うじて生かされたまま拘束され、眠らされた状態で牢獄に閉じ込められている。


「ポンプル、大丈夫か?」


 僕はヒナを助けてくれた立役者とも言える小人妖精リトルフの安否を気遣う。

 なんでもグローヴが放った小剣ナイフを右胸に受けてしまったらしい。

 普通なら致命傷だが、ノーダメージでピンピンしている。


 そのポンプルは僕達の前に立ち、何を思ってか両膝を床について潔い土下座を披露した。


「セティ様、それに姉さん達ィ! 今まで騙して申し訳ないっすぅぅぅ!」


「騙していた? そうか……やっぱりお前、まだ組織ハデスから抜けてなかったんだな」


「……やっぱりって? セティ様、オイラの正体に気づいてたんっすか?」


「なんとなく警戒していた程度だ。それで、どうしてヒナを助けてくれたんだ?」


「セティ様と一緒にいること……いや誰かのために働くことが楽しくなったからっす。特にランチワゴンとか……パッとしない暗殺者アサシン稼業より余程充実した気持ちだったっす。だから……」


 ポンプルは顔を上げて、胸元から何かの『塊』を取り出し床に置いて見せた。

 まるで臓器のような形をした物体であり、生き物の死骸にも見えてしまう。

 丁度、真ん中に何かで刺したような溝があった。


「なんだ、それは?」


「……『四柱地獄フォース・ヘルズ』の一人で、オイラと同じ小人妖精リトルフ族であるパシャ姐さんの『心臓』っす」


 心臓だと? これが?


 ポンプルが言うには、正確にはパシャの魂を封じ込めた『核』のような代物だとか。

 総称して『心臓』と呼び合っているらしい。


「自分じゃ実感してないっすけど、オイラにも《悪運》という恩寵ギフト系スキルが宿されており、その能力に目を付けたパシャ姐さんが自分の『心臓』をオイラに預けて守らせていたっす」


 あの《|歪空間領域《ディストーション》》というスキル能力で、自分の『魂』を身体から抜き出し魔法で加工させてポンプルに持たせていたようだ。

 《|生体機能増幅強化《バイオブースト》》の作用もあり、『魂』さえ消滅しなければ常に肉体は蘇生し続ける。

 さらにモルスのウイルスを利用し、より蘇生に対する増幅強化ブースト力を身に着け、あのような不死身の身体となったらしい。


「そしてグローヴの攻撃を受けてしまい『心臓』が壊された。それでパシャは凍結される前に死んでしまったということか……」


「そういうことっす。これでずっと拘束されていたオイラも解放されたっす……同時に完全に組織ハデスの裏切り者に認定されてしまったっすけど」


 拘束か……きっと同種族でスキル持ちって理由から、パシャに目を付けられていたのだろう。

 人懐っこいポンプルの性格もあり、傍から見れば姉弟関係に見えてしまうが、本人の口振りから何かしらの無理強いや脅迫があったかもしれない。


「ポンプル、お前がモルスに与えられていた任務はなんだったんだ?」


「はい……セティ様と同行し、逐一パシャ姐さんに居場所を知らせることっす。グローヴはたまたま見かけ阻止したっす……セティ様を始め、ヒナちゃんも姉さん達も、こんなお漏らしのオイラをバカにせず優しくしてくれたからっす」


 まぁ常に警戒はしていたけどな。

 けど認めるところは認めていた……器用に雑用をこなしていたところと、多くの客を魅了する吟遊詩人としての才能だ。


「わかった。とにかくヒナやみんなを守ってくれたことに感謝する……だから頭を上げてほしい」


「……セティ様、こんなオイラを許してくれるんっすか? セティ様ならオイラ、キルされても仕方ないと思っているっす。けどケジメのため、こうして真実を話し土下座して詫びたっす」


「何度も言っているだろ? 僕がキルするのは悪党と組織ハデス暗殺者アサシンだけだと……完全に組織を抜けた以上、ポンプルは対象外だ。これからは自分のために好きに生きるといい。良識の範囲でな」


「だったらオイラを召使いとして雇ってくださいっす! オイラも贖罪のため、セティ様と世界を回って人助けがしたいっす!」


 立ち上がり深々と頭を下げてみせる、ポンプル。

 その潔い姿勢から嘘偽りのない誠意すら感じられる。


 僕は「ふむ」と鼻を鳴らし、後ろに立つ美少女達に視線を向けた。

 ヒナを始め、カリナ達みんなが微笑を浮かべ頷いている。

 警戒心の強いシャバゾウも吠えていない。


 僕は頷いた。

 すっと手を差し伸べる。


「わかった、ポンプル。共に歩むことを認めよう」


「ありがとうっす! セティ様ぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁん!!!」


 ポンプルは僕の手を両手で握り締めながら号泣した。

 これで本当の仲間となったわけだ。


「ヒナもよく頑張ったね。初陣ってところかな?」


「うん……凄く怖かったけど、なんとか戦えたよ」


 普段より控え目な笑顔を向けてくれる。


 本当ならこんな幼い子に戦わせたくない。そんな世界を築きたいと思っている。

 だけどヒナも「狙われる側」である以上は机上の空論だ。

 自信を守るためにも戦う術は身につけなければならい


 周囲の報告を聞く限り、ヒナには才能を感じる。

 もっと腕を磨き経験を積めば、いずれ一人で身を守ることもできるだろう。


 僕から巣立ち日も来るのだろうか……それはそれで凄く寂しいけど。



「セティ様、グローヴという輩の《|眠り魔法《スリープ》》を解除いたしました。尋問することは可能です」


 護衛のエルフ兵が報告してくれる。

 僕が頼み、リーエルさんが命じてくれたのだ。


「マニーサ。ケールの頭蓋骨の解凍は終わっている?」


「ええ、この通りよ」


 マニーサは解凍された頭蓋骨を差し出し、僕は「ありがとう」と受け取る。


『げぇ! 死神セティ!? ヒェェェェイ!!!』


「うるさい黙れ。このまま握り潰して粉砕するぞ……それでも生きているなら、フィアラに頼んで完全天昇だからな」


『わかりました。私は貴方様の忠実な下僕です。どうかなんなりと申してください』


 ヘイトの塊だった自称「魔賢者」様が随分と素直になったもんだ。

 相当マニーサ達にヤキを入れられ恐怖を植え付けられたのだろう(笑)。

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